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ハズレと言われたガチャスキル、猫と一緒に毎日回してます 〜孤児院育ちの少年は、魔石を一つずつ集めて少しずつ強くなる〜  作者: はわわわわ


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第23話 一人で、全部抱えなくていい

第23話 一人で、全部抱えなくていい


次の日から、ルーヴェンの町は、がらりと様子を変えた。


広場に、ギルドの貼り紙が出た。


「森の奥にて魔物の群れを確認。町の守りを固める。手の空いている者は、ギルドまたは門の詰所へ」


朝から、門の前には、石や材木を積んだ荷車が並んだ。石工の親方たちが、それを下ろして、壁の崩れかけたところを直し始めた。鍛冶屋からは、一日中、鉄を打つ音が響いていた。


見習いの俺たちにも、仕事が回ってきた。


壁の上に、石や矢を運ぶこと。詰所と門の間で、伝言を走らせること。


俺は、言われた仕事をした。石を運んだ。伝言を走らせた。


でも、何をしていても、頭の中で、あの音が鳴っていた。


かつん。


◇ ◇ ◇


二日目の夜、俺は、ひだまりの家の裏庭にいた。


柿の木の幹に、炭で丸を描いた。そこから、二十歩離れる。


投石紐に、石をかける。


ひゅん、ひゅん、ひゅん。


放す。


かん、と石が幹に当たる。丸の、少し右。


次の石。また次の石。


暗くて、丸はほとんど見えなかった。それでも、投げた。


当たるだけじゃ、だめだ。もっと強く。もっと深く。あの毛皮を、突き抜けるくらいに。


ひゅん、ひゅん、ひゅん。


指に巻いた布が、いつの間にか、赤くにじんでいた。


それでも、止められなかった。止めたら、あの夜の光景が、また目の前に浮かんでくる気がした。


「レン」


声をかけられて、手が止まった。


振り向くと、勝手口のところに、院長先生が立っていた。手に、湯気の立つ木の器を持っている。


「晩ごはん、ほとんど食べてなかったでしょう」


「……すみません」


「謝らなくていいの。ちょっと、座りなさい」


◇ ◇ ◇


縁側に並んで座ると、院長先生は、木の器を俺の手に持たせてくれた。


じゃがいももちが、二つ、入っていた。


ガチャで出たレシピで、院長先生が作ってくれるようになった、ひだまりの家の新しい定番だ。


「残りのじゃがいもで、作っておいたの。小さい子たちには、内緒よ」


一つ、かじった。


もちもちして、温かくて、少しだけ塩の味がした。


気がついたら、涙がこぼれていた。


止めようとしても、止まらなかった。じゃがいももちを握ったまま、俺は、子どもみたいに泣いた。


院長先生は、何も言わずに、俺の背中をさすってくれた。


◇ ◇ ◇


どれくらい、そうしていたか分からない。


ようやく涙が止まったころ、俺は、ぽつりぽつりと話し始めた。


石が届かなかったこと。ルルに守られたこと。トーマに守られたこと。ガルドさんが、俺をかばって怪我をしたこと。


「俺、強くなったつもりでいたんです。毎日、少しずつ。でも、全然、足りなかった」


院長先生は、黙って聞いていた。


「次は、もっと大きな群れが来るかもしれない。そのときに、また何もできなかったら。また、誰かが、俺のせいで――」


「レン」


院長先生が、俺の言葉を遮った。


穏やかな声だった。でも、いつもより、少しだけ強かった。


「あなた、ひだまりの家の雨漏りを、一人で直した?」


「え……」


「地図を売ったお金で、直してくれたわね。でも、屋根に上って板を打ちつけてくれたのは、ガルドさんでしょう。トーマも、下で板を渡してくれた」


院長先生は、庭の柿の木の方を見た。


「去年の冬、薪が足りなくなりかけたとき、私は、一人で何とかしようとしたの。夜中まで、台所のかまどの残り火の明かりで、繕い物の内職をして。でも、結局、体を壊しかけた」


知っていた。夜遅くまで、院長先生の部屋の明かりがついていたこと。


「そのとき、ベルンさんが、店の古い薪を分けてくれた。パン屋のおかみさんが、売れ残りのパンを持ってきてくれた。私は、それが恥ずかしかった。院長なのに、自分の家の子どもたちも、一人で守れないのかって」


院長先生は、俺の方を向いて、少しだけ笑った。


「でもね、分かったの。一人で守らなくていいのよ。みんなで守ればいいの。私が守れないところは、誰かが守ってくれる。誰かが守れないところは、私が守る」


院長先生の手が、俺の手の上に重なった。


あかぎれのある、温かい手だった。


「レン。一人で、全部抱えなくていいの」


◇ ◇ ◇


次の日の朝、治療院から知らせが来た。


ガルドさんが、目を覚ました。


走って行くと、ガルドさんは、寝台の上で、体を半分起こしていた。左の肩から胸にかけて、包帯がぐるぐると巻かれている。顔色は、まだ白かった。


でも、俺の顔を見ると、いつもの怖い顔で、眉を寄せた。


「何だ、その顔は」


「ガルドさん……」


言いたいことは、たくさんあった。ごめんなさい。ありがとうございます。俺のせいで。


でも、口から出てきたのは、全然違う言葉だった。


「……俺の石、届きませんでした」


ガルドさんは、しばらく黙って、俺を見ていた。


それから、ふん、と鼻を鳴らした。


「当たり前だ」


「え」


「あれは、オスカーの槍でやっと貫ける相手だ。十二の見習いが、石ころ一つで倒せるわけがない。倒せたら、俺たち大人の立つ瀬がない」


ガルドさんは、窓の外を見た。


「お前の石は、届かなかった。だが、トーマが盾で一度止めた。俺が牙を押さえた。その間に、オスカーの槍が間に合った。お前の地図があったから、俺たちは森で迷わなかった。俺の傷を真っ先に押さえたのも、お前だ」


ガルドさんの声は、低くて、静かだった。


「全部、お前一人でやろうとするな。お前の石は、誰かの槍と一緒に使えばいい。トーマの盾と一緒に使えばいい。それが、パーティーってもんだ」


俺は、何も言えなかった。


「それにな」


ガルドさんは、包帯の巻かれた肩を、少しだけ動かした。痛そうに顔をしかめて、それでも、口の端がほんの少しだけ上がった。


「今度は、間に合った」


「……」


「十五年かかったがな。今度は、俺の後ろにいた若いのを、ちゃんと生きて帰せた」


ガルドさんの目が、少しだけ赤かった。


「だから、そんな顔をするな。強くなるのは、ゆっくりでいい。前にも言ったな」


「……はい」


「一人で強くなろうとしなくていい。それも、覚えておけ」


◇ ◇ ◇


治療院を出ると、入り口の石段に、トーマが座っていた。


「ガルドさん、どうだった?」


「起きてた。怒られた」


「だろうな」


トーマが笑った。それから、自分の盾をぽんぽんと叩いた。


「俺さ、あのとき、吹っ飛ばされただろ。お前の前に立ってたのに」


「……うん」


「すげえ悔しかった。ユーリさんの剣をもらったのに、何にもできなかった」


知らなかった。トーマも、同じことを考えていたなんて。


「だからさ、次は、二人で何とかしようぜ。ダンさんとニコさんも誘って。四人なら、俺たちも、ちょっとは役に立つだろ」


「……うん」


俺は、トーマの隣に座った。


朝の光が、石段を温めていた。


◇ ◇ ◇


その日の昼、ルルが、すっかり目を覚ました。


縁側の日だまりで、ぐーっと前足を伸ばして、大きなあくびをする。それから、とことこと俺のところに歩いてきて、膝の上によじ登った。


そして、俺の顔を見上げて、「みゃあ」と鳴いた。


いつもの声だった。


「……おなか、すいた?」


「みゃあ」


俺は台所へ走って、リゼさんが届けてくれた塩なしの干し魚を、小さくちぎって皿にのせた。


ルルは、皿に顔をつっこむようにして、あっという間にたいらげた。それから、もっと、と言うように、空の皿を前足でちょいちょいとつついた。


「よかった……ちゃんと食べた」


二皿目もぺろりとたいらげて、満足そうに前足で顔を洗い終えたころ、ミリィとポポが、待ってましたとばかりに、毛糸玉と猫じゃらしを持ってきた。ルルは、ぴんと耳を立てて、毛糸玉に飛びかかった。転がして、追いかけて、ひっくり返って、また追いかける。


小さい子たちが、きゃあきゃあと笑った。


ほんの数日前に、オオカミの前で光のドームを張った子猫と、同じ子猫とは思えなかった。


俺の片手から、少しはみ出すくらいの、小さな、白い子猫だった。


その姿を見ていたら、胸の奥で、何かがすとんと落ちた気がした。


一人で、全部抱えなくていい。


一人で、強くならなくていい。


ルルがいる。トーマがいる。院長先生がいる。ガルドさんがいる。ダンさんとニコさんがいる。町には、オスカーさんたちがいる。


俺は、その中の一人として、できることをすればいいんだ。


◇ ◇ ◇


その瞬間、目の前に、光の画面が開いた。


自分で開いたわけじゃなかった。


『【ガチャレベルが上がりました】

 ガチャLv.3 → Lv.4

 ・出てくるものの種類が増えました。』


「……え」


回していないのに、レベルが上がった。


九十九回目で止めたとき、レベルが上がるのも、これでしばらくお預けだと思っていた。それなのに。


前に、投石紐の石が初めて的に届いたとき、ガチャのレベルが上がった。ガチャから出たものを本当に使えるようになったとき。何か大事なことを、一つ乗り越えたとき。


今回は、たぶん、そういうことなんだろう。


一覧を開くと、着火の名前に、目が止まった。


生活魔法。ろうそく一本分くらいの、小さな火。オオカミを倒せるような力じゃない。


それでも、これは、ガチャから出た魔法だ。


『出てくるものの種類が増えました。』


その中に、着火の仲間がいたって、おかしくない。


胸の奥が、熱くなった。


ガチャからは、魔法も出る。あの夜、毛布の中で思った「いつか」は、ただの夢じゃないのかもしれない。


毛糸玉にじゃれていたルルが、ちらりとこっちを振り返って、また毛糸玉に飛びついた。


俺は、画面を閉じた。


百回目は、まだ取ってある。


本当に必要なときは、もうすぐ来る。そんな予感がしていた。


その予感が当たったのは、二日後の昼のことだった。


(第23話 終わり/第3章 完)


――――――――――――


【ガチャ記録】第23話まで


ガチャを授かってから 112日目 / ガチャLv.4


回した回数:合計99回(無料83回・魔石16回) ※99回で止めて、100回目は取ってある


今回出たもの:なし


これまでに出たもの

・特別枠【祝福の一回】:【N】子猫(ルル)


・スキル:【N】小石投げ+2、【N】方向感覚、【N】生活魔法:着火(少し上達)


・装備・冒険の道具:【SR】風読みの投石紐、【R】革の小盾(トーマに)、【R】丈夫な雨合羽、【R】丈夫な革の胸当て(レンが着用)、【N】砥石(トーマに)、【N】革の小物袋、【N】丈夫な縄、【N】丈夫な靴ひも、【N】革の手袋(投石紐の練習用に)、【N】革の水筒


・食べ物:【R】大きな燻製ハム(孤児院の晩ごはんに)、【R】干し果物の詰め合わせ(ダンとニコにも)、【R】堅焼きパン(大箱)、【N】じゃがいも(一袋)、【N】乾燥豆(一袋)×4、【N】干しいも×3、【N】小麦粉(小袋)×2、【N】乾燥ハーブ×2、【N】塩一袋×7


・レシピ・本:【N】レシピ「じゃがいももち」(院長先生に)、【N】レシピ「はちみつケーキ」、【N】生活魔法の入門書(着火が少し上達)


・手当て・身の回り:【N】包帯×8、【N】手ぬぐい×6、【N】石けん×5


・布・裁縫:【R】厚手の毛布(孤児院に)、【R】大きな布地(院長先生が子どもたちの服に)、【N】縫い針と糸×5、【N】ボタン一袋×3、【N】革ひも×2、【N】指ぬき


・台所・家の道具:【N】木のスプーン×2、【N】釘一袋、【N】木の器×2、【N】鉄の鍋(孤児院に)


・紙・灯り:【N】紙の束×7(地図の下書きに)、【N】炭の棒×6、【N】ろうそく十本


・庭:【N】青葉草の種(孤児院の庭に)、【N】青葉草の束(ダンの家に)


・おもちゃ・ルルの宝物:【N】猫じゃらし(ルルの宝物)、【N】毛糸玉×2(ルルの宝物)、【N】木のコマ(小さい子たちに)、【N】ビー玉一袋(小さい子たちに)


ルルも、すっかり元気になりました。干し魚を二皿、ぺろりです。

そして、回していないのに、ガチャがLv.4に。

着火の仲間が、いつか出てくるのかどうか……レンと一緒に、楽しみにしていてください。


次回は〔明日の朝7時〕に更新します。


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