厨房のお仕事③ 仕込みと洗い物
食堂を出た私は、胸を押さえながら廊下を歩いた。
心臓がまだどきどきしている。
〈ミツキ……すごかったよぅ……〉
「ソル……もう……ほんとに緊張した……」
私はふらふらと厨房へ戻った。
扉を開けると、ガストンさんが腕を組んで待っていた。
「おう。無事に終わったか?」
「は、はい……! なんとか……」
「よーし! よくやった!」
ガストンさんが豪快に私の肩をたたく。
ちょっと……いや、結構……痛い……。
「でも、アルバートさんがいなかったらダメでした」
「なーに、困ったときはお互い様だ!
アルバートさんが困っているときがあれば助けてやればいいんだ!」
「……そうですね……」
果たしてそんな日が来るのだろうか。
そんな日が来たときは、私のできるすべてをぶつけよう。
「じゃあ次は、明日の仕込みだ!」
「えっ!まだあるんですか……?」
「そりゃそうだ!この後は明日の仕込みに、俺たち使用人の夕食……。
……まあ今はほとんどリリアナ様の食事と一緒に作らせてもらってはいるがな……。
あとは、洗い物だ!こいつはしびれるぞ!特大の鍋、フライパンに、大量の食器だ!」
「ひぃっ……」
〈ミツキ、がんばれ~〉
もうっ……! 他人事みたいに言わないでっ……!
――
「さあ! まずは野菜の下ごしらえだ!
明日の朝食用に全部刻んじまうぞ!」
「ぜ、全部……?」
「全部だ! 辺境伯家の朝は早いんだ。
日の出前にはスープを煮始めねえと間に合わねえ!」
ガストンさんは腰を押さえながら、
大きな籠をどん、とテーブルに置いた。
中には――
玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、セロリ、キャベツ……
山盛りの野菜が詰まっていた。
「ひぃっ……」
〈ミツキ、がんばれ~〉
もうっ! 手伝えないんだからだまって!
〈応援はできるよぅ~〉
私はソルを無視した。
「よし! まずは玉ねぎからだ!」
ガストンさんは不敵に笑った。
――
「うぅ……。やっと終わった……」
「まあ、及第点ってとこだな! 早さはやってりゃ身につく!
よし、次は肉だ!」
「えっ……まだあるんですか……?」
「あるに決まってるだろ!
明日の昼食は “辺境伯特製シチュー” だ。
肉を切って、筋を取って、下味をつける!」
私の目の前に大きな牛肉の塊がどん、と置かれる。
「ひぃっ……」
〈ミツキ、がんばれ~〉
ソルは黙っててぇぇぇ!!
――
「よし! まあいいだろう!」
「うぅ……。もう限界です……」
「なぁにいってんだぁ! まだまだこれからだぞ!
次は洗い物を片付けなきゃなあ!」
厨房を見渡すと、私の胴ほどある鍋や積み重なった特大フライパン、
こまごました食器など、うんざりするような光景が広がっていた。
私は頭は真っ白になった。
〈ミツキ、がん――〉
うるさいっ!!
〈でも、働かないと――〉
もうゆるしてぇぇぇぇ!!
――
結局その日のうちに洗い物を終えることはできなかった。
ガストンさんは、「仕方がないから、明日の朝に持ち越しだ!」
といって厨房を後にした。
明日は、朝から市場で魚の買い出しをして、朝食も作るそうだ……。
私の胸はきゅっと縮まった。
このままではまずい。また眠れない日々の再来だ。
私はその夜久しぶりに夢を見た。
〈でも、働かないと――〉
もう!勘弁してぇぇぇ!!!!




