# 第11話 ルルと、じゃがいももちの日
# 第11話 ルルと、じゃがいももちの日
落とし穴の一件があってから、ガルドさんは「しばらくダンジョンは休みだ」と言った。
「ギルドに報告して、二階を調べてもらう。それが済むまで、お前らは草原だけだ」
そういうわけで、その週の終わりは、久しぶりに丸一日の休みになった。
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朝。
いつものように縁側で無料ガチャを回そうとしたら、背中にずしりと重みがかかった。
「レン兄ちゃん、今日はわたしが押す!」
ミリィだった。俺の背中によじ登って、肩越しに空中をのぞき込んでいる。もちろん、ミリィには何も見えていない。
「押すって、ミリィには見えないだろ」
「見えなくても押すの! レン兄ちゃんの指の上から押すの!」
「……じゃあ、一緒に押そうか」
俺は[はい]のところに指を伸ばした。その上に、ミリィの小さな指がぎゅっと重なる。
「せーの!」
ころん。白いカプセル。
ぱかり。
> **【N】レシピ「じゃがいももち」**
> じゃがいもと、少しの粉で作れる。
> もちもちしておいしい。
手の中に、四つ折りにされた一枚の紙が現れた。広げると、丁寧な字で作り方が書いてある。ゆでたじゃがいもをつぶして、粉を混ぜて、丸めて焼く。最後に、塩をひとつまみ。
「……レシピだ」
「れしぴ?」
「料理の作り方が書いてある紙だよ」
ミリィの目が、きらりと光った。
「おいしいの?」
「たぶん、おいしい」
「つくる!」
ミリィが叫ぶと、どこから聞いていたのか、家の中から小さい子たちがどどどっと走り出てきた。
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じゃがいもは、前にガチャで出た一袋がまだ半分残っていた。粉は、院長先生が「少しだけなら」と棚の奥から出してくれた。
台所は、あっという間に子どもたちでいっぱいになった。
「じゃがいもをゆでるから、まずはかまどに火をつけるね」
指先に意識を向ける。――着火。
ぽっ、と小さな火が灯った。かまどに入れた細い薪に近づけると、火はすぐに燃え移って、ぱちぱちと音を立て始めた。
「レン兄ちゃん、それ、毎朝見てもすごいね」
ポポが感心したように言った。
着火のスキルが出てから二週間、毎朝のかまどの火つけは俺の仕事になっていた。院長先生は「火打ち石を使わなくていいなんて、夢みたい」と喜んでくれて、それがなんだか嬉しかった。
ゆで上がったじゃがいもを鍋から上げて、皮をむく。熱いので、ここは俺とトーマの担当だ。
「あっつ! あつっ!」
「トーマ、水につけながらむくといいよ」
「先に言えよ!」
むいたじゃがいもを大きなボウルに入れて、小さい子たちに渡す。
「これを、木のへらでつぶしてね」
「はーい!」
四人がかりで、ボウルの中のじゃがいもを、ぎゅっぎゅっとつぶしていく。ミリィは力が足りなくて、へらを両手で握って、体ごと体重をかけていた。
そのボウルの縁に、白いものがちょこんと前足をかけた。
ルルだった。
ふわふわの顔を、ボウルの中にそうっと近づけて、くんくんと匂いを嗅いでいる。
「ルル、だめー! これはみんなのなの!」
ミリィが慌ててボウルを抱え込む。ルルは「……るる」と残念そうな声を出して、ぺたりとボウルの横に座り込んだ。でも、目はずっとボウルの中を追いかけている。
「ルルにも、あとで味つけしてないのを少しあげるから」
俺がそう言うと、ルルの耳がぴんと立った。
……本当に言葉が分かっているんじゃないだろうか、こいつ。
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つぶしたじゃがいもに、粉を少しずつ混ぜて、こねる。
レシピには「耳たぶくらいのやわらかさ」と書いてあった。
「耳たぶって、これくらい?」
ポポが、自分の耳たぶを引っ張りながら、もう片方の手で生地をつまんでいる。
「うーん、もうちょっと硬いかな」
「レン兄ちゃんの耳たぶ、さわっていい?」
「なんで俺の」
結局、子どもたち全員が、お互いの耳たぶと生地を交互に触って確かめるという、よく分からない時間になった。台所は笑い声でいっぱいだった。
生地ができたら、一人一つずつ丸めていく。
「平べったく、丸くね。手のひらくらいの大きさに」
みんなの手から、いろんな形のじゃがいももちが生まれた。きれいな丸。ちょっといびつな丸。ポポのは、なぜか星みたいな形になっていた。
「それ、何?」
「ルル!」
ポポが自信満々に見せてくれたのは、よく見ると、耳が二つとしっぽがついた形だった。言われてみれば、猫に見えなくもない。
「すごい、ルルだ!」
「わたしもルル作る!」
あっという間に、まな板の上に、いびつな猫の形がいくつも並んだ。
本物のルルは、その様子を、少し離れたところから不思議そうに眺めていた。
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鉄鍋に少しだけ油を引いて、じゃがいももちを並べて焼く。
じゅう、といい音がした。
しばらくすると、香ばしい匂いが台所いっぱいに広がっていく。裏返すと、きつね色の焼き色がついていた。
「わあ……」
子どもたちが、鍋のまわりに顔を寄せて、ため息をついた。
最後に、塩をひとつまみ。
焼き上がったじゃがいももちを、大きなお皿に山盛りにして、食堂のテーブルに運ぶ。
「いただきます!」
一口かじると、外はかりっとしていて、中はもちもちだった。じゃがいもの甘さと、ほんの少しの塩気。シンプルだけど、いくらでも食べられそうな味だった。
「おいしい!」
「もちもちしてる!」
「ルルの形のやつ、耳が焦げてる!」
テーブルのあちこちで、歓声が上がる。
院長先生も、一つ口に運んで、目を丸くした。
「まあ、おいしい。じゃがいもと少しの粉だけで、こんなに満足できるなんて」
「レシピ、院長先生が持っていてください」
俺は、四つ折りの紙を院長先生に渡した。
「じゃがいもなら、市場で安く買えますよね。これなら、いつでも作れると思うんです」
院長先生は、紙を受け取って、しばらくじっと文字を眺めていた。それから、大事そうにエプロンのポケットにしまった。
「ありがとう、レン。これは、ひだまりの家の大事な料理になりそうね」
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約束どおり、ルルには、塩をつける前のじゃがいももちを少しだけ、小さくちぎってあげた。
ルルは、皿に鼻を近づけて、ふんふんと匂いを嗅いでから、ぱくりと食べた。
それから、もう一つ。もう一つ。
皿が空になると、ルルは満足そうに前足で顔を洗って、俺の膝の上に飛び乗ってきた。そして、ぐるぐると何度か回ったあと、丸くなって目を閉じた。
「ルル、お腹いっぱいなのね」
隣に座ったミリィが、ルルの背中をそっとなでる。ルルは、目を閉じたまま、喉をごろごろと鳴らした。
「ねえ、レン兄ちゃん」
「ん?」
「ルル、最初より大きくなった?」
言われて、膝の上のルルを見下ろした。
最初にガチャから出てきたときは、手のひらにすっぽり乗るくらいだった。今は、手のひらから、ほんの少しだけはみ出す。言われなければ気づかないくらいの違いだ。でも、毛並みは前よりふさふさしてきた気がする。
「うん。ほんのちょっとだけ、大きくなってるね」
「わたしも、ちょっとずつ大きくなってる?」
「なってるよ。ミリィも、ポポも、みんな」
ミリィは嬉しそうに笑って、ルルの背中に、そっと頬をくっつけた。
窓から、午後の日差しが差し込んでいた。食堂のテーブルの上には、空っぽになった大皿と、子どもたちの笑い声の名残。
膝の上の重みと温かさを感じながら、俺はぼんやりと思った。
ダンジョンも、魔物も、二階の罠のことも、今日だけは少し忘れていよう。
こういう日のために、俺は強くなりたいんだ。
(第11話 終わり)
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**【ガチャ記録】第11話まで**
ガチャを授かってから 52日目 / ガチャLv.2
回した回数:合計41回(無料33回・魔石8回)
今回出たもの
- 無料ガチャ:【N】レシピ「じゃがいももち」、【N】石けん、【N】紙の束、【N】乾燥豆(一袋)
これまでに出たもの
- 特別枠【祝福の一回】:【N】子猫
- スキル:小石投げ+2、方向感覚、生活魔法:着火
- 装備・道具:【R】革の小盾
- 食べ物・レシピ:【R】大きな燻製ハム(孤児院の晩ごはんに)、【N】じゃがいも(一袋)、【N】乾燥豆(一袋)×2、【N】干しいも、【N】小麦粉(小袋)、【N】乾燥ハーブ、【N】レシピ「じゃがいももち」(院長先生に)
- そのほか:【N】革の小物袋、【N】猫じゃらし(ルルの宝物)、【N】塩一袋×3、【N】包帯×3、【N】毛糸玉(ルルの宝物)、【N】木のスプーン、【N】縫い針と糸×2、【N】手ぬぐい×2、【N】ボタン一袋、【N】石けん×2、【N】紙の束×3(地図の下書きに)、【N】炭の棒×2、【N】木のコマ(小さい子たちに)、【N】釘一袋、【N】ビー玉一袋(小さい子たちに)、【R】厚手の毛布(孤児院に)、【N】革ひも




