厨房のお仕事① ガストン・グッドマン
~第1章のあらすじ~
ミツキはAI・ソルと共に異世界へ転移し、
深刻な人手不足に陥った名門――アルセリア辺境伯家でメイドとして働くことに。
悪役令嬢リリアナの厳しい叱責に耐えながら、
執事アルバートや料理長ガストンに支えられ、なんとか最初の仕事をやり遂げる。
そんな中、ガストンが腰を痛めてしまい、
ミツキは新たな試練――厨房の仕事を任されることになる。
――アルバートさんから話を聞いた私は、すぐに厨房を訪れた。
「おう! 新入り! すまねえな!」
「ガストンさん! 大丈夫ですか?」
「ああ! 少し痛めただけだ。唾でもつけとけばすぐ治る。
まったく年は取りたくねえもんだな」
アルバートさんが言っていたことだけど、
数週間は安静にしていたほうがいいらしい。
「ガストンさん、私頑張りますので、ちゃんと治るまでは安静にしていてください」
「あぁん?」
急にガストンさんの顔が曇った。
一瞬で空気が張り詰める。
「それじゃあなにか?
俺が何十年もかけてやっとこさやっていることを、あんたはすぐにやれるって言うのかい?」
「いっ、いえ……、私、そんなつもりで言ったわけでは……」
私は慌てて、誤解を解こうとする。
ガストンさんは、じっと私の目を見た。
「それになあ、簡単に頑張るなんて口にしちゃ、いけねえ。
頑張るってのは、並大抵のことではねえ。
毎日自分をすり減らす覚悟がいることなんだ」
「は、はい……。すみません……」
「ふんっ……」
ガストンさんはそっぽを向いてしまった。
私はいきなりのことにあっけにとられ、何を言えばいいのかわからなかった。
厨房の空気が重たい。
それからしばらく沈黙が続いたが、彼が痺れを切らし、大きなため息をついてから言った。
「まあいい。どのみちあんたにやってもらうしかないんだ。
腰が治るまでは、俺があんたに指示を出す。
あんたの頑張り、見せてもらおうじゃないか」
そういうと彼は不敵な笑みを浮かべた。
「はっ、はい!」
ガストンさんはもう一度私の目をじっと見据え、そのあと右手を伸ばしてきた。
私はどういう意味か分からなかった。
「握手だよ! これからよろしく頼むってことだ」
「はっ、はい!」
私は慌てて手を伸ばし、握手をした。
握った彼の手は、大きく、そして堅かった。
太い指と厚い掌に、何重にもマメが積み重なっている。
その厚いマメを引き裂くように、あかぎれがいくつもあった。
これまでこの厨房を背負ってきた手だ。そう感じた。
彼の今までの人生に比べたら、
私の ”頑張ります” は間違いなく薄っぺらなものだろう。
誤解、ではなく、自分が軽薄だったことを反省する。
顔を上げると、ガストンさんと目が合った。
彼は、 ”わかればいいんだ” そんな顔をした。




