# 第14話 せまい通路と、四人の戦い方
# 第14話 せまい通路と、四人の戦い方
三階が閉じられてから、一週間がたった。
苔むす洞に入れるのは、一階と二階だけになった。それも、ギルドの決まりがいくつか増えた。
二階は、指導役と一緒のときだけ。一階は、登録から一か月を過ぎた見習いなら、必ず二人以上で入ること。そして、どの階でも、日が真上に来る前に一度外に出て、ギルドの見張りに顔を見せること。
「面倒だけど、仕方ないよな」
洞窟の入り口で、トーマが言った。
その日、俺たちはガルドさんと一緒に一階に入っていた。ダンジョンの形が変わっていないか、俺の地図と見比べながら確かめるためだ。
一階に入ってすぐ、見張りの冒険者から聞いた。
「ダンとニコのところの二人も、今朝入っていったぞ。一階の東側で、角ネズミを狩るんだと」
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それが起きたのは、地図の確認を始めて、一時間くらいたったころだった。
ルルが、フードの中で、ぴくりと耳を立てた。
その直後、洞窟の奥から、声が響いてきた。
「――誰か! 誰かいませんか!」
ニコさんの声だった。
東側は、歩けば回り道になるけれど、まっすぐ測ればそれほど遠くない。それに洞窟の中では、声が岩の壁に跳ね返って、外よりずっと遠くまで届くのだ。
ガルドさんの顔色が変わった。
「東側だ。行くぞ」
走り出しかけた、そのときだった。
頭上から、ばさばさばさっ、という羽音が降ってきた。
洞窟コウモリだった。それも、一匹や二匹じゃない。天井の暗がりから、黒い影が次々と剥がれるように飛び出してくる。二十匹、いや、もっと。
「くそっ」
ガルドさんが、腰の剣を抜いた。
コウモリの群れが、ランタンの光に向かって一斉に襲いかかってくる。ガルドさんは剣を振るって、まとめて何匹も叩き落とした。でも、数が多すぎる。
「ガルドさん!」
「お前らは、東へ行け!」
ガルドさんが、群れの真ん中で叫んだ。
「ダンたちと合流しろ。戦うな。下がれ。すぐに追いつく!」
一瞬、迷った。
でも、ガルドさんの目は、まっすぐに俺を見ていた。お前ならできる、と言われているような気がした。
「トーマ、こっち!」
「おう!」
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一階の東側までの道は、全部頭に入っていた。
方向感覚と、何度も描き直した地図。分かれ道を右。下り坂。三本並んだ通路の、真ん中。
普通に行けば、大きく回り道になる。でも、真ん中の通路を抜ければ、近道になるはずだった。
「レン、本当にこっちで合ってるのか!?」
「合ってる!」
息を切らせながら、細い通路を抜ける。
その先の広い部屋に、二人がいた。
ダンさんが、木の槌を構えて、壁際に立っていた。その後ろに、弓を構えたニコさん。
そして、二人を取り囲むように、三匹の岩トカゲがいた。
二階にいるはずの魔物だった。
大きさは、大型の犬くらい。灰色のごつごつした皮。ゆっくりと、でも確実に、二人に近づいていく。
「ダンさん! ニコさん!」
「レン!?」
ダンさんが振り返った。その左腕から、血が流れていた。
「噛まれた……いきなり、三匹も出てきて……」
一番手前の岩トカゲが、ぐっと体を低くした。飛びかかる前の姿勢だ。
俺は、袋から石をつかんだ。
――目を狙え。
ガルドさんの声が、頭の中で響いた。
投げる。まっすぐ。小石投げ+2の石が、岩トカゲの右目に吸い込まれていく。
ばしっ。
岩トカゲが、悲鳴のような声を上げてのけぞった。
「トーマ!」
「任せろ!」
トーマが、革の小盾を構えて、ダンさんたちの前に飛び込んだ。のけぞった岩トカゲの鼻先を、盾で思いきり押し返す。
残りの二匹が、こっちを向いた。
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「全部は倒せない」
俺は、声に出して言った。自分に言い聞かせるように。
岩トカゲは皮が硬い。俺の石では、目か喉に当てないと効かない。トーマの木剣では、皮を通せない。ダンさんは怪我をしている。
戦うな、下がれ。ガルドさんは、そう言った。
でも、ただ下がるだけでは、追いつかれる。
頭の中の地図をたどる。この部屋から、俺たちが来たのとは別の方向に、一本だけ細い通路が伸びている。人が一人、やっと通れるくらいの幅。
あそこなら。
「みんな、聞いて!」
俺は叫んだ。
「あっちに、細い通路がある。あそこに入れば、岩トカゲは一匹ずつしか来られない!」
ニコさんが、はっと俺を見た。
「トーマが一番前で、盾で止める。俺とニコさんが、後ろから目を狙う。ダンさんは、真ん中で、トーマがあぶなくなったら槌で押し返して!」
「わ、分かった!」
「背中を見せないで、ゆっくり下がって!」
四人で、じりじりと通路の方へ下がっていく。岩トカゲたちが、こっちの動きに合わせて、少しずつ距離を詰めてくる。
一歩。また一歩。
背中が、通路の入り口に触れた。
「入って!」
ニコさんが先に滑り込む。次に、腕を押さえたダンさん。俺。最後に、盾を構えたまま、トーマが後ろ向きに入ってきた。
通路は、思ったとおり狭かった。トーマ一人で、ほとんどいっぱいになる。
岩トカゲの一匹が、通路の入り口に頭を突っ込んできた。
「来たぞ!」
トーマが、盾で正面から受け止めた。がつん、と重い音がする。トーマの足が、ずるりと後ろに滑った。
「トーマ、そのまま!」
トーマの肩越しに、岩トカゲの目が見えた。
投げる。
ばしっ。左目に当たった。岩トカゲがのけぞる。
その瞬間、俺の耳元を、ひゅっと何かが通り過ぎた。
ニコさんの矢だった。岩トカゲの喉元、皮の柔らかいところに、深々と突き刺さる。
岩トカゲが、ぐらりと揺れて、横倒しになった。
「やった……!」
ニコさんが、震える声で言った。
次の一匹が、倒れた仲間を押しのけるようにして、通路に入ってこようとする。
トーマが盾で止める。ダンさんが、トーマの横から槌を突き出して、岩トカゲの鼻先を叩く。俺が目を狙う。ニコさんが喉を狙う。
狭い通路の中で、四人の動きが、だんだん一つになっていった。
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二匹目が倒れたとき、通路の外で、重い足音がした。
最後の一匹が、ぎゃっと悲鳴を上げて、それきり静かになった。
「……無事か」
通路の入り口に、ガルドさんが立っていた。
肩で息をしていた。シャツのあちこちが、コウモリの爪で裂けている。でも、剣を握る手は、しっかりしていた。
足元には、最後の岩トカゲが倒れていた。
「ガルドさん……!」
体から、一気に力が抜けた。膝が、がくがくと震え出す。トーマが、盾を構えたまま、その場にへたり込んだ。
「ダンさんが、腕を噛まれてて」
「見せろ」
ガルドさんが、ダンさんの腕をのぞき込む。傷は深くはなかったけれど、血がまだ止まっていなかった。
俺は、腰の袋を探った。
草原で薬草を摘むようになってから、いつも何本か持ち歩くようにしていた。青葉草。
水筒の水で傷を洗う。青葉草の葉を手のひらでもんで、汁を出す。それを傷に当てて、布でしっかりと縛る。
草原で、何度も練習したとおりに。
「……ひんやりする」
ダンさんが、ぽつりと言った。
ガルドさんは、俺の手元を、黙って見ていた。
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洞窟を出たときには、日が少し傾き始めていた。
ダンさんの腕の傷は、ギルドの治療係に見てもらったら、「手当てが早かったから、すぐ治る」と言われた。
ギルドの前で、ダンさんとニコさんが、俺たちに深く頭を下げた。
「ありがとう。お前らがいなかったら、どうなってたか」
「レン君の地図と、トーマ君の盾がなかったら、わたしたち……」
ニコさんの目が、少し赤くなっていた。
「いや、俺たちも、ニコさんの矢がなかったら倒せなかったし」
「ダンさんの槌もな!」
トーマが言うと、ダンさんは、照れくさそうに鼻の頭をかいた。
その横で、ガルドさんが、俺とトーマの頭に、ごつごつした手を一つずつ置いた。
「よく下がった」
それだけだった。
でも、それが、今まで言われたどんな言葉よりも、嬉しかった。
「戦わずに下がって、狭いところで一匹ずつ相手にする。怪我人を真ん中に置く。手当てをする。……全部、教えたとおりだ」
ガルドさんは、少しだけ、口の端を上げた。
「一つずつ、増えてるな」
(第14話 終わり)
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**【ガチャ記録】第14話まで**
ガチャを授かってから 65日目 / ガチャLv.2
回した回数:合計55回(無料46回・魔石9回)
今回出たもの
- 無料ガチャ:【N】塩一袋、【R】干し果物の詰め合わせ、【N】木の器、【N】紙の束、【N】青葉草の種、【N】石けん、【N】縫い針と糸
これまでに出たもの
- 特別枠【祝福の一回】:【N】子猫
- スキル:小石投げ+2、方向感覚、生活魔法:着火
- 装備・道具:【R】革の小盾、【R】丈夫な雨合羽
- 食べ物・レシピ:【R】大きな燻製ハム(孤児院の晩ごはんに)、【N】じゃがいも(一袋)、【N】乾燥豆(一袋)×2、【N】干しいも、【N】小麦粉(小袋)、【N】乾燥ハーブ、【N】レシピ「じゃがいももち」(院長先生に)、【R】干し果物の詰め合わせ(ダンとニコにも)
- そのほか:【N】革の小物袋、【N】猫じゃらし(ルルの宝物)、【N】塩一袋×4、【N】包帯×4、【N】毛糸玉×2(ルルの宝物)、【N】木のスプーン、【N】縫い針と糸×3、【N】手ぬぐい×3、【N】ボタン一袋×2、【N】石けん×3、【N】紙の束×4(地図の下書きに)、【N】炭の棒×3、【N】木のコマ(小さい子たちに)、【N】釘一袋、【N】ビー玉一袋(小さい子たちに)、【R】厚手の毛布(孤児院に)、【N】革ひも、【N】丈夫な縄、【N】木の器、【N】青葉草の種(孤児院の庭に)
読んでいただき、ありがとうございます!
次回
〔今日の19時〕に更新します。




