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自転車に乗った月英さん~女子高生、孔明の妻始めました~  作者: イチロウ
3章 今の自分ができる事

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第40話 姫始めました

「……と、いうことがありまして」

「……」


 訓練場で起きたことを、孔明様に伝える。

 一応『喧嘩中』だが、荷物を持ってきてもらってるし、まあ色々あったし、伝えないわけにはいかないだろう。


 立ち合いに巻き込まれて死にかけたこと。

 そして、助けられたこと。


「……それでその、助けてくれたのがこの方です」

「……♪」


 私の隣で、ニコニコと微笑みながらこっちを見ている子龍さん。

 いや、かの有名な趙雲子龍。


 三国志に疎い私でも、さすがに知っている。

 超イケメンで槍の達人。

 主君の子どもを抱えながら、敵陣を突破したというとんでもない逸話の持ち主。


 いやいや、いくらなんでも話を盛りすぎですよとか思っていたが、現実でその恐ろしい強さを見てしまうと納得しかない。

 一応不意打ちということにはなるが、文長さんと馬岱さんを一瞬で撃退とか人間業じゃなさすぎる。

 そして……


「ん? 私の顔に何かついていますか、姫?」

「……あ、そういうのではなくて。というか、姫はやめてください。」


 ……非の打ち所がない、完全なイケメン。

 孔明様もかなりのイケメンだが、こっちは爽やか好青年。

 しかも、私みたいなのを姫とか呼び、お姫様だっこまでしてくる。

 なんというか、少女漫画に出てくる王子様そのものだ。


「……まあ、状況は大体理解した」


 ……ん? なんか、孔明様がいつもと様子が違うような。

 まあ、私のような凡人には、天才が何を考えているかなんて分からん。

 間違ってたらズバズバ言ってくる人だし、それまで放っておいてもいいだろう。


「で、そっちのふたりは?」

「……え~っとですね」


 ……工房の隅っこで、『美女と野獣』ともいえる体格差のふたりが体育座りしている。

 ちなみに野獣が文長さん。美女が馬岱さんだ。


「えーと。どっちも子龍さんに、あっさり負けたせいで落ち込んでまして……」


「負けた……負けた……負けた……」

「……………………」


 完全に心が折れてる……よっぽど実力差を感じたんだろうな~。

 ……恐るべし、趙雲子龍。


「で、文長さんはどのみちここに来てもらう予定でしたが、馬岱さんはこんな状態で放置しといたらご近所様に迷わ……危なそうなので、連れてきました」

「…………」

「あの、孔明様? もしかして怒っていますか? その、また死にかけましたし……」

「当たり前だ。大体お前は……」

「……恐れながら、言わせていただきます」


 孔明様の言葉を、趙雲さんが遮る。


「姫に一切の非はありません。一般人が見学というのは、珍しいことではない。むしろ城内とはいえ、このような可憐な方に護衛をつけない方が問題」


 ちょっ!? 何言ってるのこの人!

 いやもう、姫呼びから、護衛から、その、か、可憐な方とかもうやめてくれ!

 それに、隆中に戻ったら、専属じゃないけどあの憎いあん畜生……甘寧さんという護衛が既にいるから!

 これ以上、ややこしくしないで!


「……姫。宜しければ、この城に滞在中だけでも、私に護衛させていただけませんか?」


 し、しかもマジの専属護衛!?

 いやなんだこの展開!

 趙雲さんの見た目からして、私が来た世界は少女漫画三国志だったのか!?

 だとしたら、ヒロインが絶対間違ってるから、今からでも書き直せ!


「ふむ……良い案かもしれませんな」

「え!?」

「ここらは荒くれ者の男だらけだぞ? いくら黄家のお嬢様だからって、手を出されないとは限らんだろうが。それにお嬢ちゃん、絶対、面倒ごとに顔を突っ込みだろ?」


 とんでもないことを言いだす、蒲元さんたち。

 だが、これだけは言わせてもらおう。


「いや、私は普通に生きて、面倒事からは目を背けるタイプだと思いますよ?」

「「…………」」


 ……え、なに、この沈黙。


「……そっちのあんちゃん。 あんた、お嬢ちゃんの関係者だろう? この有様だから、護衛を頼んでもいいよな? 安心しろ。黄家も含めて、旦那が話を通してくれるからよ」

「ええ。私の方から関係する方々に伝えておきますよ」


 いや、なんか話がどんどん進んでる!

 ていうか、そんなことが出来る旦那……そういえば名前を聞いてないイケオジさん、何者だよ!?


 でも、たしかに危ないというのは本当だろう。

 実際、昨日は文長さんに射殺されそうになっているし、今日は訓練に巻き込まれて死にかけた。

 つまり、ここに来て毎日死にかけている。


「月英は……」

「では、お願いします」


 あ、やばい。孔明様の言葉を遮った。

 まあでも、たぶん同じことを言うつもりだっただろう。

 どうせ、お前は鈍いからとか色々言って、『守ってもらうのはいいが、子龍殿に迷惑かけるなよ、シャオリズ♪』とか言うにきまってる。


「それでは、姫はこの趙子龍がお守りいたしましょう」

「ああ、頼んだぜ。それとお嬢ちゃん、いくつか和弓の型を作ってみた。意見を聞かせてくれ」

「では私はその間に、その弓を使えるように文長殿を少し指導してあげましょうか。馬岱殿、でしたか。あなたも来なさい。少し見てあげます」

「では、私は姫のお手伝いをいたしましょう。弓は、槍ほどではありませんが、心得があります。何か意見をいえるかもしれません」


 そのまま、流れるように物事が進んでいく。

 ……だからこそ、私は気づかなかった。


「…………」


 ――孔明様の様子が変だということに。

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