# 第15話 金色のカプセルと、届く距離
# 第15話 金色のカプセルと、届く距離
岩トカゲと戦った次の日、ギルドのカウンターに、青く光る石が三つ並んだ。
小魔石よりもひとまわり大きい。親指と人差し指で作った輪っかくらいの大きさで、中で光がゆらゆらと揺れている。
「中魔石よ。昨日の岩トカゲから出たもの」
リゼさんが言った。
「岩トカゲは二階の魔物だから、スライムよりずっといい魔石を持っているの。三匹とも持っていたなんて、運がよかったわね」
「それで、この魔石なんだけど」
リゼさんの横から、ダンさんが身を乗り出した。隣で、ニコさんもうなずいている。
「全部、レンにやる」
「えっ」
「二人で決めたんだ。お前のガチャ、魔石で回すんだろ?」
「でも、岩トカゲを倒したのは、四人で……それに、最後の一匹はガルドさんが」
「俺の分はいらん」
テーブル席から、ガルドさんの声が飛んできた。こっちを見もせずに、肉の串をかじっている。
「わたしたち、命を助けてもらったんだよ」
ニコさんが、まっすぐに俺を見た。
「お礼をさせて。お願い」
トーマを見ると、トーマは「もらっとけよ」というように、肩をすくめて笑った。
俺は、しばらく迷ってから、三つの中魔石を両手で受け取った。
「……ありがとうございます。大事に使います」
手のひらの上で、三つの石が、青くゆらゆらと光っていた。
――これで、またガチャが回せる。
そのときは、まだ、それだけのことだと思っていた。
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その夜、ひだまりの家の縁側で、俺は中魔石を光の中に入れてみた。
> 所持魔石:小魔石換算 15個
一つで、小魔石五個分になるらしい。手持ちの小魔石五個と合わせて、二十個。ガチャ二回分だ。
縁側には、いつものように子どもたちが集まっていた。今日は、トーマとダンさんとニコさんまでいる。ダンさんの腕には、まだ布が巻かれていた。
「ガチャって、こうやって回すんだな」
ダンさんが、何も見えない空中を、不思議そうに眺めている。
一回目。
ころん。白いカプセル。
> **【N】丈夫な靴ひも**
> とても丈夫な靴ひも。
> ほどけにくい。
「……靴ひも」
「靴ひもだな」
「靴ひもね」
三人の声がそろった。小さい子たちが、なぜか拍手をしている。
「いや、靴ひもは大事だぞ。ダンジョンでほどけたら死ぬ」
ダンさんが、まじめな顔で言った。ニコさんが、笑いをこらえて肩を震わせていた。
二回目。
[はい]に触れる。カプセルが回り始める。
いつもと同じように、光の粒が渦を巻いて――。
渦が、止まらなかった。
――演出が、違う。
頭の奥で、前世の俺が叫んでいた。何百回、何千回と見てきた画面だ。いつもと違う動きをするときに何が起きるのか、頭より先に、体が覚えていた。
光の粒が、どんどん増えていく。画面いっぱいに広がって、まぶしいくらいに輝き始める。色が、白から青へ。青から、さらに――。
「レン?」
トーマが、俺の顔をのぞき込んだ。俺の目に映る光が、何か見えているのかもしれない。
膝の上で丸くなっていたルルが、ぴくりと耳を立てた。
ころん。
転がり出たカプセルは、金色だった。
「…………」
息が、止まった。
白はノーマル。青はレア。そして、金色は――その一つ上。
前世で、何度も見た色だった。何度も見たいと願って、なかなか見られなかった色だった。
ぱかり。
> **【SR】風読みの投石紐**
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手の中に現れたのは、一本の紐だった。
両端に輪っかがついた、細長い革の紐。真ん中だけが少し幅広になっていて、石を包めるようになっている。革には、風の流れのような細い模様が刻まれていた。
> **【SR】風読みの投石紐**
> 石を包み、振り回して投げる紐。
> 腕だけで投げるより、遠くへ、強く届く。
> 小石投げのスキルと合わせて使える。
> 使いこなすには、練習がいる。
「投石紐……」
「なんだそれ?」
「石を投げる道具だよ。この真ん中に石を入れて、ぐるぐる回して、手を離すんだ」
前世の歴史の授業で、見たことがあった。昔の人が戦争で使っていた、とても古い武器だ。腕だけで投げるより、ずっと遠くまで、ずっと強く石を飛ばせる。
「すげえじゃん、レン!」
トーマが、俺の背中をばしばし叩いた。
「金色って、すげえやつなんだろ?」
「うん。今までで、一番すごい」
そう言いながら、俺は、説明文の最後の一行を、もう一度読んだ。
――使いこなすには、練習がいる。
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その説明は、本当だった。
次の日、草原で、さっそく投石紐を試してみた。
石を真ん中に入れて、紐の両端を握る。頭の上で、ぐるぐると回す。手を離す。
石は、とんでもない方向に飛んでいった。
「うわっ!」
後ろで見ていたトーマが、慌てて頭を抱えてしゃがみこむ。石は、トーマの頭のはるか上を越えて、草原の向こうに消えていった。
「ご、ごめん!」
「殺す気か!」
二回目。今度は、足元の地面にめり込んだ。
三回目。紐が手に絡まって、石がぽとりと落ちた。
岩の上で、ガルドさんが腕を組んだまま、黙ってそれを見ていた。
「……小石投げのスキルは、どうした」
「それが、手で投げるときと、全然感覚が違うんです」
手で投げるときは、狙ったところに、体が勝手に動いてくれる。でも、投石紐を回していると、どのタイミングで手を離せばいいのか、まるで分からない。
「スキルは、道具を使う体の動きまでは教えてくれん」
ガルドさんが、岩から下りてきた。
「お前の小石投げは、狙いを教えてくれる。だが、紐を回すのは、お前の腕だ。腕が覚えるまで、何百回でも振るしかない」
「何百回……」
ガルドさんは、俺の手から投石紐を受け取ると、自分で石を入れて、軽く回してみせた。慣れた手つきだった。
「昔、使っていたやつがいた」
ガルドさんは、それだけ言って、紐を俺に返した。
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それから、毎日、草原の端っこで投石紐を振った。
朝は薬草とスライム。昼過ぎから、日が傾くまで、投石紐。ガルドさんは、ときどき「肘が下がっている」「手を離すのが早い」と、短く口を出してくれた。
七日目に、ようやく、狙った方向に石が飛ぶようになった。
十五日目に、狙った木の幹に、三回に一回は当たるようになった。
そのころ、草原で、ちょっとした騒ぎがあった。
南の石の列の向こう、森との境目あたりで、草原オオカミの足跡が見つかったのだ。見つけたのは、薬草を摘みに来ていた別の見習いだった。
草原オオカミは、ふだんは森の奥の方にいる魔物だ。草原の端まで出てくることは、めったにない。
ガルドさんはすぐに足跡を見に行って、戻ってくると、いつもより短く言った。
「一匹だ。はぐれだろう。だが、今日から石の列の近くには行くな」
その日から、俺たちが練習する場所は、草原の北側の、町の城壁が見えるところに移った。
それから何日かのあいだに、足跡はもう二回見つかった。どれも一匹分で、どれも森の方へ戻っていく向きだった。ギルドでも「はぐれオオカミだろう」という話で落ち着いて、貼り紙が出るほどの騒ぎにはならなかった。
でも、俺は、足跡の話を聞くたびに、ガルドさんの家で聞いた話を思い出した。
――オオカミの群れが、森じゅうで吠えているみたいだった。
――ユーリは、最後まで剣を握ったままだった。
夜、布団に入って目を閉じると、ときどき、見たこともない森の景色が浮かんだ。木の間から、灰色の背中がいくつも近づいてくる。その前に立っているのは、ユーリなのか、トーマなのか、自分なのか、分からなかった。
そういう夜は、なかなか眠れなかった。
枕元で丸くなっているルルの背中に手を置いて、温かさを確かめる。隣の布団からは、トーマののんきな寝息が聞こえてくる。
――強くなりたい。
前よりも、ずっと強く、そう思った。
剣で前に立つことは、俺にはできない。でも、後ろから、遠くから、トーマに飛びかかろうとするものを止めることなら、できるかもしれない。手で投げる石が届かない距離でも、投石紐なら届く。
だから、次の日も、その次の日も、腕が上がらなくなるまで紐を振った。
ある日、振りすぎて、紐を握る指の皮がむけた。ガルドさんは、黙って俺の手を取ると、青葉草の汁を塗って、布を巻いてくれた。
「焦るな」
ガルドさんは、布をきつく縛りながら言った。
「お前が今、何を考えているかは、だいたい分かる。だがな、焦って手を壊したら、明日は一回も振れん」
「……はい」
「強くなるのは、ゆっくりでいい。一日一つずつだ」
ガルドさんは、前と同じ言葉を、もう一度言った。それから、少しだけ声を低くした。
「それに、オオカミが出たら、それは大人の仕事だ。お前らの仕事じゃない。それを忘れるな」
俺はうなずいた。うなずきながら、それでも、いつか大人の仕事を手伝えるくらいにはなりたい、と思った。
次の日からは、決まった回数だけ振って、終わりにした。そのかわり、一回一回を、前よりずっと丁寧に振るようにした。
そして、二十日あまりが過ぎたころ。
草原の端に立てた、古い木の板の的に向かって、俺は投石紐を回した。
距離は、手で投げるときの、二倍くらい。
――あそこに、まっすぐ。
手を離す。
ひゅん、と空気を切る音がした。
石は、まっすぐに飛んでいった。小石投げで投げたときと同じように、吸い込まれるように、的の真ん中へ。
がつん、と鈍い音がして、古い木の板に、石がめり込んだ。
「……当たった」
「当たったぞ!」
トーマが、飛び上がった。足元で、ルルが「るるっ」と鳴いた。
手で投げるときより、ずっと遠くまで届く。ずっと強く当たる。
もちろん、まだまだだった。十回投げて、ちゃんと当たるのは六回くらい。回すのに時間がかかるから、魔物がすぐ近くにいるときは、手で投げた方が早い。
それでも。
二十日前の俺には、ここまで届かなかった。
「……一つ、増えた」
思わず、つぶやいていた。
ガルドさんは、何も言わずに、小さくうなずいた。
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その夜、無料ガチャを回したとき、画面に見慣れない表示が出た。
> **【ガチャレベルが上がりました】**
> **Lv.2 → Lv.3**
> ・排出されるものの種類が増えました。
> ・「天井」が見られるようになりました。
「天井……」
画面の端に、新しい表示が増えていた。
> **これまでに回した回数:81回**
> 100回目に、それまでに出たことのある品物の中から、
> 好きなものを一つ選べます。
前世で、何度も数えた数字だった。
あと、十九回。毎日の無料ガチャだけでも、ひと月かからずに届く。
画面の一覧を眺める。小石投げ、革の小物袋、方向感覚、着火、革の小盾、風読みの投石紐、じゃがいも、ハム、猫じゃらし。毎朝の無料ガチャで出た、塩や包帯や毛糸玉のような細々したものも、ずらりと並んでいる。それから、Lv.3で増えたらしい、まだ見たことのない品物の影が、いくつか灰色で並んでいた。
選べるのは、一度出たことのあるものだけらしい。一番上の虹色の枠のルルは、【祝福の一回】の別枠なので、選べるものには入っていなかった。もちろん、ルルはもう俺の隣にいるから、選ぶ必要もない。
「何を選ぶかは、まだ決めなくていいか」
横で寝ていたルルの背中を、そっとなでる。
ガチャレベルが上がったのは、たぶん、今日、投石紐の石が初めて的に届いたからだ。回した回数だけじゃない。ガチャから出たものを本当に使えるようになったとき、何か大事なことを一つ乗り越えたとき、ガチャも一緒に強くなる。
そんな気がした。
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画面を閉じようとして、指が止まった。
一覧の、一番下。
灰色の影の列の、さらに下に、一つだけ、ひときわ大きな影があった。
丸くて、ドームのような形をしている。何かを、すっぽりと包み込むような形。
その横に、小さな文字が浮かんでいた。
> **SSR**
「……エス、エス、アール」
金色の、さらに上。
前世でも、数えるほどしか見たことのない三文字だった。
百回目までに、この影が名前に変わる確率は――前世の俺なら、すぐに計算できた。たぶん、ほとんどゼロだ。
それでも、その丸い影から、しばらく目が離せなかった。
(第15話 終わり/第2章 完)
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**【ガチャ記録】第15話まで**
ガチャを授かってから 89日目 / ガチャLv.3
回した回数:合計81回(無料70回・魔石11回)
今回出たもの
- 魔石ガチャ:【N】丈夫な靴ひも、【SR】風読みの投石紐
- 無料ガチャ:【N】包帯×3、【N】手ぬぐい×2、【N】干しいも、【N】炭の棒×2、【N】塩一袋×2、【N】革ひも、【R】大きな布地、【N】紙の束×2、【N】木のスプーン、【N】乾燥豆(一袋)、【N】石けん、【N】ボタン一袋、【N】小麦粉(小袋)、【N】指ぬき、【N】縫い針と糸、【N】乾燥ハーブ、【N】木の器、【N】革の手袋
これまでに出たもの
- 特別枠【祝福の一回】:【N】子猫
- スキル:小石投げ+2、方向感覚、生活魔法:着火
- 装備・道具:【R】革の小盾、【R】丈夫な雨合羽、【SR】風読みの投石紐
- 食べ物・レシピ:【R】大きな燻製ハム(孤児院の晩ごはんに)、【N】じゃがいも(一袋)、【N】乾燥豆(一袋)×3、【N】干しいも×2、【N】小麦粉(小袋)×2、【N】乾燥ハーブ×2、【N】レシピ「じゃがいももち」(院長先生に)、【R】干し果物の詰め合わせ(ダンとニコにも)
- そのほか:【N】革の小物袋、【N】猫じゃらし(ルルの宝物)、【N】塩一袋×6、【N】包帯×7、【N】毛糸玉×2(ルルの宝物)、【N】木のスプーン×2、【N】縫い針と糸×4、【N】手ぬぐい×5、【N】ボタン一袋×3、【N】石けん×4、【N】紙の束×6(地図の下書きに)、【N】炭の棒×5、【N】木のコマ(小さい子たちに)、【N】釘一袋、【N】ビー玉一袋(小さい子たちに)、【R】厚手の毛布(孤児院に)、【N】革ひも×2、【N】丈夫な縄、【N】木の器×2、【N】青葉草の種(孤児院の庭に)、【N】丈夫な靴ひも、【R】大きな布地(院長先生が子どもたちの服に)、【N】指ぬき、【N】革の手袋(投石紐の練習用に)




