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自転車に乗った月英さん~女子高生、孔明の妻始めました~  作者: イチロウ
3章 今の自分ができる事

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第41話 弓作り開始!

「……すごい。これ全部、私の知っている和弓そのものですよ」


 蒲元さんがいくつか作ってみたという、和弓の型を見る。

 接着されていないので、楔と麻縄で巻いて固定、状況を見るために弦も張っている。


 握った感じは和弓そのものだし、竹も綺麗だ。

 油抜きされているようだし、資材用の数年放置した竹を使っているのだろう。

 乾燥した竹ならではの、少しくすみつつも鮮やかな色をしている。


 これ全部、そのまま完成させちゃってもいいんじゃないだろうか。


「へへっ、理屈さえ分かれば、どんなものでも作ってやるのが職人よ! ……と言いたいところだが、はっきり言って旦那のおかげだ」


 そう言いながら蒲元さんは、離れたところで文長さんと馬岱さんをしごいているイケオジさんに目線を向ける。


「な、なんで、弓の修練なのに槍を振り回さなければならんのだ!」

「余計な力を抜くのが弓の基本。自分でできないならば、力を入れられなくなるまで疲れさせるのが一番早いのですよ」

「なるほど……ならば、限界まで振ってやる!」

「……なぜ、私まで?」

「負けて落ち込んでいる時こそ、体を動かす。頭を空っぽにして修練なさい」

「……なるほど、たしかに」


 完全に心が折れていたふたりを復活させるとは、すごい指導力だ。

 ……まあ、やってることは完全に体育会系だが。


「作ってる最中に、横から色々と助言してくれたんだよ。大弓としての機能が弱るからここを削れ、もう少し上を長くしないと矢に力が伝わらない、とかな」

「そ、そんな的確に?」

「旦那は弓の達人だからな。弓を見ただけで、これを使えばどうやって矢が飛んでいくとかも分かるんだろ」


 ……いや感覚だけで、弓作りの職人さんたちが何十年も修行してようやくたどり着く境地に到達しちゃうの!?

 弓を使える人だし、化け物だとは思っていたけど、まさかここまでとんでもない人だったとは。

 

 黄家とか、護衛手配にも色々と口が利くって言ってたし、何者なんだ、あのイケオジさん。

 そういえば、名前聞くの忘れてたな……まあ、そのうち聞こう。


「それで、ここまで作ったわけだが……もう一度確認するぞ。本当に、数日で『弓』が作れるんだな?」


 ……やっぱり、それ聞きますよね~。

 そりゃそうか。本来、弓作りは大体1年以上かかる。

 

 文長さんが使ってた弓……角弓だったかな?

 たぶんあれは、動物性タンパク質ベースの接着剤……膠(にかわ)で動物の角とかそういうのをくっつけて弓にしてる。

 うちでも、畜産やってるご近所の人から分けてもらって、家具修理とかに使ってた。

 弓とかで使う場合は、接着が終わっても中の水分が完全に抜けるまで待つから、下手すれば数年かかるって言ってたもんな。


「作れます。今回は、『間に合わせで試作だから』という条件付きですが」

「それは分かってるが……弓ってのはくっ付けりゃいいってもんじゃねえぞ? くっつけただけなら、引いた瞬間にバラバラになるか、そもそも引けない。形状が固定されているからな」

「本来の用途ではないですが、そういう接着剤があるんです。粘りがあるのに強力な接着剤が」

「そんな夢みたいな接着剤がねぇ。しかもそれを、あれから作るのかい?」


 蒲元さんが指さす先は、孔明様が持ってきた瓶。

 中は水牛の乳で、今は子龍さんにかき混ぜることで乳と乳脂肪に分けてもらっている。

 ……天下の英雄に何をやらせてるんだ、私は。

 いや、私がやろうとしたら、かき混ぜ棒を取られたからなんだが。


「ふふっ、姫にこのような作業をさせられませんよ」

「……だから、姫じゃないですってば」


 私の目線だけで考えていることを読むという、孔明様のような頭がいい系の人じゃないと出来ない技を使ってくる。

 槍だけじゃないのか、この人。

 それに加えて気遣い王子様ムーブとか、この人、少女漫画的な意味でチートすぎないか?

 ……さすがに照れるんだが。


「姫。そろそろ油と乳に分かれたようです」

「あ、でしたら、次の作業に行きましょうか」


 窯で火にかけていた鍋……炉にあった木灰を混ぜたものを見る。

 ……うん、いい感じにできてるな、灰汁。

 

 多く作ったおかげで上澄み液の層が多いし、一気に濾しちゃうか。


「これの上澄み液を使うんですが、布で濾しま……あっ」

「鍋は重いですよ、姫。お手伝いしましょう」


 私の手に重ねるようにしながら、一緒に鍋を持ってくれる。

 …………さすがに照れるんだが。


「それじゃあ、俺が濾す用の布を押さえとくかねぇ♪」


 ニヤニヤしながら手伝ってくれる蒲元さん。

 あの目……絶対、私と子龍さんを『そういう目』で見ている。

 ……むう。この人もお義母様と同じ、青春愉悦民か。

 そういうのは、少女漫画三国志に出てきそうなヒロインにやってくれ。


 ていうか、顔の綺麗さだけで考えるなら、男の馬岱さんの方が適任だぞ。

 あとは、見た目は完全に可憐な天使少女(最近は小悪魔少女)の均君とか。


 ……まずい、出てくる名前が男の人ばっかりだ。

 相手が悪すぎるとはいえ、そこで私の名前が出てこないのは、女として終わってないか、私。


「不純物を出したらもう一度鍋に戻して、火にかけつつ、これを入れます」


 取り出したるは、コンニャク作りでも大活躍した『石灰』!

 この時代では漢方薬でなかなかお高いのだが、黄家のお嬢様の肩書を利用して、城の人に分けてもらった。

 さすが黄家のコネ。……娘にしてくれてありがとうございます、お養父様。


「おお、なんか白く濁って……綺麗に上と下に分かれたな」

「上の透明な部分が、水酸化カリウム。下のどろどろしているのが、炭酸カルシウム……だったかな? まあ、そんな感じです」

「…………」


 ……そんな目で見ないでくださいよ、蒲元さん。

 理論じゃなくて、『使える者は直して使うべし! 道具や家具は買うぐらいなら作るべし!』という、我が家の家訓の元に培われた、まあなんとなくこうすればできるやろで培った技術なんですから。


「それを、もう一回濾してもらっていいですか?」

「お任せください、姫」

「はいよ、姫様」


 ……蒲元さんまで姫とか言い出した。

 これ以上伝染する前に、どこかのタイミングで子龍さんを注意した方がいいな。


「こんなもんでいいか?」

「はい。あ、濾した後の白いのは取っておいてください。使いますので」

「仰せのままに」


 そして桶に残るのは、水酸化カリウムこと純粋な『アルカリ性水溶液』。


 うん。順調だ。

 順調なのだが……なんだろう、なんか違和感がある。

 

 まあ、作業自体に支障はないし、早く進めよう。

 今回は完全に、私のワガママで色んな人を巻き込んでいるんだからな。


「あ、蒲元さん。鍋、もうひとつ借りますね」

「好きに使え。どうせ、調理場からの借り物だしな」


 鍋に、牛乳から分離した油を入れて弱火にかけつつ、さっき作ったアルカリ性水溶液をひとつまみ。

 これを、一方向に混ぜ続ける。


「姫、私が……」

「……」


 子龍さんを、シャー! と威嚇。

 さすがにこれぐらいはやらせてくれ。

 さっきから全部やらせてて、申し訳なさすぎるんだ。


「……では、せめて」

「え、あ……」


 顔の汗を拭いてくれる子龍さん。

 あ、やばい。化粧が落ちるのはお義母様に土下座すればいいのだが、さすがに化粧なしの顔は見苦しいか?

 そんなことを考えてそっぽ向く私に、子龍さんはとんでもないことを言ってくる。


「姫は化粧などなくとも綺麗ですよ。むしろ、そのままの姫のお顔を拝見できて恐悦至極です」

「…………」


 …………もう言葉も出ない。

 

 おい、ニヤニヤしながらこっちを見るな、蒲元さん。

 顔が赤いとか、青春してるねとか言いたいんだろう?

 そうだろうよ!

 なんなら私も、『もしかして、私は少女漫画のヒロインかもしれない……』とか一瞬思ったからな!!

 

 まあ、そういう妄想は置いといて……と。


「……で、あとはさっき作っておいた濃いめの食塩水を入れると、石鹸が浮いてくるので……それを布の上に、と」


 布の上に乗せると、余分な水分が布に吸われていき、残るは美しい白い塊。

 うん、完璧な牛乳石鹸。お風呂の時にでも使いますか。

 

「あとは、残った水を煮詰めつつ、もう一回濾して出来上がりです」


 出来上がったのは、無色透明でとろみのある液体……グリセリンだ。

 これは、保管用に作っておいた竹水筒に入れて、と。


「それが、弓の接着剤なのか?」

「いえ、これは材料ですね。あっちの脱脂粉乳……油を除いた牛乳もそうです」

「おいおい、ここまで作っておいて、そりゃねえだろ」

「この材料が一番重要なんですよ。これがないと、脱脂粉乳から作った接着剤は、さっき蒲元さんが言った『形状が固定され』だけのものになって、弓には使えませんから」


 よし、こんなものか。

 水筒の蓋を回して閉めて、と。


「「…………」」


 ……あれ? なんかふたりに見られてる。

 もしかして変ですか? 昨日のうちにわけてもらった竹で作った竹水筒。


「……なあ。それ……えーと、なんて聞けばいいんだ、こういう場合」

「……蒲元殿。これは、姫に見せていただいた方が良いかと」

「え? いいですよ。あ、ただ、あんまり長時間、蓋を開けないでくださいね。中のグリセリン……液体が乾いちゃうんで」


 ふたりに水筒を渡す。

 さて、文長さんたちはどうなったかな?

 

「……では、お伝えいたしました。あちらの子龍殿にもお伝えください、将軍」

「承りました」


 お、なんか兵士さんが来て、イケオジさんたちと話してる。

 作業に集中していて気づかなかった。


 蒲元さんたちは、なんでか水筒に夢中だし、ちょっと話しかけてみるか。


「どうかしまし……え!?」

「……終わった……終わった……」

「………………」


 なんか、文長さんと馬岱さんの心がまた折れてる!?

 え、イケオジさんの指導でなんとかなったんじゃないの?


「……えーっと、これは?」

「簡単にまとめますと、饗宴の規模が大きくなりました。文長殿の試験も、軍の動きを見せるという形で、饗宴参加者の前での試験になります」


 ……つまり、国のお偉いさんの間で弓を撃つ、と。

 ただの不合格なら、別にいいだろう。

 だが、『醜態』を晒そうものなら、その場で軍から追い出されかねない。


「えーと、文長さんが落ち込んでいるのは分かったんですが……」


 またしても体育座りをしながら、空を見つめる馬岱さんを見る。


「饗宴での演武が、立ち合いだけでなく、馬上戦が追加されました。子龍殿だけでなく、馬岱殿も参加になったのですが……」


 え、何か問題あるのかそれ?

 馬岱さん、文長さんとやりあえるぐらいだし、馬上戦も得意そうだけど。


「実はですね……」


 言いよどむイケオジさんに代わるかのように、立ち上がる馬岱さん。

 そして、私の方に向かって……


「……私、馬に乗れない」


 ……泣きそうな目で、こう言ってきた。

※フィクションです

えー、そそらない方の科学です……。

有識者の方、いろいろツッコミがあると思います。

グリセリンって言ってるけど、これ粗グリセリンだろ、とか、

計量もなしにこんなのできるわけないとか、

そんな正確に撹拌できるわけないだろとか、

水酸化カリウムというより、水酸化カリウムを含む水溶液だろ! とか、

もう本当にいろいろと。

字というか呼び方関連とかもそうなのですが、口語的や伝わりやすさとか、あくまでフィクションとして書いているという方向で、見ていただけると…。

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