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ハズレと言われたガチャスキル、猫と一緒に毎日回してます 〜孤児院育ちの少年は、魔石を一つずつ集めて少しずつ強くなる〜  作者: はわわわわ


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第17話 天井まで、あと十一回

第17話 天井まで、あと十一回


天井まで、あと十一回。


朝の縁側で、俺は、ガチャの画面の端の数字を見つめていた。


『これまでに回した回数:89回』


毎日の無料ガチャを回しているだけで、十一日後には、百回目がやってくる。


前世の俺なら、迷わず回していた。天井まで回して、一番強いキャラクターを選ぶ。それが当たり前だった。


でも、今は違う。


画面に並んだ一覧を、上から順番に眺める。


小石投げ。革の小物袋。方向感覚。着火。じゃがいも。ハム。猫じゃらし。革の小盾。じゃがいももちのレシピ。風読みの投石紐。堅焼きパン。それから、毎朝の無料ガチャで出た、細々した日用品がたくさん。


その下に、灰色の影がいくつか並んでいる。Lv.3になってから増えた、まだ出たことのない品物だ。名前は「???」としか書かれていない。


でも、影の形だけは、ぼんやりと見えた。


剣のような影。鍋のような影。何かの本のような影。


そして、一番下には、あの大きな影。


Lv.3になった夜に見つけた、丸い、ドームのような形の影だ。何かを包み込むような、守るような形。横には、小さく「SSR」の文字。


あれから毎日のように眺めているのに、それが何なのかは、まだ分からなかった。


百回目に選べるのは、一度出たことのあるものだけ。灰色の影は、まだ選べない。


もし百回目が来たとき、本当に必要なものが、まだ一覧にない影のままだったら?


◇ ◇ ◇


「天井?」


草原の北側で、青葉草を摘みながら話すと、トーマは首をかしげた。


「天井って、家の上の、あの天井か?」


「ガチャの光る板に、そう書いてあるんだ。百回回したら、それまでに出たものの中から、好きなものを一つ選べるんだって」


「へえー。百回目のごほうびってことか」


トーマの言い方の方が、ずっと分かりやすかった。


「で、あと十一回なんだろ? すぐじゃん」


「うん。でも、すぐには使わない方がいいと思うんだ」


俺は、摘んだ青葉草を束ねながら、言葉を選んだ。


少しだけ、迷った。


ガルドさんとハロルドさんの話を、トーマはまだ知らない。


でも、トーマはこの前、ガルドさんの家で、十五年前の話を一緒に聞いた。草原オオカミの貼り紙も、牙トカゲの噂も、知っている。


「もし、何か大変なことが起きたとき、そのときに一番必要なものを選びたいんだ。だから、九十九回まで回したら、そこで止めて、百回目はぎりぎりまで取っておく」


トーマは、青葉草を摘む手を止めて、俺の顔をじっと見た。


「……天井を、取っておくってことか」


「うん。それと、九十九回までは、できるだけ魔石で回したい」


「なんで? 無料のやつだって、毎日回せるじゃん」


「無料のは、ほとんど白いカプセルなんだ」


前世の癖で、出たものは全部数えていた。


魔石で回した十一回のうち、青と金は三回。無料の七十八回では、青が五回だけだ。


「魔石で回した方が、青や金が出やすいみたいなんだ。天井で選べるのは、一度出たことのあるものだけだから、九十九回までに、いいものをなるべく出しておきたい」


「へえー」


「それに、いつ何が起きるか分からないだろ。そのとき、まだ九十回そこそこだったら、天井は使えない。だから、九十九回には、早めに届いておきたいんだ」


「なるほどなあ」


トーマは感心したようにうなずいてから、首をかしげた。


「で、九十九回まで行ったら? 無料のやつは、毎日回さないと、なくなるんだろ」


「九十九回目まで来たら、無料のも回さない」


そう答えながら、胸の奥が、ちくりとした。


トーマは、しばらく黙っていた。


それから、ふっと笑った。


「レンらしいな。いっつも、先のこと考えてる」


「心配性なだけだよ」


「いいじゃん、心配性。俺は何も考えてないから、ちょうどいい」


トーマは、また青葉草を摘み始めた。そして、何気ない声で言った。


「じゃあさ。九十九回まで、さっさと行っちまおうぜ。魔石、俺も集めるから」


◇ ◇ ◇


その夜、水を飲みに台所へ行って、俺は棚の前で足を止めた。


塩の壺。たたんだ手ぬぐい。石けん。包帯の入った木箱。


並んでいるものの、けっこうな数が、毎朝の無料ガチャで出たものだった。


塩一袋が出るたびに、正直、「また塩か」と思っていた。でも院長先生は、そのたびに「助かるわ」と笑って、大事そうに壺へ移していた。市場の値段が上がってからは、なおさらだった。


九十九回目で止めたら、この棚には、もう何も増えない。魔石で急げば急ぐほど、その日は早く来る。


百回目を回すまで、ずっと。それが十日先なのか、ひと月先なのか、もっと先なのか、俺にも分からない。


塩一袋。包帯一つ。毎朝たった一つずつでも、ひだまりの家にとって、それがどれだけ大きいか、俺は知っていた。帳簿を見つめていた院長先生の、あの長いため息も。


――それを、全部、手放すのか。


何も起きなかったら、どうする。


ガルドさんたちの心配が、外れることだってある。そうなったら俺は、ただの心配性で、ひだまりの家から毎朝の塩を取り上げただけになる。


それに、正直に言えば、止めたくない理由は、もう一つあった。


ガチャのレベルも、止まってしまうのだ。


五回目でLv.2になった。八十一回目で、Lv.3になった。回せば回すほど、ガチャは育つ。レベルが上がれば、出てくるものの種類が増える。一覧に並んだ灰色の影が、一つ、また一つと名前に変わっていく。あの丸い影だって、いつかは。


回せば、育つ。分かっているのに、回さない。


前世の俺は、毎日のログインボーナスを、一日も欠かしたことがなかった。回せるガチャを回さずに放っておくなんて、考えただけで、背中がむずむずする。


ガチャ好きとして、それは、一番やってはいけないことのような気がした。


「……本当に、止めていいのかな」


気がつくと、棚に向かってつぶやいていた。


「まだ起きてたの?」


振り向くと、ろうそくを手にした院長先生が、台所の入り口に立っていた。


少し迷ってから、俺は、天井のことを話した。百回目に、それまでに出たものから一つ選べること。何かあったときのために、九十九回目で止めておきたいこと。でも、そうすると、毎朝の無料ガチャも止まってしまうこと。


「塩も、包帯も、出なくなるんです。今、何でも高いのに」


院長先生は、黙って聞いていた。


それから、棚の塩の壺に、そっと手を置いた。


「この塩には、本当に助けられたわ。ありがとう、レン」


「……はい」


「でもね、塩は、高くなっても、まだ買えるの。少し切り詰めれば、なんとかなる。ひだまりの家は、ずっとそうやってきたんだから」


院長先生は、俺の目を、まっすぐに見た。


「あなたが、何かあったときのために取っておきたいと思ったのなら、それは、きっと大事なことよ。あなたはいつも、みんなのことを考えて決める子だもの。私は、その決め方を信じるわ」


胸の奥が、少しだけ軽くなった。


でも、それだけで終わりにはしたくなかった。


「……じゃあ、止めている間に取れた魔石は、ガチャに使わないで、売ります。そのお金で、塩を買ってきます」


院長先生は、目を丸くした。それから、くすっと笑った。


「本当に、心配性ね」


「トーマにも言われました」


院長先生の手が、俺の頭を、くしゃりとなでた。


院長先生が部屋に戻ったあと、俺は、もう一度だけガチャの画面を開いた。


レベルが止まるのは、やっぱり惜しい。それは、どうしても変わらなかった。


でも、前世でも、我慢したことはある。欲しいキャラクターの限定ガチャのために、何か月も石を貯めた。目の前に来る別のガチャを、指をくわえて見送った。


本当に欲しいもののために、回さずに待つ。それも、ガチャ好きの戦い方だ。


……毎日の無料の一回まで見送ったことは、さすがになかったけれど。


「よし」


小さく声に出して、画面を閉じた。


◇ ◇ ◇


次の日から、俺たちの毎日に、一つ目標が増えた。


魔石を集めて、九十九回目に、できるだけ早く届かせる。


無料ガチャは、毎日一回。それに加えて、魔石で回す分を、できるだけ増やす。


とはいえ、魔石はなかなか貯まらなかった。草原の南側には行けないし、苔むす洞の二階は、見張りの許可が出る日しか入れない。


そこで、ダンさんとニコさんに声をかけた。


「四人で組んで、苔むす洞の一階に入りませんか」


「四人で?」


「一階は、二人以上なら見習いだけで入れますよね。四人なら、もっと安全だと思うんです。それに、地図があるから迷わない」


ダンさんとニコさんは、顔を見合わせて、すぐにうなずいてくれた。


「レンの地図があるなら、どこでも行ける気がする」


「この前の通路の戦い方、もう一回やってみたかったんだよね」


四人で組むと、狩りは見違えるほど楽になった。


トーマが盾で前に立つ。ダンさんが横から槌で叩く。ニコさんが弓で、俺が手投げの石で、後ろから狙う。広い場所では、投石紐で遠くの洞窟コウモリを落とす。


獲れた魔石は、四人で分けた。ダンさんとニコさんは、「レンのガチャに使っていいよ」と何度も言ってくれたけれど、それは断った。二人にも、それぞれの暮らしがある。


そのかわり、ガチャで出たもので、二人に役立ちそうなものがあったら渡す、と約束した。


◇ ◇ ◇


八十九回目から、少しずつ、回数が進んでいった。


九十回目。【N】ろうそく十本。孤児院の夜の明かりになった。


九十一回目。【N】青葉草の束。ダンさんの家の、薬箱に入った。


九十二回目。【R】丈夫な革の胸当て。


『【R】丈夫な革の胸当て

 胸と腹を守る、革の鎧。

 軽くて、動きやすい。』


「これは、レンが着ろよ」


トーマが、迷わず言った。


「俺は盾があるし。お前、いっつも何も着てないだろ」


「でも、後ろにいるから」


「後ろにいても、コウモリは飛んでくるだろ。この前、肩引っかかれてたじゃん」


ばれていた。


結局、胸当ては俺が着ることになった。体にぴったりとはいかなかったけれど、紐で調節すると、思っていたよりずっと動きやすかった。


九十三回目は、朝の縁側で回した無料ガチャだった。


ころん。白いカプセル。


『【N】鉄の鍋

 丈夫な鉄の鍋。

 よく温まり、冷めにくい。』


ごとん、と重たい音がして、縁側に、黒くて丸い鍋が現れた。


「まあ、ちょうどよかった。古いのに、穴が開きそうだったの」


洗濯物をたたんでいた院長先生が、嬉しそうに手を伸ばした。


その手より先に、白いものが、鍋の中に飛び込んだ。


ルルだった。


鍋のふちに前足をかけて、ひょいと中に入る。くんくんと底のにおいをかいで、くるりと一回まわって、もう一回まわって。


それから、鍋の底に、すぽんと丸くなった。


片手から少しはみ出すくらいの体が、鍋にぴったりおさまっていた。まるで、最初からルルのために作られた鍋みたいだった。


「……ルル?」


返事のかわりに、鍋の中から、ごろごろと喉を鳴らす音が聞こえてきた。


朝の日差しで、鉄の鍋は、もうほんのりと温まっていたらしい。よく温まり、冷めにくい。説明文のとおりだった。


「ルルが、おなべに入っちゃった!」


ミリィが叫ぶと、小さい子たちが、わっと集まってきた。


「ルルのおうちだ!」


「ちっちゃいおふろみたい!」


鍋をのぞき込む小さな頭が、五つ、六つ。ルルはその真ん中で、目を細めて、知らん顔をしていた。


院長先生は、伸ばしかけた手を引っこめて、くすくすと笑った。


「これじゃあ、お鍋が使えないわね」


「出しましょうか」


「いいのよ。お昼までは、ルルに貸してあげましょう」


お昼になって、院長先生がスープを作ろうとしたときも、ルルはまだ鍋の中で眠っていた。そっと抱き上げると、ルルは、とても不満そうに「みゃ」と鳴いた。


その日から、鉄の鍋は、使っていないときだけ、ルルの寝床になった。


ここしばらく、森のことばかり考えていた。でも、鍋の中で丸くなったルルを見ていたら、肩の力が、ふっと抜けた気がした。


鍋の形の影が、一覧から消えて、名前に変わった。


九十四回目。九十五回目。


そして、九十六回目。


ころん。白いカプセル。


『【N】生活魔法の入門書

 生活魔法の使い方が書かれた、薄い本。

 読むと、少しだけ上手になる。』


本の形の影が、名前に変わった。


ぱらぱらとめくってみると、着火の火を少しだけ長く保つ方法や、小さな水を出す魔法のことが書いてあった。水の魔法は、俺にはまだ使えないらしい。でも、着火の火は、読んだあと試してみると、ろうそく一本分から、ろうそく二本分くらいに大きくなった。


ほんの少しだけ。


でも、確かに一つ、増えた。


◇ ◇ ◇


九十六回目を回した夜、俺は一覧の一番下を、もう一度見つめた。


丸い、ドームのような影。SSR。


まだ、灰色のままだった。


あと三回で、九十九回。そこで、止める。


その間に、この影が名前に変わるかどうかは、分からない。たぶん、変わらない確率の方がずっと高い。


それでも、選べるものは、前よりずっと増えた。小石投げ、方向感覚、着火、投石紐、盾、胸当て、堅焼きパン、鍋、本。それに、毎日の細々したもの。


「何を選ぶかは、そのときに決める」


自分に言い聞かせるようにつぶやくと、隣で寝ていたルルが、片目を開けた。


そして、一覧の一番下の、ドームの影のあたりを、じっと見つめた。


……いや、そんなはずはない。ルルには、この光る板は見えないはずだ。


でも、ルルの空色と金色の目は、確かに、そこを見ているように思えた。


「ルル?」


ルルは、何事もなかったように、また目を閉じた。


俺は首をかしげながら、画面を閉じた。


窓の外では、少し冷たくなった風が、木の葉を揺らしていた。


(第17話 終わり)


――――――――――――


【ガチャ記録】第17話まで


ガチャを授かってから 100日目 / ガチャLv.3


回した回数:合計96回(無料81回・魔石15回)


今回出たもの

・魔石ガチャ:【N】青葉草の束、【R】丈夫な革の胸当て、【N】縫い針と糸、【N】乾燥豆(一袋)

・無料ガチャ:【N】紙の束、【N】ろうそく十本、【N】鉄の鍋、【N】生活魔法の入門書


これまでに出たもの

・特別枠【祝福の一回】:【N】子猫(ルル)

・スキル:小石投げ+2、方向感覚、生活魔法:着火(少し上達)

・装備・道具:【R】革の小盾(トーマに)、【R】丈夫な雨合羽、【SR】風読みの投石紐、【R】丈夫な革の胸当て(レンが着用)

・食べ物・レシピ:【R】大きな燻製ハム(孤児院の晩ごはんに)、【N】じゃがいも(一袋)、【N】乾燥豆(一袋)×4、【N】干しいも×3、【N】小麦粉(小袋)×2、【N】乾燥ハーブ×2、【N】レシピ「じゃがいももち」(院長先生に)、【R】干し果物の詰め合わせ(ダンとニコにも)、【R】堅焼きパン(大箱)

・そのほか:【N】革の小物袋、【N】猫じゃらし(ルルの宝物)、【N】塩一袋×7、【N】包帯×8、【N】毛糸玉×2(ルルの宝物)、【N】木のスプーン×2、【N】縫い針と糸×5、【N】手ぬぐい×6、【N】ボタン一袋×3、【N】石けん×5、【N】紙の束×7(地図の下書きに)、【N】炭の棒×6、【N】木のコマ(小さい子たちに)、【N】釘一袋、【N】ビー玉一袋(小さい子たちに)、【R】厚手の毛布(孤児院に)、【N】革ひも×2、【N】丈夫な縄、【N】木の器×2、【N】青葉草の種(孤児院の庭に)、【N】丈夫な靴ひも、【R】大きな布地(院長先生が子どもたちの服に)、【N】指ぬき、【N】革の手袋(投石紐の練習用に)、【N】ろうそく十本、【N】青葉草の束(ダンの家に)、【N】鉄の鍋(孤児院に)、【N】生活魔法の入門書(着火が少し上達)


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