# 第9話 地図の値段と、雨漏りの直った部屋
# 第9話 地図の値段と、雨漏りの直った部屋
清書には、まる一晩かかった。
院長先生に頼んで、帳簿用のきれいな紙を一枚分けてもらった。炭ではなくインクとペンを使って、下書きの線を一本ずつ写していく。十歩で指一本。分かれ道には印。魔物が出た場所には小さく×。光苔が少ない暗い場所は、斜線で塗りつぶした。
途中で、ルルが紙の上を歩こうとして、慌てて抱き上げた。インクの足跡がついたら、全部やり直しだ。
「ルル、今日だけは勘弁して」
「……るる」
不満そうに鳴いて、ルルは俺の膝の上で丸くなった。
夜が明けるころ、ようやく一枚の地図が完成した。
窓から差し込む朝の光にかざしてみる。苔むす洞の一階が、細い線で、紙の上にくっきりと浮かび上がっていた。
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「……これ、レン君が描いたの?」
ギルドのカウンターで、リゼさんは地図を手にしたまま固まっていた。
「はい。ガルドさんに教わりながら」
「ガルドさんに教わって、っていうレベルじゃないわよ、これ」
リゼさんは、カウンターの奥の棚から古い地図を取り出して、俺の地図と並べた。ガルドさんが持っていたのと同じ、かすれた線の羊皮紙だ。
「見て。こっちの古い地図だと、ここは行き止まりになってるでしょう。でもレン君の地図だと、奥にちゃんと道が続いてる。それに、距離も分かれ道の角度も、すごく丁寧に描いてある」
「方向感覚ってスキルのおかげなんです。ガチャで出て」
「またガチャなのね……」
リゼさんは、感心したような、あきれたような顔で笑った。
「ちょっと待っていて。買い取りの担当に見てもらうわ」
リゼさんが奥の部屋に入っていくと、隣でトーマがひそひそと言った。
「なあ、売れるかな」
「分からない。でも、銅貨十枚くらいになったら嬉しいな」
小魔石三つ分。それだけでも、十分だった。
しばらくして、リゼさんが戻ってきた。後ろには、テーブル席で酒を飲んでいたはずのガルドさんもいる。
リゼさんは、カウンターの上に、一枚の硬貨を置いた。
銀色に光っていた。
「苔むす洞一階の地図。ギルドで買い取らせてもらいます。銀貨一枚」
「…………え」
銀貨一枚。
銅貨にすると、百枚だ。
「ぎ、銀貨!?」
トーマの声が裏返った。テーブル席にいた冒険者たちが、何人かこっちを振り向く。
「ちょ、ちょっと待ってください。地図一枚に、そんなに?」
「そんなに、なのよ」
リゼさんは、まじめな顔になって言った。
「苔むす洞は、見習いさんが最初に入るダンジョンでしょう。毎年、何人かが中で迷って、捜索隊を出しているの。運が悪ければ、怪我をすることもある。正しい地図があれば、それがぐっと減るわ」
「ギルドで写しを作って、見習いに配る」
ガルドさんが、腕を組んだまま言った。
「銀貨一枚で、迷うやつが減るなら安いもんだ」
俺は、カウンターの上の銀貨を見つめた。
指先でそっと触れると、ひんやりとしていた。生まれて初めて触る、銀貨だった。
「それとね、レン君」
リゼさんが、にっこりと笑った。
「もしよければ、二階と三階の地図もお願いしたいの。もちろん、ガルドさんと一緒に行くことが条件だけれど」
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その日の帰り道、ギルドの出口で、知らない二人組に声をかけられた。
「なあ、お前が地図の子か?」
一人は、俺より少し年上の、がっしりした男の子だった。腰に、使い込まれた木の槌を下げている。もう一人は、背中に短い弓を背負った、そばかすの女の子。
「えっと……地図の子?」
「さっき、ギルドで銀貨もらってただろ。苔むす洞の地図を描いたって」
「ああ、はい。そうです」
「やっぱり!」
男の子が、ぱっと顔を明るくした。
「俺はダン。十四歳で、見習い三か月目。こっちはニコ」
「ニコです。十三歳。弓のスキル持ち」
ニコさんが、ぺこりと頭を下げた。
「わたしたち、先月苔むす洞で迷っちゃって。半日くらい出られなかったの。ガルドさんに見つけてもらったんだけど」
「あれは怖かった……」
ダンさんが、遠い目をした。
「だからさ、お前の地図、すげえ助かるんだよ。ギルドで写しが配られたら、俺たちもらうから。ありがとな!」
ダンさんは俺の肩をばしばしと叩いて、ニコさんと一緒に手を振りながら去っていった。
俺は、叩かれた肩をさすりながら、二人の背中を見送った。
「……ありがとう、だって」
「よかったな、レン」
トーマが、自分のことみたいに嬉しそうに笑った。
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銀貨は、半分を院長先生に渡すことにした。
最初は、やっぱり「受け取れない」と言われた。でも、俺には考えがあった。
「二階の端の部屋の、雨漏りを直したいんです」
院長先生は、はっとしたように口をつぐんだ。
二階の端の部屋は、雨が降るたびに天井から水が落ちてくる。今は、小さい子たち三人がそこで寝ている。雨の夜は、たらいを並べて、布団を部屋の隅に寄せて寝ている。
「ベルンさんに聞いたら、板と釘なら、銅貨五十枚くらいでそろうって」
「……レン」
院長先生は、俺の手の中の銀貨を、しばらく見つめていた。
それから、両手でそっと俺の手を包んで、「ありがとう」と言った。
ベルンさんの店で銀貨を両替して、板と釘を買った。ベルンさんは「ひだまりの家の屋根か」とうなずいて、なぜか釘を倍の量入れてくれた。
屋根の修理は、次の休みの日にやった。
驚いたことに、ガルドさんが手伝いに来てくれた。「ガキだけで屋根に上らせるわけにいかん」と言って、大きな体でひょいと屋根に上ると、腐った板をはがして、新しい板を手際よく打ちつけていった。
「ガルドさん、大工もできるんですか」
「冒険者は、なんでもやる」
ぶっきらぼうな返事だったけれど、トンカンと釘を打つ音は、どこか楽しそうに聞こえた。
小さい子たちが下から「がんばれー!」と声援を送る。院長先生は、お礼にと、ハムの残りでサンドイッチを作ってくれた。ガルドさんはそれを三つも食べた。
その夜、雨が降った。
二階の端の部屋の天井からは、一滴も落ちてこなかった。
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残りの銅貨五十枚で、小魔石を十六個買った。ダンジョンで手に入れた魔石と合わせて、二十二個。ガチャ二回分だ。
一回目。
ころん、と転がり出たカプセルは、青かった。
> **【R】 革の小盾**
> 丈夫な革を重ねた、小さな盾。
> 腕にくくりつけて使う。軽い。
手の中に、茶色い革の丸い盾が現れた。俺の腕から肘くらいまでの大きさで、思っていたよりずっと軽い。
俺は、それを持ったまま、隣のトーマに向き直った。
「はい」
「……え?」
「トーマの分」
トーマは、目をぱちぱちさせた。
「いや、待て待て。レンのガチャで出たやつだろ。レンが使えよ」
「俺は後ろから石を投げるから、盾はあんまり使わないよ。前に出るのはトーマだろ」
スライムを相手にしているうちはいい。でも、ダンジョンでは、洞窟コウモリや角ネズミがトーマに飛びかかってくる。木剣一本で、それを全部防ぐのは大変だ。
ガルドさんは言っていた。遠くから当てるやつがいると、前に出るやつが安心して戦える。
だったら、前に出るやつが安心できるようにするのも、俺の役目だ。
「それに、約束しただろ。すごいのが出たら見せるって」
「見せてくれって言ったんだよ。くれって言ってねえよ」
トーマは、そう言いながら盾を受け取った。
腕にくくりつけて、軽く構えてみる。それから、何度か盾を前に突き出して、首をかしげて、また構えた。
「……すげえ、軽い」
「似合ってるよ」
「そうか?」
トーマは、照れくさそうに鼻の頭をかいた。それから、小さな声で「ありがとな」と言った。
二回目は、白いカプセルだった。
> **【N】スキル「生活魔法:着火」**
> 指先に、小さな火を灯せる。
> ろうそく一本分くらい。
「着火……」
指先に意識を向けると、ぽっと小さな火が灯った。ろうそくの炎くらいの、小さな火。
「おお、魔法だ!」
トーマが身を乗り出した。
「火魔法じゃん、レン!」
「いや、着火だって。たぶん、かまどの火をつけるくらいしかできないよ」
「十分すげえって。院長先生、毎朝火打ち石で苦労してるだろ」
そう言われて、はっとした。確かに、院長先生は毎朝、冷えた手で火打ち石をかちかちと鳴らしている。
「……明日の朝から、俺がかまどの火をつけようかな」
「それがいい」
足元で、ルルが俺の指先の小さな火を、不思議そうにじっと見つめていた。
(第9話 終わり)
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**【ガチャ記録】第9話まで**
ガチャを授かってから 39日目 / ガチャLv.2
回した回数:合計28回(無料20回・魔石8回)
今回出たもの
- 魔石ガチャ:【R】革の小盾、【N】スキル「生活魔法:着火」
- 無料ガチャ:【N】木のコマ、【N】干しいも、【N】釘一袋、【N】手ぬぐい、【N】紙の束
これまでに出たもの
- 特別枠【祝福の一回】:【N】子猫
- スキル:小石投げ+2、方向感覚、生活魔法:着火
- 装備・道具:【R】革の小盾
- 食べ物・レシピ:【R】大きな燻製ハム(孤児院の晩ごはんに)、【N】じゃがいも(一袋)、【N】乾燥豆(一袋)、【N】干しいも
- そのほか:【N】革の小物袋、【N】猫じゃらし(ルルの宝物)、【N】塩一袋×2、【N】包帯×2、【N】毛糸玉(ルルの宝物)、【N】木のスプーン、【N】縫い針と糸、【N】手ぬぐい×2、【N】ボタン一袋、【N】石けん、【N】紙の束×2(地図の下書きに)、【N】炭の棒、【N】木のコマ(小さい子たちに)、【N】釘一袋




