# 第7話 ひだまりの家に、一品増えた日
# 第7話 ひだまりの家に、一品増えた日
見習いになって、十日が過ぎた。
朝はスライム、昼からは青葉草。日が傾いたら、どんなに稼げそうでも帰る。ガルドさんの決まりを守りながら、俺とトーマは毎日草原に通った。
小石投げ+1になってからは、俺一人でもスライムの核にひびを入れられるようになった。トーマがとどめを刺す。逆に、トーマが先に突いて、俺がひびを入れることもある。二人で、一日に二十匹近く倒せる日も出てきた。
それでも、魔石は三匹に一匹。一日に六、七個がいいところだ。
「ガチャって、ほんとに魔石を食うよな」
帰り道、トーマがしみじみと言った。
「うん。前の……いや、なんでもない」
前世のガチャも石を食った、と言いかけて、慌てて口を閉じた。トーマは気にした様子もなく、「腹減ったなー」と空を見上げていた。
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その夜、俺は布団の中で、ずっと考えていたことを整理した。
ガチャを回したい。もっと回して、もっと強くなりたい。それは本当だ。
でも、それだけじゃだめだと思った。
この十日間、俺は毎朝、院長先生が台所で鍋をのぞき込んで、小さくため息をつくのを見ていた。野菜の切れ端を集めてスープを作り、黒パンを一人一枚ずつ切り分ける。自分の分を、こっそり小さく切っているのも知っている。
前世の記憶が戻ってから、そういうことがよく見えるようになった。見えてしまったら、もう知らないふりはできない。
――孤児院に、恩返しがしたい。
祝福の儀の日に思ったことを、もう一度胸の中で繰り返す。
「ルル。次の二回は、みんなのために回そうと思うんだ」
枕元で丸くなっていたルルが、片耳だけぴくりと動かした。
「何が出るかは分からないけど。もし食べ物とか、役に立つものが出たら、院長先生に渡す。外れでも……まあ、そのときはそのときだ」
「……るる」
眠そうな声だった。でも、なんとなく「いいんじゃない」と言われた気がした。
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それから一週間かけて、魔石を二十個貯めた。
薬草の取り分の銅貨は、半分を院長先生に渡すことにした。最初は「あなたが稼いだお金でしょう」と受け取ってもらえなかったけれど、「トーマも渡してるのに、俺だけ渡さないのはおかしいです」と言ったら、困ったように笑って受け取ってくれた。
そして、八日目の夕方。
ひだまりの家の食堂で、俺はみんなの前に麻袋を置いた。
「今日は、二回回します」
「二回!」
子どもたちがどよめく。トーマが「おおー」と拍手をした。台所の入り口で、院長先生がエプロンで手を拭きながら、不思議そうにこちらを見ている。
――ガチャ。
魔石を十個、光の中に入れていく。小さい子たちが、また声をそろえて数えてくれた。
> 所持魔石:10個
> **ガチャを回しますか?** [はい] [いいえ]
四回目。[はい]。
カプセルが回る。今までと同じように、光の粒が渦を巻く。
そして、ころん、と転がり出たカプセルは――青かった。
「青だ!」
ポポが叫んだ。
「白じゃない! レン兄ちゃん、白じゃないよ!」
心臓が跳ねた。白はノーマル。青は、その一つ上。
ぱかり。
> **【R】 大きな燻製ハム**
次の瞬間、テーブルの上に、どすん、と重たいものが現れた。
「…………」
食堂が静まり返った。
テーブルの真ん中に鎮座していたのは、俺の頭よりも大きな、こんがりと飴色に燻されたハムの塊だった。表面がつやつやと光っていて、燻製の香ばしい匂いが、ふわっと食堂中に広がっていく。
> **【R】大きな燻製ハム**
> じっくり燻した、大きなハム。
> 十人以上で食べても余る。
「……お肉だ」
ミリィが、震える声で言った。
「お肉だあああああ!」
子どもたちの大歓声が、食堂の天井を揺らした。
ポポがハムの周りを走り回り、ミリィはハムに抱きつこうとしてトーマに止められている。他の子たちも、目をきらきらさせてハムを囲んでいた。
「レ、レン……これ……」
院長先生が、台所の入り口で口元を押さえていた。
「院長先生。これ、みんなで食べてください」
「でも、これはあなたのスキルで……」
「だから、です」
俺は、院長先生の目をまっすぐに見た。
「俺、ずっと思ってたんです。ここに恩返しがしたいって。ガチャで何が出るかは分からないけど、もし役に立つものが出たら、院長先生に渡そうって決めてました」
院長先生は、しばらく何も言わなかった。
それから、エプロンの端で目元をそっと押さえて、「……ありがとう、レン」と、小さな声で言った。
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「まだ、もう一回あるよ!」
トーマの声で、子どもたちがはっと我に返った。
そうだ。まだ、十個残っている。
俺は残りの魔石を光の中に入れた。五回目。
> 所持魔石:10個
> **ガチャを回しますか?** [はい] [いいえ]
[はい]。
カプセルが回って、ころん。
白。ノーマルだ。
ぱかり、と開くと、俺の手の中に、両手で抱えるほどの麻袋が現れた。中をのぞくと、ごろごろとした丸いものがぎっしり詰まっている。
> **【N】 じゃがいも(一袋)**
> ほくほくのじゃがいも。
> 煮ても焼いてもおいしい。
「じゃがいも!」
「ハムとじゃがいも!」
さっきほど派手ではないけれど、子どもたちはやっぱり喜んでくれた。院長先生が「ハムと一緒に焼いたら、きっとおいしいわね」と笑う。
そのとき、目の前の画面に、見たことのない表示が浮かび上がった。
> **【ガチャレベルが上がりました】**
> **Lv.1 → Lv.2**
> ・一日一回、魔石なしでガチャを回せるようになりました。
> ・排出されるものの種類が増えました。
「……レベルが、上がった」
思わずつぶやいた。
ガチャを回した回数。それと、たぶん、何か大事なこと。どういう仕組みなのかはまだよく分からないけれど、ガチャそのものが、少し強くなったらしい。
一日一回、魔石なし。
前世でいう、毎日の無料ガチャだ。
「レン兄ちゃん、どうしたの?」
「ガチャがね、ちょっとだけ強くなったんだ。明日から、毎日一回、魔石なしで回せるんだって」
「すごーい!」
今日の分の無料ガチャも、もう回せるみたいだった。せっかくなので、そのまま回してみる。
ころん。白。
ぱかり。
> **【N】 猫じゃらし**
俺の手の中に、ふさふさの羽根がついた細い棒が現れた。
「……猫じゃらし」
その瞬間。
テーブルの下で寝ていたはずのルルが、弾かれたように飛び出してきた。空色と金色の目が、まんまるに見開かれている。視線は、俺の手の中の猫じゃらしに釘付けだった。
試しに、ちょっと揺らしてみる。
ルルの体が、ぎゅっと低く沈んだ。お尻がふりふりと揺れる。
そして、跳んだ。
「うわっ」
ルルは猫じゃらしの羽根に飛びつき、着地して、また飛びついて、テーブルの脚にぶつかって、何事もなかったようにまた飛びついた。
食堂が、また笑い声でいっぱいになった。
「ルル、すごい跳ぶ!」
「わたしもやりたい! レン兄ちゃん、貸して!」
猫じゃらしは、あっという間に子どもたちの間を回り始めた。ルルはその後を、夢中で追いかけていく。
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その夜の晩ごはんは、ハムとじゃがいもの重ね焼きだった。
院長先生が、分厚く切ったハムとじゃがいもを鉄鍋に並べて、こんがりと焼いてくれた。じゅうじゅうと脂のはじける音と、燻製の香りと、じゃがいもの甘い匂い。
「いただきます!」
みんなの声が、いつもより大きかった。
一口食べると、ハムの塩気とじゃがいものほくほくした甘さが、口いっぱいに広がった。
「うまっ……!」
トーマが目を閉じて、天井を仰いでいる。ポポは両手にフォークを持って、院長先生に一本取り上げられていた。ミリィは口の周りを脂でてかてかにしながら、「おいしいね、おいしいね」と何度も言っていた。
いつもの晩ごはんより、一品増えただけ。
それだけなのに、ひだまりの家の食堂は、今までで一番明るかった。
ふと見ると、院長先生がフォークを止めて、子どもたちの顔をひとりひとり眺めていた。その目が、少しだけ潤んでいるように見えた。
院長先生と目が合う。院長先生は、何も言わずに、にっこりと笑った。
それだけで、十分だった。
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晩ごはんのあと、俺は縁側に座って、夜の空を見上げた。
隣では、遊び疲れたルルが、猫じゃらしを抱きかかえるようにして眠っている。
ガチャを授かってから、まだ一か月もたっていない。出てきたのは、子猫と、小石投げが二つ、革の小物袋、ハムと、じゃがいもと、猫じゃらし。
剣も魔法も出ていない。冒険者としては、まだまだ全然弱い。
でも、外れだとは、もう思わなかった。
「ルル。明日から、毎日一回ガチャが回せるんだって」
眠っているルルの背中を、そっとなでる。
「何が出るか、楽しみだな」
ルルは寝ぼけたまま「……るる」と鳴いて、猫じゃらしをぎゅっと抱きしめた。
夜風が、ひだまりの家の古い軒先を、優しく通り抜けていった。
(第7話 終わり/第1章 完)
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**【ガチャ記録】第7話まで**
ガチャを授かってから 20日目 / ガチャLv.2
回した回数:合計6回(無料1回・魔石5回)
今回出たもの
- 魔石ガチャ:【R】大きな燻製ハム、【N】じゃがいも(一袋)
- 無料ガチャ:【N】猫じゃらし
これまでに出たもの
- 特別枠【祝福の一回】:【N】子猫
- スキル:小石投げ+1
- 食べ物・レシピ:【R】大きな燻製ハム(孤児院の晩ごはんに)、【N】じゃがいも(一袋)
- そのほか:【N】革の小物袋、【N】猫じゃらし(ルルの宝物)




