# 第3話 なけなしの単発ガチャと、「それだけ」のスキル
# 第3話 なけなしの単発ガチャと、「それだけ」のスキル
翌朝、俺は朝ごはんの片付けを済ませてから、ひだまりの家を出た。
ルルは、上着のフードの中に入れた。家に置いていこうとしたのだけれど、俺が玄関に向かうと、小さな足でとことこと追いかけてきて、どうしても離れなかったのだ。
「どこ行くんだ?」
玄関で薪を割っていたトーマが、斧を止めて振り返る。
「道具屋。魔石を買いに」
「おっ、いよいよか! 俺も行く!」
「薪割りは?」
「……帰ってからやる」
「院長先生に怒られても知らないよ」
結局、トーマは大急ぎで残りの薪を割り終えてから、走って追いかけてきた。
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ギルドの裏通りにある道具屋「ベルンの店」は、狭くて薄暗くて、棚という棚に何かがぎっしり詰まっている店だった。ロープ、ランタン、乾燥した薬草の束、用途の分からない金具。古い木と油の匂いがする。
「いらっしゃい。……おや、ひだまりの家の坊主たちじゃないか」
カウンターの奥で、眼鏡をかけた白髪のおじいさんが顔を上げた。店主のベルンさんだ。院長先生とは古い知り合いで、ときどき売れ残りの布や釘を孤児院に分けてくれる。
ベルンさんの目が、俺のフードからのぞいている白い頭に止まった。
「なんだ、その猫は」
「昨日の祝福の儀でもらったスキルで、出てきたんです」
「スキルで、猫が?」
かくかくしかじか、と説明すると、ベルンさんは「聞いたことのないスキルだなあ」と首をひねった。ルルは、知らん顔で大きなあくびをした。
「それで、今日は小魔石を十個ください。次は、魔石がいるみたいなんです」
ベルンさんは、カウンターの下の箱から、親指の先くらいの青みがかった石を一つずつ取り出して並べ始めた。
「一つ銅貨三枚。十個で三十枚だ」
俺は布袋の口を開けて、銅貨を一枚ずつ数えながらカウンターに置いた。二十八、二十九、三十。
手元に残ったのは、たった二枚。
ベルンさんは三十枚をきっちり確かめてから、小魔石を十個、小さな麻袋に入れて渡してくれた。
「ほれ。今度は何が出るか知らんが、店の中ではやるなよ。爆発でもされたらかなわん」
「爆発はしない……と思います」
「思います、か。はっはっは」
ベルンさんは楽しそうに笑って、「何が出たか、今度教えに来な」と手を振った。昨日の神官様と同じことを言われて、俺はちょっと笑ってしまった。
店を出ると、トーマが急にそわそわし始めた。
「なあレン、ガチャ、どこでやるんだ?」
「帰ってから、庭でやろうかなって」
「庭だな! よし!」
トーマはぱんと手を叩くと、くるりと背を向けた。
「俺、先に帰ってる! レンはゆっくり来いよ!」
「え、ちょっと、トーマ?」
呼び止める間もなく、トーマは裏通りを駆け抜けていった。昨日の教会の帰りと、まったく同じだ。
……嫌な予感がする。
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ひだまりの家に戻ると、なぜか庭に子どもたちが全員集まっていた。
「レン兄ちゃん、おかえり!」
「ガチャ、するの?」
「今度は、なにが出るの? ねこ? またねこ?」
子どもたちの後ろで、トーマが目をそらして口笛を吹いている。
「……トーマ」
「いや、だってさ。帰ってきたらみんな『レン兄ちゃんは?』って聞くから、つい『今からガチャするぞ!』って」
「つい、ね」
「みんな気になってたんだって。な?」
トーマが振ると、子どもたちが「うん!」と元気よくうなずいた。息がぴったりだ。
縁側では、院長先生まで洗濯物をたたみながら、にこにこしてこちらを見ていた。
まあ、いいか。どうせ隠すようなことでもない。
俺は庭の真ん中の切り株に腰を下ろして、麻袋を膝の上に置いた。フードから出てきたルルが、俺の足元にちょこんと座る。子どもたちが周りにしゃがみこんで、息をひそめた。
心の中で念じる。――ガチャ。
ふわりと、光る画面が目の前に現れた。
「何か出た?」とポポが聞く。
「うん。俺にしか見えないみたいだけど、ここに光る板みたいなのが浮かんでるんだ。絵と字が書いてある」
空中を指さすと、子どもたちが一斉にそこをじっと見つめた。もちろん、誰にも見えない。ミリィが手を伸ばして、俺の指の先の空気をつついている。
> **【ガチャ】 Lv.1**
> 魔石を投入してください。
> 必要数:小魔石 10個 / 1回
> 所持魔石:0個
試しに、麻袋から小魔石を一つ取り出して、画面に近づけてみた。
すると、指先の魔石がふっと光の粒になって、画面の中に吸い込まれていった。
「わっ、消えた!」
子どもたちがざわめく。画面の数字が変わっていた。
> 所持魔石:1個
なるほど。こうやって一つずつ入れるのか。
二つ、三つ、四つ。魔石が光になって消えるたびに、子どもたちが「おおー」と声をそろえる。だんだん楽しくなってきたのか、九個目のときにはみんなで「きゅーう!」と数えていた。
そして、十個目。
> 所持魔石:10個
> **ガチャを回しますか?** [はい] [いいえ]
心臓がどくどくとうるさい。
昨日の虹色のカプセルは、魔石なしの、一度きりのおまけだった。でも今度は違う。自分のお金で買った、自分の魔石で回す、本当の一回目だ。そしてこれを回したら、俺の手元にはもう銅貨二枚しか残らない。
外れたら、どうしよう。
一瞬、指が止まった。
ふと顔を上げると、縁側の院長先生と目が合った。院長先生は何も言わずに、ただ小さくうなずいてくれた。
――外れかどうかなんて、まだ誰にも分からないわ。
「……よし」
俺は[はい]に触れた。
画面の真ん中で、カプセルの絵がくるくると回り始める。光の粒が渦を巻く。
昨日ほどの光ではなかった。白い光が、くるくると、控えめに回っているだけ。
そして、カプセルが一つ、ころんと転がり出た。
色は――白。
ぱかり、と開く。
> **【N】 スキル「小石投げ」**
「……小石投げ」
声に出した瞬間、胸の奥に何かがすっと入ってくる感じがした。温かいような、くすぐったいような。たぶん、スキルが身についた感覚なんだと思う。
画面に説明文が出る。
> **【N】スキル「小石投げ」**
> 小石を、狙った方向にまっすぐ投げられる。
> それだけ。
「……それだけって書いてある」
「それだけ?」
トーマが目をぱちぱちさせた。それから、ぷっと吹き出した。
「いや、ごめん、笑うとこじゃないよな。でも、『それだけ』って」
「いいよ、俺もちょっと笑いそうになった」
縁側で、院長先生まで口元を押さえて肩を揺らしていた。
「レン兄ちゃん、こいしなげって、なに?」
ミリィが首をかしげる。
「石を、まっすぐ投げられるんだって」
「それだけ?」
「それだけ」
ミリィにまで言われてしまった。
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試しに、庭の端の柿の木を狙って、足元の小石を一つ投げてみた。
――あの、幹の真ん中のこぶ。
そう思っただけで、腕がすっと自然に動いた。
石は、自分でも驚くくらいまっすぐに飛んでいった。山なりにもならず、横にもぶれず、吸い込まれるように、こぶの真ん中に。
こつん、と軽い音がした。
「当たった!」
「すごい! まっすぐ飛んだ!」
子どもたちが拍手をしてくれた。もう一回、二回と投げてみる。全部、狙ったところにこつん、こつんと当たる。
ポポが目を輝かせた。
「ぼくもやる! 石なげ大会しよう!」
「大会しよう!」
あっという間に、庭は石なげ大会の会場になった。小さい子たちの石は、柿の木の手前でぽとぽと落ちたり、まったく違う方向に飛んでいったりする。トーマまで参加して、なぜか一番下手だった。
「なんで剣術の俺が一番下手なんだよ!」
「剣術は、剣のスキルだからじゃない?」
「くそー!」
笑い声が、庭いっぱいに広がった。足元では、ルルが、転がってきた石を前足でちょいちょいとつついている。
みんなが楽しそうで、それは嬉しかった。
でも、俺は、自分の手のひらを見下ろした。
狙ったところに、まっすぐ当たる。
当たるけれど、柿の木のこぶに、こつんと当たるだけ。子どもの腕で投げた小石が、魔物に効くとは思えなかった。
銅貨三十枚で、「それだけ」のスキル。
「……これ、何に使えるんだろう」
小さくつぶやくと、足元のルルが、俺を見上げて「るる」と鳴いた。
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その夜、ルルは俺の布団の上で丸くなって眠った。
小さなお腹が、すうすうと上下している。
昨日は、子猫。今日は、小石投げ。
剣も魔法も出ていない。冒険者として強くなれそうなものは、何も。
でも、今日の庭は、ひだまりの家に来てからいちばんにぎやかだった。小さい子たちはみんな笑っていたし、院長先生も笑っていた。トーマなんて、石なげで負けて本気で悔しがっていた。
それだけで、今日は、ちょっとだけ当たりだった気がする。
「おやすみ、ルル」
そっと背中をなでると、やっぱり少しだけ、温かすぎるくらいだった。
院長先生は言っていた。誰も知らないスキルなら、使い方を見つければいい、と。
小石投げの使い道も、きっと、どこかにある。
ただ、それを探すにも、次のガチャを回すにも、魔石がいる。手元に残ったのは、銅貨二枚だけ。
明日からは、魔石を自分で稼がなくちゃいけない。そのためには――冒険者ギルドだ。
(第3話 終わり)
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**【ガチャ記録】第3話まで**
ガチャを授かってから 2日目 / ガチャLv.1
回した回数:1回
今回出たもの
- 魔石ガチャ:【N】スキル「小石投げ」
これまでに出たもの
- 特別枠【祝福の一回】:【N】子猫
- スキル:小石投げ




