↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自転車に乗った月英さん~女子高生、孔明の妻始めました~  作者: イチロウ
3章 今の自分ができる事

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/42

第42話 隣にいないあの人

「――まずは、どれほど馬に乗れないかをみましょう。馬岱殿、どこからでもかかってきなさい」


 馬の背にまたがり対峙する、イケオジさんと馬岱さん。

 馬岱さん、こうやって見ると普通に馬に乗れそうに見えるけどな。

 

「……では」


 訓練用の槍を構える馬岱さん。

 顔も中性的でちょっと小柄、セミロングの美しい髪をなびかせながら構える姿は実に絵になる。

 ……馬の腹を挟む足が、ぷるぷるしていること以外は。


「……参ります」


 すごい速さで槍を振り回す馬岱さん。

 さすが文長さんと互角の勝負を繰り広げただけのことはある。

 ……だが、槍を振り回すたびに上半身が持っていかれ、その勢いのまま落馬。


「……参りました」


 ここで馬岱さんが降参。

 試合終了~!!


 ……え、嘘でしょ?


「…………」


 ……イケオジさんも絶句してる。

 まあ、何もしてないのに参ったされたら、こうなるか。


「は~はっはっはっ! 馬にすら乗れないとは、武芸者失格だな!」


 完全に悪役笑いの文長さん。

 ……否。さっきから弓の訓練をしているのに、矢が的に一発も当たらない文長さん。

 文長さん。その点でいうと、あなたも大概ですよ?


「……」

「ん? なんのつもりだ?」


 さすがにカチンと来たのか、馬岱さんが文長さんのところにずかずかと歩いていく。

 そして弓を分捕り、その場で離れた矢は……すごい! ど真ん中だ!


「……矢が一発も当たらないとは、武芸者失格だな」

「は~はっはっはっ……決闘だ~~!!」

「……望むところ!」


 ふたりが槍を構えた瞬間。

 私の横を、閃光のような何かが飛んでいく。


 そして閃光はふたりをかすめ、壁に深々と突き刺さる。

 閃光を放ったのは……言うまでもない。イケオジさんが放った矢だ。


「……私闘を行った者、その場で処罰すべし。続けるなら、次は当てますよ?」

「……い、いつ構えた?」

「…………」


 ……はぁ。

 化け物を見るのにも慣れてきたな。


「お見事な腕前ですね、ご老体 」


 ……当たり前のように私の隣にいて、槍まで構えているあなたもお見事です、子龍さん。

 たぶん私の横を矢が通ると判断して、護衛のために一瞬で移動したんだろう。

 

 ……本当に、どうなってるんだこの人たち。


「……しかしまあ、こりゃ重症だな」


 水筒を見ながら話しかけてくる蒲元さん。

 なんかあの水筒、気に入られたみたいだな。

 中のグリセリンを使い終わったら、あげちゃうか。


「お前さん、槍の構えとか弓の射ち方からして西涼のやつだよな? お前ら、馬が得意なんじゃないのか?」

「…………」


 何も答えない馬岱さん。

 ……つまり、『私は例外です』という事か。


 それにしても、馬岱さんは有名な一族だったのか。

 まあ、私は西涼がどこかすら知らない人間なので、凄さが全然伝わってこないが。 


「西涼の民は遊牧や馬の育成を生業としており、馬上戦が得意な者が多いのです」

「え……?」

「……? どうかしましたか、姫?」

「あ、いえ、解説ありがとうございます……」


 ……なんだ?

 子龍さんが教えてくれたおかげで、状況は理解した。

 私はこういう知識が皆無なので、こうやって説明されるのには慣れているが、なんか違和感が……


「それにしても、馬岱殿……でしたね。その名からして、かの有名な馬騰様の一族ですか?」

「……馬寿成様は叔父」

「おお、やはりそうでしたか! ということは、剛勇で有名な馬孟起殿の従弟ですか?」

「……え!? 孟起にぃば知っとっとですか!? はい! うち、強うて、誇り高うて、格好よか孟起にぃん従弟ばい!」


「「「…………」」」


 ……時間が止まった。

 ちなみに、文長さんは爆笑している。


 私はよく、変なこと言ってみんなをこういう状態にすることがある。

 ……なるほど、される側はこういう気分になるのか。


「……馬孟起様を知ってるの? 私は、敬愛する馬孟起様の従弟」


 いや、言い直しても無駄だから!

 ていうか、なんで九州弁!?


「と、とんでもない西涼訛りだな」


 訛り……ああ、忘れてた!

 私のチート能力(暫定)の自動翻訳だ!


 中国語全然知らない私が、喋れる貴重な能力。

 いつもお世話になっております。

 

 ……でも、訛りを博多弁で表現するのはやりすぎでは?

 京都弁とか、大阪弁に聞こえる人とかいるのかな?


「お、お前……もしかして口数少ないのは、それを隠すためなのか!」


 爆笑しながら話す文長さん。

 ちなみに馬岱さんは、イケオジさんを涙まじりの目で睨んでいる。

 『……こいつ殺す。私闘させろ』と、目で語りながら。

 そして、そんな目線をイケオジさんは、ダメですと首を振ってかわす。

 ……うん、合掌。


「ま、まあ、分かりやすい弱点じゃねえか。ようは、上半身を動かしても落ちないようにすりゃいいんだろ? だったら、何をしても落ちないぐらい下半身を鍛えれば……」


 下半身……たしかに、さっきも馬の腹を挟む足がぷるぷる震えてたな。


「「「…………」」」


 ……また時間が止まった。

 改めて、馬岱さんの足を全員が見たわけだが……なにあの、むっちむちの太もも。

 鍛える必要なんてないっていうか、もう限界まで鍛えきってるだろ。

 あんなのでローキックされたら、私は骨が折れる自信があるぞ。


 ちなみに、文長さんは爆笑している。


「……これは典型的な、馬に乗るのが苦手な者の特徴ですな。上半身を動かすことに集中しすぎて、足の締めが緩んでしまうんです」

「な、なら、上半身の動きを抑えれば……」


 それを言う蒲元さんに、イケオジさんが首を振る。

 どうやら、それをやっても無駄……もしくは、馬岱さんの戦い方に合ってないのだろう。 


「理屈は大体分かった。ひと言で言うならば……お前は馬に乗る才能がない!!」

「……!?」


 文長さんの言葉に、分かりやすくガーン! となる馬岱さん。

 だが、文長さんに言われたのが悔しかったのだろうか。


「……そうだな。お前の弓と一緒だ」

「……なっ!?」


 思いっきり言い返してる。

 同じように、ガーン! となる文長さん。


「……もうダメだ……もうダメだ……もうダメだ……」

「………………」


 そしてふたりは、また体育座りで心が折れる。

 ……実は仲いいだろ、この人たち。


「……旦那。あと、そっちのやたら強い若いの。何か助言は?」

「「…………」」


 おそらくこの大陸最強クラスのふたりですら言葉が出ないらしい。

 うーん、でも馬上で体を安定させるってそんなに大変か?


「難問だな。文長の弓が当たらない理由と同じで、理由は分かってるが克服が難しい」

「……え、俺の弓が当たらない理由が分かるんですか?」


「『体がでかすぎて小さい弓を扱いきれてない』のと、『引いたらすぐ撃つ癖』があるところだよ」

「え……その、初耳なんですが……!?」


「大弓かつ、しっかり引いて狙う前提で作られている和弓なら、多少は克服できるでしょうが……馬はどうしたものですかね」

「いや、さらっととんでもないことを言ってませんか!? 俺にとって、かなり重要な話をしていると思いますよ!?」


「あ、そんな事より、質問があるんですけど、いいですか?」

「そんな事より!? 月英様、それ自分には超重要な情報なのですが!!」


「馬について詳しく知らないんですけど……下半身が安定して、上半身を動かすのに集中できればいいんですよね?」

「まあ、そうなりますが……」


 子龍さんが困った顔で見てくる。

 その顔を見るに、これは『当たり前』なのだろう。


 ……だからこそ、困ったのだ。


(何度か馬に乗ったことがあるけど、下半身が動いちゃうなんてなかったぞ……?)


 当たり前だが、私の太ももはそこそこぷにぷにだ。

 自転車乗ったり、農作業をしたりはしているが、食べている量……こほん。

 健康的なので、鍛えらているわけではない。

 だが、足とか下半身の力で落馬しないようにしたとか、やったことがない。


 言うならば、私の記憶とみんなが話している内容が嚙み合わないのだ。


(……うーん、何か原因がある気がするな)


 そう思って、馬岱さんの乗っていた馬を見る。

 ……普通だ。現代の馬に比べてさすがに痩せているが、しっかりしている。

 鞍もついているし、馬に原因はないようにみえる。


「あの、馬岱さん。この馬、私も乗っていいですか?」

「「「「……え!?」」」」


 ……やばい、今度は私が時間を止めてしまった。

 え、私が馬に乗るのって重罪!?

 なんで!? タヌキだからか!? タヌキは地べたを歩けって事か!?


「姫、馬に乗るならば、お手伝いいたします」

「え、いや、馬に乗るぐらい、私でもできますよ?」

「……ぶふっ!」


 私の言葉に、吹き出す文長さん。

 おいおい、久しぶりに出やがったな、失礼モードの魏延さん。

 タヌキ舐めるなよ? 私のローキックだって、馬岱さん程じゃないだろうが痛いぞ?


「……いや、無理だろ。お前の身長で馬に乗るのは厳しいぞ」

「え、身長……? そりゃ、私はかなり低いですけど、馬に乗れないってほどじゃ……わわっ!」


 子龍さんに、いわゆる高い高い状態で持ち上げられてる!?


「え、いや、何これ! なんですかこれ!?」


 恥ずかしいのだが! かなり恥ずかしいのだが!!


「姫、暴れないでください。馬にお乗せしますので」

「いやいやいや、馬ぐらい私ひとりでも……」


 そう思って、足を……あれ? なんか、足が引っかからないぞ?


「……姫?」


 いや、そんな目で見ないでください子龍さん!

 高い高いされながら、意味不明な謎の足の動きをしているように見えると思いますが、こっちは必死なんです!


「あれ、な、なん……で……」


 ……そして、私は気付く。

 あるべきものがないことに。

 馬具には基本的に付いているものがないことに。


「…………この鞍、鐙が付いてない?」

「鐙?」

「馬に乗る時、足場にするものですよ! 鞍についてるものでしょ? こういう、足の形をしているというか……」


 もっと早く気付くべきだった。

 馬岱さんのぷるぷるしている足とか太ももばっかり見ていて、足元まで見てなかった。

 ……なんか足ばっかり見ている変態みたいじゃないか、私?


「……あ~、聞いたことあるな。どっかの地方で、馬乗りの補助に付けてるところがあるって」

「え!?」


 もしかして、この時代って一般的じゃないの?

 だったらそもそも、どうやって馬に乗り続けて……あ。


「だから、下半身……? この時代の人って、足の力で馬上の体勢を維持してるの?」

「……この時代?」

「ああ、なんでもないです! それより馬岱さん! 馬のこと、文長さんみたいに道具でなんとかなるかもしれないです!」

「……え、ほんとね、タヌキしゃん!?」

「はい! ……おい、今なんて言った?」

「そんな事より、聞かせろお嬢ちゃん。和弓みたいになんとかなるのか?」

「そんな事より!? 私にとってかなり大問題なんですが!?」


 さっき同じようなセリフを聞いた気がするが、まあいい。

 とりあえず、気持ちを落ち着けて……ふう。


「なんとかなります。もちろん、完全に乗りこなせるようになるわけじゃないですが、少なくとも下半身の安定だけは保証します」

「今度はどんな道具だ? 言っとくが、和弓のこともあるから、作るのに時間かかるのは無理だぞ?」

「大丈夫です。そんなに時間がかかるものではないですから」


 そう、大したことはない。

 材料さえあれば、1日か2日でできるものだ。


「早速、用意してもらいたいものがあるんです、こうめ……」


 ……そして私はようやく気付く。

 感じていた違和感の正体に。


「……姫?」


 心配そうな顔をする子龍さん。

 でも、申し訳ないけどそれどころではない。


 ……変だと思った。

 いつも私の足りない知識を説明してくれる人が、私が無茶を言って、道具を用意してって言っても、やれやれという顔でしてくれる。

 見えないところで私を助け、背中を押してくれるあの人が……


「……孔明様?」


 ――孔明様が、私のそばにいないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。