6話 単福
「……どうしたものかな~」
庵へと帰る途中の山。
そこをとぼとぼと歩きながら唸る。
孔明様に出された課題である、『利』。
すぐに思い付いたものは、水を迅速に手に入れる方法。
井戸をポンプ式に改造することだ。
水を汲む労力を抑えることができれば、ろ過にまで興味を持ってもらえるかもしれない。
悪くないアイディアだと思ったんだけど……
「……思いっきり、門前払いだったな~」
ポンプ式の井戸は、金属のパーツがないとかなり厳しい。
そう思って、均君に場所を教えてもらって鍛冶屋に行ってみたが……
『そんな意味不明なもの作れるか!』
『細かすぎてめんどく……あ~今、注文だらけでな』
『……ひぃ!? タヌキの妖怪!?』
という有様。
……最後の鍛冶屋、その顔覚えたからな?
「それにしても『利』、か」
私の作った『多層ろ過装置』は、たしかに水は綺麗になる。
けれど……
『水をより安全にしたいというわりには、別に完全に安全なわけではない』
『井戸や川で汲んだ水を『多層ろ過装置』でろ過しなければならない』
つまり、安全性も中途半端なうえに、水汲みの作業がひとつ増えるのだ。
水が綺麗になるのは理解してもらえても、一部の物好きが使うだけで普及はしないだろう。
それでは意味がないのだ。
「……あの鍛冶屋に、タヌキの呪いをかけるぞとか脅してみるか?」
「なるほど。それは効果的な策ですね~♪」
「え……うわっ!?」
なんか、いきなり私の真後ろに男の人が立ってる!
いや、いつ近づいたの!?
獣が出たら逃げようと警戒してたんだけど!
「それでそれで? どんな悪だくみをする気だったんですか?」
目を細めながら、イタズラっぽい顔で近づいてくる男の人。
(ヤバい……絶対、この人ヤバい……!)
存在感が、猟銃持ってる時のおじいちゃんだし!
「そんなに警戒しなくても、別に取って食ったりしませんよ?」
「そ、そうですか。安心しまし……」
「……まあでも、貴女は小さなタヌキみたいで美味しそうですけど」
「た、食べないでください……」
「あはは、冗談ですよ、冗談~♪」
丁寧に、なのに豪快に笑う。
なんなんだこの人、ちょっと今までにないタイプすぎる!
前髪が長い、いわゆる『目隠れ男子』で、着物も着崩すことなく綺麗に着こなしている。
普通に育ちのいい好青年っぽいんだけど、山で遭遇したイノシシより全然怖い。
これは後退しつつ、隙を見て全力疾走で逃げるしか——
「そんな警戒しないでよ~。ほらこれ、お近づきの印の餅。ネギいっぱいで美味しいよ~♪」
「!?」
いやだから、なんで先回りしてるの!?
振り向いたらそこに目隠れ男子とか、ホラー映画の距離感なんだが!
「それにそれに、僕のそばにいた方がいいですよ~?」
後ろに下がっていく私を、的確に追い詰めていく目隠れ男子。
そして、ついには壁……いや、樹ドン状態になる。
「だってさ~?」
「……ひっ!?」
前髪を両手で一気にあげる目隠れ……いやもう隠れてないので男の人。
露になった目はとても鋭く、まるで獣のようだった。
そしてそのまま……
「……俺のそばにいないと、危ないぜ?」
後ろに振りむきながら、懐から取り出した短剣を投げる。
恐ろしい速度で閃いた短剣は、遥か遠くにあった太い木の枝を真っ二つに切り落とし、その奥の樹幹に深く突き刺さった。
すると、樹の影から男たちがサッと散るように去っていく。
「あ、あれは……」
「たぶん、人攫いだろうなぁ。お嬢ちゃんが、市場の鍛冶屋で追い出されてから、ずっとつけてたぜ。怪しいと思って、見に来て正解だったな」
「あ、ありがとうございます……えーと……」
「単福です。以後、お見知りおきを♪」
前髪をサラリと元に戻しつつ、再び元の柔らかい笑みを浮かべながら手を差し伸べてきた。




