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ハズレと言われたガチャスキル、猫と一緒に毎日回してます 〜孤児院育ちの少年は、魔石を一つずつ集めて少しずつ強くなる〜  作者: はわわわわ


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第21話 逃げる森と、ルルの白い光

第21話 逃げる森と、ルルの白い光


走った。


落ち葉を蹴り散らして、木の根を飛び越えて、とにかく走った。


「レン、道は!」


前を走るオスカーさんが、振り返らずに叫んだ。


「まっすぐ南西です! あの二股の木を左に!」


頭の中の線は、一本も途切れていなかった。方向感覚が、帰り道をはっきりと示している。野営地まで、あと三千五百歩くらい。


でも、足が追いつかない。


大人たちの一歩は、俺の一歩よりずっと大きい。息が切れる。胸当ての紐が、肩に食い込む。


すぐ後ろを、トーマがぴったりついて走っている。俺が遅れても、追い越そうとはしない。


「止まるな、レン!」


「分かってる……っ」


フードの中で、ルルが小さく震えている。爪が、服の布をぎゅっとつかんでいた。


背後から、遠吠えが追いかけてくる。


さっきより、近い。


◇ ◇ ◇


最初の一匹が追いついてきたのは、二股の木を過ぎてすぐのことだった。


右の茂みから、灰色の影が飛び出してきた。


草原オオカミだ。でも、ギルドの貼り紙で見た絵よりも、ひと回りもふた回りも大きかった。


「伏せろ!」


最後尾のガルドさんの声。


反射的に頭を下げた。その上を、何かが風を切って通り過ぎる。ガルドさんの剣だった。


ぎゃん、と短い悲鳴。オオカミが、落ち葉の上を転がった。


「止まるな、走れ!」


ガルドさんは、もう次の影に向き直っていた。


左からも、後ろからも、灰色の影が次々と現れる。五匹。いや、もっと。


ボリスさんが大きな盾を構えて、左から来た一匹を弾き飛ばした。オスカーさんの槍が、正面の一匹の足を払う。


「セシル、まだだ! 火は、囲まれてからだ!」


「分かってる!」


俺は走りながら、腰の小物袋に手を突っ込んだ。


小石を一つ。


右手に握って、振り返る。トーマの横を抜けようとしていた一匹の、鼻先。


投げた。


ぱちん、と音がして、オオカミが顔をそむけた。その隙に、トーマが盾でオオカミの頭を叩く。


でも、倒れない。首を振って、またこっちを見た。


苔むす洞で戦ったどの魔物よりも、ずっとしぶとい。


投石紐を使う余裕はなかった。紐に石をかけて、振り回して、狙う。その間に、木の間から次の一匹が来る。


「レン、前を見ろ! お前は道だけ見てろ!」


ガルドさんに怒鳴られて、俺は前を向いた。


走る。南西へ。頭の中の線を、必死にたどる。


◇ ◇ ◇


小さな沢に出た。


行きに、紙に印をつけた場所だ。ここを渡って、岩の多い斜面を下れば、野営地まですぐ。


「沢を渡れ! 水の中じゃ、やつらも速く走れない!」


オスカーさんの声に、全員が水に飛び込んだ。冷たい水が、膝まで来る。足を取られそうになって、トーマが俺の腕をつかんだ。


向こう岸に、上がった。


そのときだった。


フードの中で、ルルが、甲高い声で鳴いた。


聞いたことのない声だった。いつもの「みゃあ」じゃない。何かを、必死に知らせるような声。


「前だ!」


オスカーさんが、槍を構えた。


向こう岸の、岩の陰。斜面の上。木の間。


灰色の影が、いくつも、こっちを見下ろしていた。


先回りされていたんだ。


後ろの沢からも、水しぶきの音が近づいてくる。追ってきたオオカミたちが、沢を渡り始めていた。


前にも、後ろにも。


「……囲まれた」


ボリスさんが、盾を構えたまま、低くつぶやいた。


◇ ◇ ◇


「セシル!」


「――火よ、壁となれ!」


セシルさんが杖を振り上げた。


ごう、と音を立てて、沢のこちら側に、炎の壁が立ち上がった。水を渡ってきたオオカミたちが、悲鳴を上げて後ずさる。


でも、前の斜面からは、まだ来る。


「ボリス、右! ガルド、左を頼む!」


「おう!」


大人たちが、俺とトーマを真ん中に囲むように立った。


斜面の上で、ひときわ大きなオオカミが、ゆっくりと前に出てきた。他のやつより、さらに大きい。子馬くらいある。灰色の毛の中で、胸のあたりが、赤黒く光っていた。


窪地の柱と、同じ色の光だった。


そのオオカミが、高く吠えた。


それを合図に、斜面のオオカミたちが、いっせいに駆け下りてきた。


オスカーさんの槍が一匹を突いた。ボリスさんの盾が一匹を弾いた。ガルドさんの剣が、一匹を斬った。


でも、多すぎる。


三人の間をすり抜けて、二匹が、真ん中に飛び込んできた。


一匹は、トーマに。もう一匹は、俺に。


トーマが、盾ごと押し倒された。


俺の目の前に、開いた口があった。黄色い牙。生臭い息。


小石を握った手が、動かなかった。


――ああ、だめだ。


そう思った瞬間。


◇ ◇ ◇


フードの中から、白いものが飛び出した。


ルルだった。


俺の肩を蹴って、オオカミの鼻先に、まっすぐ。


「ルル!」


小さな体だった。俺の片手から、少しはみ出すくらいの。そんな子猫が、自分の何十倍も大きなオオカミの前に、四本の足を踏ん張って立っていた。


毛が、全部逆立っていた。


ルルが、鳴いた。


その瞬間、ルルの額に、光が灯った。


小さな、花のような形の光の模様。


光は、ルルの体から、ふわりと広がった。


白くて、薄くて、透き通った光の膜。それが、シャボン玉がふくらむように、俺とトーマと、ルルを包み込んだ。


オオカミの牙が、その膜にぶつかった。


かん、と、硬いものを叩いたような音がした。膜は、へこみもしない。見た目はシャボン玉みたいに薄いのに、ガラスの壁のように硬かった。


オオカミが、弾き飛ばされた。


トーマにのしかかっていたもう一匹も、広がっていく膜に押し出されるようにして、転がり出ていった。


「……え」


声が、出なかった。


丸い、光のドーム。


俺たちの周りを、すっぽりと包んでいる。外では、オオカミたちが膜に飛びかかっては、かん、かん、と弾き返されていた。牙も爪も、少しも食い込まない。


丸くて、何かを包み込むような、守るような形。


どこかで、見たことのある形だった。


◇ ◇ ◇


「今だ!」


オスカーさんの声で、我に返った。


光の膜に、オオカミたちの目が、一瞬だけ集まっていた。その隙を、大人たちは見逃さなかった。


オスカーさんの槍が、斜面の上の、大きなオオカミの胸を貫いた。


赤黒い光が、ぱきん、と音を立てて砕けた。


大きなオオカミが、長く鳴いて、倒れた。


それを見たオオカミたちの動きが、急に乱れた。うろうろと、迷うように首を振る。何匹かが、斜面の上へと逃げ出していった。


「群れの頭だったんだ」


ガルドさんが、荒い息をつきながら言った。


「頭を失えば、しばらくはまとまらない。今のうちだ。行くぞ」


そのとき、光の膜が、ふっと消えた。


ルルの体が、ぐらりと傾いた。


「ルル!」


慌てて手を伸ばして、受け止めた。


小さな体は、ぐったりしていた。目を閉じて、浅い息をしている。額の光の模様は、もうどこにもなかった。


「ルル、ルル……!」


「生きてる」


すぐ横で、トーマが言った。盾を拾い上げながら、ルルの胸に耳を寄せる。


「息してる。寝てるだけだ、たぶん」


「たぶんって……」


「レン」


ガルドさんの手が、俺の肩に置かれた。


「その猫は、お前を守ったんだ。だったら、今度はお前が、その猫を連れて帰れ」


俺は、ルルを胸当ての内側に、そっと入れた。服越しに、小さな心臓の音が伝わってくる。


とく、とく、とく。


ちゃんと、動いていた。


「……はい」


「道は」


「南西です。この斜面を下りて、野営地まで二千歩。そこから、石の列まで九千歩」


「よし」


ガルドさんは、剣についた血を払った。


「行くぞ」


◇ ◇ ◇


日が沈むころ、俺たちは、野営地を通り過ぎた。


止まらなかった。置いてきた毛布も、鍋も、取りには寄らなかった。


森の夜は、昨日よりもさらに暗かった。セシルさんが、杖の先に小さな明かりを灯してくれた。その明かりを頼りに、俺は頭の中の線を、一歩ずつたどった。


遠くで、ときどき遠吠えが聞こえた。


でも、さっきのようには、近づいてこなかった。


胸当ての内側で、ルルは、ずっと眠っていた。


一度だけ、目を開けたような気がした。空色と金色の目が、暗闇の中で、ぼんやりと俺を見上げた。


「ありがとう、ルル」


小さな声で言うと、ルルは、また目を閉じた。


歩きながら、俺はガチャの画面をそっと開いた。


一番上の、虹色の枠。ルルの名前の下の、説明文。


『【N】子猫(ルル)

 ガチャから生まれた子猫。

 よく食べ、よく眠る。

 危ないものの気配に、とても敏い。

 大切なものを、小さな光で守る。

 ただの子猫。……たぶん?』


説明文が、一行、増えていた。


「ただの子猫。……たぶん?」


俺は、最後の一行を声に出して読んで、画面を閉じた。


たぶん、じゃない。


ルルは、ただの子猫なんかじゃない。


でも、それが何なのかは、今はどうでもよかった。


ルルは、俺の一番大事な相棒だ。それだけで、十分だった。


◇ ◇ ◇


そのとき、俺たちは、誰も気づいていなかった。


暗い森のずっと後ろを、赤黒い光が一つ、音もなくついてきていたことに。


(第21話 終わり)


――――――――――――


【ガチャ記録】第21話まで


ガチャを授かってから 108日目 / ガチャLv.3


回した回数:合計99回(無料83回・魔石16回) ※99回で止めて、100回目は取ってある


今回出たもの:なし


これまでに出たもの

・特別枠【祝福の一回】:【N】子猫(ルル)


・スキル:【N】小石投げ+2、【N】方向感覚、【N】生活魔法:着火(少し上達)


・装備・冒険の道具:【SR】風読みの投石紐、【R】革の小盾(トーマに)、【R】丈夫な雨合羽、【R】丈夫な革の胸当て(レンが着用)、【N】砥石(トーマに)、【N】革の小物袋、【N】丈夫な縄、【N】丈夫な靴ひも、【N】革の手袋(投石紐の練習用に)、【N】革の水筒


・食べ物:【R】大きな燻製ハム(孤児院の晩ごはんに)、【R】干し果物の詰め合わせ(ダンとニコにも)、【R】堅焼きパン(大箱)、【N】じゃがいも(一袋)、【N】乾燥豆(一袋)×4、【N】干しいも×3、【N】小麦粉(小袋)×2、【N】乾燥ハーブ×2、【N】塩一袋×7


・レシピ・本:【N】レシピ「じゃがいももち」(院長先生に)、【N】レシピ「はちみつケーキ」、【N】生活魔法の入門書(着火が少し上達)


・手当て・身の回り:【N】包帯×8、【N】手ぬぐい×6、【N】石けん×5


・布・裁縫:【R】厚手の毛布(孤児院に)、【R】大きな布地(院長先生が子どもたちの服に)、【N】縫い針と糸×5、【N】ボタン一袋×3、【N】革ひも×2、【N】指ぬき


・台所・家の道具:【N】木のスプーン×2、【N】釘一袋、【N】木の器×2、【N】鉄の鍋(孤児院に)


・紙・灯り:【N】紙の束×7(地図の下書きに)、【N】炭の棒×6、【N】ろうそく十本


・庭:【N】青葉草の種(孤児院の庭に)、【N】青葉草の束(ダンの家に)


・おもちゃ・ルルの宝物:【N】猫じゃらし(ルルの宝物)、【N】毛糸玉×2(ルルの宝物)、【N】木のコマ(小さい子たちに)、【N】ビー玉一袋(小さい子たちに)


読んでいただき、ありがとうございます!


ルル、がんばりました。

「ただの子猫。……たぶん?」の「たぶん」が、少しだけ揺らいだ回です。


次回は明日の朝7時に更新します。


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