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ハズレと言われたガチャスキル、猫と一緒に毎日回してます 〜孤児院育ちの少年は、魔石を一つずつ集めて少しずつ強くなる〜  作者: はわわわわ


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第25話 百回目の、天井

第25話 百回目の、天井


群れは、門の前までは来なかった。


日が沈むころ、草原の真ん中あたりで、ぴたりと足を止めたのだ。弓の届かない、ぎりぎりの距離。そこで、まるで誰かに命令されたみたいに、いっせいに地面に伏せた。


数百の魔物が、草原を埋め尽くしたまま、じっとこっちを見ていた。


暗くなっても、その目が、点々と光っていた。


「夜明けを待っているんだ」


ガルドさんが言った。


「あの頭が、そうさせている。十五年前の群れは、こんなに行儀がよくなかった」


群れの真ん中で、あの大きな影が、のそりと体を横たえていた。背中の黒い塊が、闇の中で、どくん、どくんと、赤黒く光り続けていた。


◇ ◇ ◇


夜が更けても、俺は眠れなかった。


壁の上の、見張り台の陰。毛布にくるまって、膝を抱えて座っていた。


フードから出てきたルルが、膝の上で丸くなっている。でも、耳はずっと、草原の方を向いていた。


俺は、ガチャの画面を開いた。


『これまでに回した回数:99回』


あと、一回。


一覧を、上から順番に眺めた。


小石投げ。方向感覚。着火。革の小物袋。じゃがいも。ハム。猫じゃらし。革の小盾。投石紐。胸当て。堅焼きパン。鍋。本。毛布。雨合羽。それから、毎朝の無料ガチャで出た、細々したものたち。包帯。手ぬぐい。塩。石けん。縄。ろうそく。


百日あまりの、全部だった。


選べるのは、この中の、一度出たことのあるものだけ。


「……何を、選べばいいんだろう」


◇ ◇ ◇


「まだ起きてたのか」


声がして顔を上げると、トーマが立っていた。門の下の持ち場から、交代で上がってきたらしい。その後ろには、ニコさんとダンさんもいた。


「眠れなくてさ」


「俺も」


トーマが、俺の隣にどかりと座った。ニコさんとダンさんも、その横に腰を下ろす。四人で、毛布を分け合うようにして、くっついて座った。


「百回目のこと、考えてたんだろ」


トーマが言った。


「……うん」


「何で迷ってるの?」


ニコさんが聞いた。


俺は、少し考えてから、指を折って数えた。


「堅焼きパンなら、もう一箱、壁の上のみんなに配れる。三日、持ちこたえるなら、食べ物はいくらあっても足りない」


「うん」


「包帯なら、怪我をした人の手当てができる。神官様も、包帯があってよかったって言ってた」


「うん」


「革の小盾なら、トーマ以外の誰かを守れる。胸当てでも、毛布でもいい。どれを選んでも、きっと、誰かの役には立つ」


「どれも、いいじゃん」


ダンさんが言った。


「だから、迷ってるんです」


◇ ◇ ◇


「なら、一番、お前が使いこなせるものを選べ」


見張り台の向こうから、低い声がした。


ガルドさんだった。椅子に座ったまま、目を閉じていたから、寝ているのかと思っていた。


「パンは、ベルンの店にもある。包帯は、教会にもある。盾は、ギルドの倉庫にもある。足りないかもしれんが、なくはない」


ガルドさんは、片目を開けて、草原の方を見た。


「だが、町じゅう探しても、お前の代わりはいない」


「俺の、代わり……」


「お前の石は、誰かの槍と一緒に使えばいい。そう言ったな」


「……はい」


「なら、考えろ。明日、オスカーの槍が、あの頭に届くためには、何が要る。お前の石に、何ができる」


ガルドさんは、それだけ言って、また目を閉じた。


◇ ◇ ◇


俺は、草原の真ん中を見た。


あの大きな影。家ほどもある体。背中から突き出した、黒い塊。


オスカーさんの槍は、沢のほとりで、オオカミの胸の赤黒い光を貫いた。光が砕けたとたん、群れの動きが乱れた。草原でも、胸の光を貫かれたオオカミは、それで倒れた。


あの光が、弱点なんだ。


でも、あの大きな影の光は、胸じゃない。背中だ。家ほどの高さの、その上だ。


槍は、届かない。


剣も、盾も、届かない。


セシルさんの火の魔法なら届くかもしれない。でも、あの黒い塊は、いくつもある。一つ一つ、正確に狙うのは、きっと難しい。


遠くから。高いところへ。小さな的を。いくつも、正確に。


そんなことができるのは――


「……石だ」


俺は、つぶやいた。


「え?」


トーマが、俺の顔をのぞきこんだ。


「あいつの背中の、黒いのを、一つずつ割れたら。全部じゃなくても、何個か割れたら、きっと、あいつは弱る。そうしたら、オスカーさんたちの槍が届く」


「でも、レンの石、この前、届かなかったんだろ」


トーマが、遠慮がちに言った。


「うん。だから――」


俺は、画面の一覧の、一番上の方を指でなぞった。


ガチャを授かって、最初に、自分のお金で回した一回。


【N】スキル「小石投げ」。説明文の最後は、「それだけ」。


あのとき、柿の木の下で、みんなで笑った。石をまっすぐ投げられるだけのスキル。外れスキルの、代表みたいなスキル。


それを、二回重ねた。スライムの核が割れるようになった。コウモリが落とせるようになった。


でも、あのオオカミの胸には、届かなかった。


ガルドさんが運ばれた夜、毛布の中でこの一覧を開いて、何もないと思って閉じた。剣も魔法もない、外れスキルばかりの一覧だと。


でも、違ったのかもしれない。


まだ、足りないなら。


もう一回、重ねればいい。


◇ ◇ ◇


「小石投げにする」


俺が言うと、四人は、しばらく黙っていた。


最初に口を開いたのは、ニコさんだった。


「……いいと思う」


「パンとか、包帯じゃなくて、いいのかな。みんなを守るものじゃなくて、俺のスキルで」


「みんなを守るために、レンの石を強くするんでしょ」


ニコさんは、自分の弓をぽんと叩いた。


「私の矢だって、私のスキルだけど、みんなを守るために撃つんだよ」


「そうそう」


ダンさんが、大きくうなずいた。


「それに、小石投げって、レンらしいよ。最初のスキルなんだろ?」


トーマが、にっと笑った。


「いいじゃん。外れスキルで、あのでっかいのの背中、割ってやろうぜ」


膝の上で、ルルが、小さく「みゃあ」と鳴いた。


◇ ◇ ◇


百回目は、夜明けの、その日の無料ガチャで回すことにした。


九十九回目で止めてから、ずっと回していなかった毎朝の一回。お金も、魔石もいらない。毎朝、縁側で回してきた、あの一回だ。


東の空が、白み始めた。


草原の群れが、ざわざわと動き出していた。伏せていた魔物たちが、一匹、また一匹と、立ち上がっていく。


壁の上で、俺は、光の画面に手を伸ばした。


百回目。


画面の中で、ガチャの絵がくるくると回った。


そして、カプセルが一つ、ころんと転がり出てきた。


白でも、青でも、金でもなかった。


透き通った、ガラスのようなカプセル。


『【天井】

 百回目です。これまでに出たものの中から、一つ選んでください。』


一覧が、ずらりと並んだ。


ルルが、俺の肩の上から、一緒に画面をのぞきこんでいた。


俺は、一覧の上の方に指を伸ばした。


【N】スキル「小石投げ」。


触れた。


透き通ったカプセルが、ぱかりと開いた。


◇ ◇ ◇


『【重複】スキル「小石投げ」が強化されました。

 小石投げ+2 → 小石投げ+3』


光が、俺の右手に吸い込まれていった。


指先から、手首へ。腕へ。肩へ。温かいものが、すうっと広がっていく。


それから、スキルの説明文が、ゆっくりと書き変わった。


『【N】スキル「小石投げ+3」

 小石を、狙ったところへまっすぐ届ける。

 投げた石は、少しだけ重く、鋭くなる。』


一番最初、このスキルの説明には、こう書いてあった。


――小石を、狙った方向にまっすぐ投げられる。それだけ。


その「それだけ」が、どこにもなかった。


「……どう?」


トーマが、横から聞いてきた。


「分からない。試してみないと」


◇ ◇ ◇


試す機会は、すぐに来た。


角笛が、鳴った。


草原の群れの先頭が、走り出していた。灰色のオオカミたちが、波のように、門に向かって押し寄せてくる。


その先頭に、一匹、ひときわ大きなオオカミがいた。


胸のあたりが、赤黒く光っている。


草原で、ガルドさんの肩を切り裂いたやつと、同じくらいの大きさだった。


「弓、構え!」


衛兵さんの声。ニコさんが、隣で弓を引き絞った。


俺は、投石紐に、石をかけた。


ひゅん、ひゅん、ひゅん。


頭の上で、紐を回す。


狙うのは、胸の、赤黒い光。


風の流れが、分かった。紐に刻まれた、風の模様が、手のひらに語りかけてくる。少し、右から吹いている。


石を、放した。


石は、まっすぐ飛んだ。


朝の光の中を、一本の線のように。


そして――


ぱきん。


澄んだ音がした。


先頭のオオカミの胸で、赤黒い光が、砕け散った。


オオカミは、二、三歩よろめいて、草の上に崩れ落ちた。そのまま、動かなくなった。


後ろに続いていたオオカミたちが、驚いたように足を止めた。


壁の上が、一瞬、しんとした。


それから、どっと声が上がった。


「当たった……」


ニコさんが、弓を構えたまま、目を丸くしていた。


「当たったよ、レン!」


俺は、自分の右手を見つめた。


震えていた。でも、さっきまでの震えとは、違う震えだった。


届いた。


今度は、届いた。


「……ふん」


後ろで、ガルドさんが鼻を鳴らした。


「一匹落としたくらいで、浮かれるな。まだ、何百といるぞ」


でも、その声は、少しだけ笑っていた。


草原の真ん中で、あの大きな影が、ゆっくりと立ち上がった。


背中の黒い塊が、どくん、と大きく脈打った。


腹の底に響くような咆哮が、草原を渡ってきた。


ルルの毛が、全部、逆立った。


俺は、小物袋から、次の石を取り出した。


戦いが、始まる。


(第25話 終わり)


――――――――――――


【ガチャ記録】第25話まで


ガチャを授かってから 116日目 / ガチャLv.4


回した回数:合計100回(無料84回・魔石16回) ※100回目(天井)は第25話の朝の無料ガチャで回した


今回出たもの

・100回目(天井):【N】スキル「小石投げ」(天井で選択、重複で小石投げ+3に)


これまでに出たもの

・特別枠【祝福の一回】:【N】子猫(ルル)


・スキル:【N】小石投げ+3、【N】方向感覚、【N】生活魔法:着火(少し上達)


・装備・冒険の道具:【SR】風読みの投石紐、【R】革の小盾(トーマに)、【R】丈夫な雨合羽、【R】丈夫な革の胸当て(レンが着用)、【N】砥石(トーマに)、【N】革の小物袋、【N】丈夫な縄、【N】丈夫な靴ひも、【N】革の手袋(投石紐の練習用に)、【N】革の水筒


・食べ物:【R】大きな燻製ハム(孤児院の晩ごはんに)、【R】干し果物の詰め合わせ(ダンとニコにも)、【R】堅焼きパン(大箱)、【N】じゃがいも(一袋)、【N】乾燥豆(一袋)×4、【N】干しいも×3、【N】小麦粉(小袋)×2、【N】乾燥ハーブ×2、【N】塩一袋×7


・レシピ・本:【N】レシピ「じゃがいももち」(院長先生に)、【N】レシピ「はちみつケーキ」、【N】生活魔法の入門書(着火が少し上達)


・手当て・身の回り:【N】包帯×8、【N】手ぬぐい×6、【N】石けん×5


・布・裁縫:【R】厚手の毛布(孤児院に)、【R】大きな布地(院長先生が子どもたちの服に)、【N】縫い針と糸×5、【N】ボタン一袋×3、【N】革ひも×2、【N】指ぬき


・台所・家の道具:【N】木のスプーン×2、【N】釘一袋、【N】木の器×2、【N】鉄の鍋(孤児院に)


・紙・灯り:【N】紙の束×7(地図の下書きに)、【N】炭の棒×6、【N】ろうそく十本


・庭:【N】青葉草の種(孤児院の庭に)、【N】青葉草の束(ダンの家に)


・おもちゃ・ルルの宝物:【N】猫じゃらし(ルルの宝物)、【N】毛糸玉×2(ルルの宝物)、【N】木のコマ(小さい子たちに)、【N】ビー玉一袋(小さい子たちに)


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