第4話 冒険者ギルドと、顔の怖い指導役
# 第4話 冒険者ギルドと、顔の怖い指導役
「二人一緒なら、見習い登録をしてもいいわ」
朝ごはんの席で院長先生がそう言ったとき、トーマはスプーンを握ったまま、勢いよく立ち上がった。
「ついに……! やったああ!」
両手を突き上げたせいで、スプーンからスープのしずくが飛んで、隣のポポの顔にかかった。
「つめたっ!」
「あ、悪い、ポポ!」
「トーマ、座りなさい」
院長先生にたしなめられて、トーマは「へへ」と笑いながら腰を下ろした。それでも顔は、にやけっぱなしだ。
「トーマはずっと、レンが十二歳になるのを待っていたものね」
そうなのだ。トーマは去年「剣術」を授かってから、ずっとギルドに登録したがっていた。それでも院長先生が「一人で行かせるのは心配」と首を縦に振らなかったので、トーマは「じゃあレンと一緒に行く」と言って、一年待っていたらしい。
俺はそれを、昨日の夜に初めて聞いた。
「なんで言わなかったんだよ」と聞いたら、トーマは「だって、言ったらレンが気にするだろ」と、あっさり答えた。そういうやつなのだ。
「ただし、約束がありますよ」
院長先生は指を一本立てた。
「危ないことはしない。暗くなる前に帰ってくる。それから、困ったことがあったら必ず大人に相談すること。いいわね?」
「はい!」
二人の声がそろった。
足元で、ルルが「るる」と鳴いた。まるで自分も返事をしたみたいだった。
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ルーヴェンの冒険者ギルドは、町の東門の近くにある二階建ての大きな建物だ。入り口の上には、剣と盾が交差した看板がかかっている。
扉を押して中に入ると、むわっとした熱気と、にぎやかな声に包まれた。
右手には長いカウンター。左手には酒場のようなテーブル席があって、鎧を着た大人たちが朝から地図を広げたり、肉の串をかじったりしている。奥の壁には、紙がびっしりと貼られた大きな掲示板があった。
「すげえ……」
トーマが口を開けたまま固まっている。俺も、少しだけ同じ気持ちだった。
肩の上で、ルルが落ち着かなそうに尻尾を揺らす。家に置いてこようとしたのだけれど、俺が玄関を出ようとすると必ず足元にくっついてくるので、結局連れてきてしまった。上着のフードの中に入れておけば、大人しくしている。
「こんにちは。ご用件は何かしら?」
カウンターの向こうから、明るい声がした。
栗色の髪を後ろで一つにまとめた、二十歳くらいのお姉さんだった。胸元の名札には「リゼ」と書いてある。
「えっと、見習いの登録をしたいんです。二人です」
「まあ、新しい見習いさんね。ようこそ、ルーヴェン冒険者ギルドへ」
リゼさんはにっこり笑うと、カウンターの下から二枚の紙を取り出した。
「お名前と年齢、それから授かったスキルを書いてね。字は書ける?」
「はい、大丈夫です」
院長先生が、孤児院の子どもたちにはみんな読み書きを教えてくれている。俺は羽ペンを受け取って、名前と年齢を書いた。
そして、スキルの欄で手が止まった。
――ガチャ。
ちょっと迷ってから、そのまま書いた。隠しても仕方がない。
隣でトーマが「剣術」と大きな字で書いて、自慢げに紙を差し出した。リゼさんは二枚の紙に目を通して、俺の紙のところで、ぱちりとまばたきをした。
「ガチャ?」
「はい。教会の神官様も、初めて見るスキルだって」
「そうなの。わたしもここで五年受付をしているけれど、初めて見たわ」
リゼさんは少し身を乗り出した。
「どんなことができるの?」
「魔石を使うと、いろんなものが出てくるみたいです。その……この猫も、そうなんです」
フードの中から、ルルがひょこっと顔を出した。空色と金色の目で、リゼさんをじっと見つめる。
「……かわいい」
リゼさんの声が、一段高くなった。
「えっ、待って、スキルで猫が出てきたの? そんなことってあるの? 触ってもいい?」
「ど、どうぞ」
ルルは少し迷うように鼻をひくつかせてから、リゼさんの指先に額をこすりつけた。リゼさんは「はうっ」と変な声を出して、両手で口を押さえた。
「リゼ。仕事しろ」
低い声が、後ろから降ってきた。
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振り返ると、壁みたいな大男が立っていた。
背は俺の倍近くあるんじゃないかと思うくらい高くて、肩幅はトーマ二人分。短く刈った灰色の髪。左の眉から頬にかけて、大きな古傷が走っている。
正直に言って、めちゃくちゃ怖い顔だった。
トーマが、俺の後ろにじりっと半歩下がった。剣術のスキル持ちなのに。
「ガルドさん。ちょうどよかった、新しい見習いさんですよ」
リゼさんは慌てて背筋を伸ばすと、何事もなかったように俺たちの紙を差し出した。
「こちら、見習いの指導役のガルドさん。昔は腕のいい冒険者だったのよ」
「昔は、は余計だ」
「ルーヴェンのギルドでは、登録したばかりの見習いさんには、最初の一か月、指導役が必ず付き添う決まりなの。ガルドさんは、そのためにギルドに雇われているのよ」
リゼさんは、俺たちに向かって説明してくれた。
「今の時期に登録する見習いさんは、あなたたち二人だけ。だから、しばらくはガルドさんがつきっきりで見てくれるわ」
つきっきり。この怖い顔の人が。
トーマが、俺の背中の後ろで小さく「ひえ」と言った。
ガルドさんは紙を受け取ると、ぎろりと目を通した。そして、俺の紙のところで、やっぱり眉を寄せた。
「ガチャ」
「は、はい」
「知らんスキルだな」
「教会の記録にもないそうです」
ガルドさんは、しばらく黙って俺の顔を見下ろしていた。値踏みするような、でもどこか静かな目だった。
それから、ふっと視線が下がった。俺のフードの中から、ルルが顔を出してガルドさんを見上げていた。
ガルドさんとルルの目が合う。
ルルが、首をかしげた。
「……るる?」
ガルドさんの怖い顔が、ほんの少しだけ、ゆるんだ気がした。
「……スキルの名前で、冒険者の価値は決まらん」
ガルドさんはそう言って、紙をリゼさんに返した。
「決めるのは、生きて帰ってくるかどうかだ。剣術だろうが、ガチャだろうが、それは変わらん」
思わず、背筋が伸びた。
「お前ら、名前は」
「レンです」
「ト、トーマです!」
「レン、トーマ。見習いの決まりを言う。一度しか言わんから、よく聞け」
ガルドさんは太い指を一本ずつ立てていった。
「一つ。見習いの仕事は、採取と町の手伝いが基本だ。最初の十日は、町の外の草原より先には行くな」
「はい」
「二つ。魔物と戦うときは、必ず俺か、俺が許可した大人と一緒にいること。勝手に狩りに行ったら、登録を取り消す」
「はい」
「三つ。日が傾いたら、何をしていても帰れ。どんなに稼げそうでもだ」
「はい」
「四つ。怪我をしたら、隠さずに言え」
最後の一つだけ、ガルドさんの声が少しだけ低くなった気がした。
「以上だ。守れるか」
「守ります!」
二人で答えると、ガルドさんは小さくうなずいた。
「よし。リゼ、登録しておけ」
「はーい。ガルドさん、子どもたちには優しいんだから」
「うるさい」
ガルドさんはそっぽを向くと、のしのしとテーブル席の方へ歩いていった。
その背中を見送りながら、トーマが小声で言った。
「……顔はめちゃくちゃ怖いけど、いい人っぽくね?」
「うん。たぶん、すごくいい人だと思う」
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リゼさんは、俺たちの名前を刻んだ小さな木の札を二枚、カウンターに置いた。
「これが見習いの登録証よ。なくさないでね。見習いの登録にお金はかからないから安心して」
よかった。俺の全財産は、まだ銅貨二枚のままだ。
「それで、レン君は魔石が欲しいのよね?」
「はい。ガチャを回すのに、小魔石が十個いるんです」
「なるほど。それなら、まずはこれね」
リゼさんは掲示板の端から、一枚の紙を外して持ってきた。
> **【見習い向け】薬草採取**
> 南の草原にて「青葉草」を採取。
> 一束(十本)につき 銅貨二枚。
「青葉草は傷薬の材料になるの。南の草原にたくさん生えているから、見習いさんの最初のお仕事にぴったりよ」
一束で銅貨二枚。小魔石一つが銅貨三枚だから、一回ガチャを回すには――十五束。
「……百五十本」
思わず計算が口から出てしまった。リゼさんが「計算が早いのね」と目を丸くする。
「それと、草原にはスライムがいるわ。ガルドさんと一緒なら、見習いでも退治していいことになっているの。スライムを倒すと、小魔石が落ちることがあるのよ」
「本当ですか!」
「ええ。ただし、ガルドさんの言うことは絶対に守ること。いいわね?」
「はい!」
ギルドを出ると、空がずいぶん高く見えた。
ポケットの中の木の札を、指先でなぞる。小さくて、軽くて、でも確かにそこにある。
「レン! 明日から薬草採取だな!」
「うん。百五十本」
「多いな! ……よし、俺も手伝う」
「え? いいよ。それは俺のガチャの分だから」
「どうせ一緒に草原に行くんだから、俺も摘むだろ。それに、次のガチャで何が出るか、俺も見たいし」
トーマは当たり前みたいな顔で言った。
「……ありがとう」
「おう。で、百五十本って、一日で摘めるのか?」
「たぶん無理」
「だよな!」
トーマが笑う。フードの中で、ルルが大きなあくびをした。
ガチャを一回回すのに、百五十本の薬草。前世なら、ボタンを一つ押すだけだった。でも、不思議と嫌な気はしなかった。
自分の手で一本ずつ集めた魔石で回すガチャは、きっと、前世のどのガチャよりも楽しいはずだ。
(第4話 終わり)
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**【ガチャ記録】第4話まで**
ガチャを授かってから 3日目 / ガチャLv.1
回した回数:1回
今回出たもの:なし
これまでに出たもの
- 特別枠【祝福の一回】:【N】子猫
- スキル:小石投げ




