厨房のお仕事② 配膳
「早速だがなあ、新入り。今日の夕食の準備はもうできてる。
こいつを盛り付けて、食堂に運んでくれ」
そこには煌びやかな料理が並んでいた。
牛のロースト肉、白身魚の香草焼き、ポタージュスープ、焼きたてのパン、バター・チーズ、季節の果物、ハーブティー。
これを毎食……?
私は早速弱気になった。
「本当は一品ずつ出すもんだが、今はリリアナ様のご厚意でまとめて出させてもらってるんだ。
俺も最初はプライドが許さなかったが、こうも人がいねえんじゃどうしようもねえ」
そうか……。コース料理は一品ずつ出てくるもんな……。
「それに今はアルバートさんが夕食に同席してる。
リリアナ様もひとり味気ねえだろう。
だから盛り付けは二人分だ!きっちり頼むぞ!」
知らないことばかりだ……。
「リリアナ様はきっかり18時に食堂にいらっしゃる。遅れるんじゃねえぞ」
そういってガストンさんは時計を見た。私も見た。
――17時50分。
「まずい!」「まずい!」
二人の声が重なった。
慌ててガストンさんが私に指示を出す。
「まずは肉料理だ! 皿は温めてある、冷めねえうちに盛れ!」
「は、はいっ!」
私は慌ててロースト肉の皿を手に取った。
銀皿は思った以上に重く、手が震える。
〈ミツキ、気を付けて。落としたら終わりだよぅ……〉
ソル黙ってて!!
肉を乗せ、香草を添え、ソースをかける。
ガストンさんが横から覗き込む。
「ソースはもっと端まで! 見栄えが命だ!」
「す、すみません!」
時計の針が進む。
――17時51分。
「次! 魚料理! 頭は左だ!」
「頭……? 左……?」
私は白身魚の香草焼きを慎重に盛り付ける。
香草が少しずれた。
「なにやってんだ!」
「すっ、すみません!」
焦るな、落ち着け、私……。
――17時52分。
「次はパンだ!」
「はいっ!」
私はパンを籠に入れ、バターを添えた。
頭が追いつかない。
――17時53分。
「スープをよそえ! こぼすなよ!」
「はひぃっ……!」
私は震える手でポタージュをよそい、皿に注ぐ。
ガストンさんが横で見守る。
「……よし、悪くねえ。次だ!」
褒められたのかどうかはわからない。
――17時54分。
「果物! 盛り付けは彩り重視だ! 赤、黄、緑の順!」
「赤、黄、緑……!」
震える私の手から、ぶどうが転がり落ちた。
私はとっさに拾おうとした。
「転がったぶどうは使うな! 新しいのを出せ!」
「はいっ!」
――17時55分。
「全部盆に乗せろ! 落とすなよ!」
私の頭はパンク寸前だった。
その時、突如厨房の扉が開き、アルバートさんが現れた。
「ガストンさん。お料理の準備は――」
「ちょうどいい! アルバートさん手伝ってくれ!」
「ええ。もちろんですとも」
それからはあっという間だった。
アルバートさんは素早く料理を運び、
慣れた手つきでテーブルにナイフやフォークを並べた。
良かった……。 私一人では絶対に間に合わなかった。
私はアルバートさんの所作を見守っていた。
――18時00分。
突如重厚感のある鐘の音が鳴り響いた。18時を告げる鐘だ。
こつ。こつ。ヒールの音が近づいてきた。
私はまだ食堂にいた。
あれ……? まずい! 私はここにいていいの!?
「ミツキ様。こちらへ」
テーブルセッティングを終えたアルバートさんは、
扉の前へ移動し、私を後ろに立たせた。
心臓がどきどきする。
こつ。こつ……。扉の前でリリアナ様が止まった。
アルバートさんは一度私と目を合わせ、扉を引いた。
「どうぞ。リリアナ様」
「ありがとう」
リリアナ様が食堂に入る。
アルバートさんは私に、リリアナ様の背になった扉から出るように合図した。
私は息をひそめ、音を立てないように部屋を出た。
扉を閉めるアルバートさんは、いつもの穏やかな目で微笑んでいた。




