厨房のお仕事④ 買い出し1
――翌朝。
私は、まだ薄暗い廊下をふらふらと歩いていた。
昨日の洗い物の疲れが、腕にも腰にも残っている。
厨房に入ると、ガストンさんが大きな背中を丸めていた。
腰を押さえ、苦しそうに唸っている。
「おはようございます。ガストンさん」
「おお!新入りか……。悪いが、今日も頼む……!」
ガストンさんは、昨日よりも辛そうだった。
「早速だが、俺は市場まで行けそうにねえ。悪いが買い出しを頼む!」
「私、ひとりですか……?」
私は昨夜から覚悟していたけど、一応聞いた。
私はこの世界にきて、お屋敷の外に出たことがない。
「ああ、そうだ!」
「市場はどちらに? それに何を買ってくれば……」
「心配はいらねえ! 市場まではお屋敷を出て一本道だ!
そんで、市場についたら、魚屋の“バルバラ”って婆さんを訪ねろ!
『ガストンの使いです』って言やあ、新鮮な魚を売ってくれる!」
「わかりました……」
お屋敷の外の世界。わくわくするような気もするけど……。
〈ミツキ、僕が案内するよ〉
え!そんなことできるの……?
〈もちろんだよぅ〉
そういえばソルってAIなんだった。
でもこの世界のこともわかるの?
〈この世界の情報は随時インストール中だよぅ〉
インストール……? どこから?
〈うーん……。どこからだろぅ……?〉
……。 変なの。
「……おい。大丈夫か?」
「は、はい!」
「朝はとにかく時間がねえんだ。
こっちのできることはやっておくから、さっさと行ってきてくれ」
「はい! いってきます!」
厨房を出て、私は玄関ホールへ向かった。
お屋敷の外に出るなんて、初めてだ。
玄関ホールから、庭へ出る。
ひんやりとした朝の空気が私の頬を撫でた。
お屋敷は高い塀で囲まれていて、正面に重厚な門扉がある。
門扉の前で深呼吸をする。
「……よし」
重い扉を押し開けた。
この先はどんな景色何だろう。期待と不安が入り混じる。
私は扉を押し切り、顔を上げた。
「……きれい……」
目の前に広がったのは、見たことのない景色。
でもどこか懐かしい。そんな景色だった。
――朝日を待つ、薄暗い、水色の空。
新緑に黄色いお花の咲いた丘陵。
うねりながら続く石畳の道。
その先には港町が見える。
温かい花の香りをまとった風が、私を通りすぎていく。
〈ミツキ、急がなきゃ〉
そうだった! 急ごう!
私は石畳の道をかけだした。




