34話 後頭部のでっぱりとへこみ
「……えーと、落ち着きましたか?」
「はい! 思い残すことはありませんので、首をバッサリいってください!」
「うん、落ち着いてないですね。もう一度いいますが、落ち着いてください」
「はい! 全力で落ち着きます! ですので、お嬢様の気が済むまで剣で切り裂いてください!」
「うん、全然落ち着いてないですね。何度でも言いますが、落ち着いてください」
……どうしよう、全然話が進まない。
この人に、気配がしたからって理由で弓で撃たれた時は、さすがに謝れと思った。
だが、さすがに死んで償ってくださいなんて微塵も思ってないし、とりあえず落ち着いてと言ってもこの調子だし。
ちなみに、このやりとりが続いているので、この人が自害しようとするの止めた同僚? の人たちは、諦めて帰っていた。
……面倒だし、私も諦めてどっかいくか?
いやでも、私がいなくなった瞬間に自害とかされても困るしなぁ。
(……ん?)
そんな事を考えながらこの人を見ると、立派な弓を持っている。
ただ、日本の弓とは違う小さな弓だ。
「あの、その弓を借りていいですか?」
「はい! 俺が的になりますので、どうぞ狙ってください!」
「うん。なんでもいいので、そこで立っていてください」
これがこの時代の弓か。
なんか、随分と小さいな。
「とりあえず、引いてみ…………ぐぎぎぎぎぎぎぎ!
え、なにこれ、びくともしないんですけど!
私、そこまで力がないわけじゃないのに!?
「……ぷっ」
……おい、そこの。
お前、まさか笑ったか?
「……命令です。今、思ったことをそのまま口にしてみてください」
「うーわ、弓もひけないとかダサすぎだろ。ま、女の力じゃそれが限界だろうねぇ、はーい、おつかれさまでちた~♪ と、思いました!!」
「うん、正直でよろしい。……あとで一発殴らせてください」
「はい! お待ちしております!」
くそ、笑ってやがる!
どうせ、私の力で殴ったところで、全然いたくねーし♪ とか思ってるんだろうな!
まあ、実際にそうだろからそこは諦めて……とりあえず、この弓だ。
やたら軽いし、竹だけじゃなくて、色んな素材使っていて面白い。
もしかしてこれ、動物の角か?
うーん、使うとどんな感じで矢が飛んでいくのか、近くでみてみたいので……
「はい。私がいいと言うまでうってみてください」
「承知しました!」
私から弓を受け取り、次々と矢を放つ兵士の人。
……なるほど、こうやってみると全然違う。
一番の違いは、和弓と違ってそこまで引き絞らないことだ。
それに、使っている矢の長さが違う。
まあ、これは弓の大きさが関係してるんだろうが。
(それにしてもこの人……)
「…………」
引くのにものすごい力がいるあの弓を、軽々と引く筋力。
そして、一度矢を放ってから、次の矢を放つまでの速さ。
もはや達人の域だろう。
そして……
「…………くそっ!」
……的にまったく当たらないのも、達人の域だ。
「……あの~、ちゃんと狙ってます?」
「狙ってるんだよ! ……ですよ!!」
うーん、手を抜いているようには見えないしな。
いやでもだからといって、ここまで外すか?
「……あ~もう、やってられね~!! もう、いいですよね! お嬢様!」
弓を放り出し、その場に座り込む兵士の人。
いやなんというか、これはある意味逆神業だ。
「……はあ。せっかく、新設部隊に配属される好機なのに……」
「新設部隊?」
「ええ。今度、特殊な任務をこなす新設部隊が組織されるらしいんです。俺、腕っぷしを買われて配属試験を受けられることになりまして」
「おお、すごいじゃないですか」
「でも、試験には弓もあるんですが、俺、弓が苦手なんですよ」
試験……苦手科目……いつの時代も変わらないなぁ。
本当、こんなのなくなればいいのにと思いつつ、必要なんだろうなぁとも思ってしまう。
うちの畑に、体力がないので立ち作業は30分が限界です! みたいな人が来られても、大変申し訳ないが任せられるものはほぼない。
「それで、その試験はいつあるんですか?」
「7日後です。まだ時間はあるけど、このままじゃ……」
「誰か、弓の上手な人に習ってみては?」
「……もう、何度も習いました。上官、同僚……でも、上達は一切しないんですよ」
「なるほど……」
「……あ~もう! なんでなんだよ、ちくしょう~!!」
立ち上がり、近くに置いてあった槍を手に取り、振り回す。
――ブオォォオン!
その瞬間に、槍を振り回して吹き荒れるすさまじい刃風。
うーん、すごいな。
さすが特別な部隊の配属候補。迫力……が……
「え、ちょ……これ、風が……!」
ヤバいヤバい! 風の強さが洒落にならないんですけど!
「そ、それまで~~!!」
「え、なんですか!? 聞こえません!」
「いや、やり振り回すのやめろって言ってるですよ、この馬鹿力!!」
「そうですか! では、準備運動はこれぐらいにして、本気で振ってみます! いや~、デカいものを振りますのは、気持ちがいいですね~~!」
「人の話を聞け~~!!!!」
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「――やはり体を動かすのはいいもんだ! あ~! 早く戦場で大暴れしたいぜ!!」
汗をかきながら、やりきった顔をする兵士の人。
……この人、完全に私の存在を忘れてやがる。
(それにしても……やっぱりこの人、すごいな)
あんな大きな槍を軽々と振り回すなんて。
腰にさしている剣も大きいし、とにかく凄まじい筋力だ。
まあ、こんだけ大きいなら、自然と使ってる武器も……ん?
「あの、気づいたんですけど……」
「さて、練習の続きを……」
……おい、そろそろ私がいることを思い出せ。
体動かして暑いのはわかったが、兜を取って『いやー、一仕事しましたわ~』みたいな清々しい顔するな。
(……お? なんか頭の後ろ、なんか違う?)
よく見ると、なんか頭の後ろの普通より出っ張っている。
表現するなら……ぬらりひょんみたい、というべきだろうか。
「……!?」
そんな私の目線に気づいたのか、後頭部を抑えて隠すようにする。
「……お見苦しいものを見せました」
「え、全然、お見苦しくないですけど?」
気にならない、とまでは言わないけど、身体的特徴のひとつぐらいじゃない?
「……いやこれ、相術だったかな。それに基づくと、かなり不吉な相らしくて。それ学んでいる学者にはすごい不評なんですよ」
あ~、この時代はそういうの全盛期か。
インテリ系はそういうの気にするのかもなぁ。
……賭けてもいい。あのイケメン腹黒どS軍師は絶対気にする。
「命令です。ちょっと近くに来てもらえます?」
「……は?」
「いいから早く」
私の言葉におそるおそるこちらに近づいてくる兵士の人。
「えっと、来ましたが」
「では、ここに触ってみてください」
私は身を屈ませながら頭を下げ、後頭部を指差す。
「い、いや、あの……」
「早く。触ってください」
そして、私の後頭部恐る恐る触る兵士の人。
「……あ」
「触ってわかると思いますが、結構、豪快にへこんでます。超美少女の同級生の子が頭の形も完璧だったので、よく比較されましたよ」
懐かしい。
そこまで珍しい特徴じゃないのだが、クラスでは私ひとりだったせいで何度いじられた事か。
「……それは、大変でしたね」
「ん~まあ、気持ちいいものじゃなかったですけど、まあそこまで気にしてませんでしたよ」
「何故、ですか?」
うーん、難しいところを聞いてくるな。
へこんでいるのは事実なので否定できないから?
自分は容姿的にいじりやすいだろうなという自覚があるから?
うーむ。どれもしっくりこないが……あっ!
「生まれてきた時のこの姿、好きとか嫌いとかあっても、否定だけはしたくないんです」
「…………」
体を戻しながら話す。
……え、なんか兵士の人がすごい真面目な顔してるんだが?
べ、別に変なこと言ってないよね……?
「そ、それに! 他人の言ってることなんて当たることの方が珍しいですよ? 学者だろうが、偉い人だろうが、むしろ完璧に当ててるの見たことないですし」
「いや、でも……」
「疑うなら、目の前にいる『外れた例』を見てください。結婚はむずかしいかもねと言われてたけど、その美少女よりも早く、一応の結婚ができてしまった女が」
「あ……」
……改めて考えたら、奇跡かもしれん。
私は生涯独り身で、畑耕したり、山でマタギしたりの生活だろうなと思ってたからな。
「大体、容姿で気にしてるんだったら、タヌキ、タヌキ言われてる私はどうするんですか。何度言われようと、私はタヌキじゃないですからね」
「…………」
え、なんか急に俯いて黙ってしまったんだが!?
こ、これはちょっと、話の流れを変えた方がいいかもしれない。
「え、えーと、それより、武器の使い方見せてもらって、思ったことがあるんですけど……」
「……ふふっ」
……え、今なんか笑った?
「あ、あの……」
「あ~~~~はっはっはっはっ!!!!」
うわっ!?
なんか急に大声で笑いだした!
ていうか、声デカすぎ! 鼓膜が振動で揺れてるんだが!
もうこれ、動物の雄叫びだろ!!
ほら、兵舎からさっき止めた同僚っぽい人たちが、心配して覗き見てるから!!
「はあ、はあ……いや~~~!! 笑った笑った!!!」
「ソ、ソレハヨカッタデスネ……」
痛む耳を抑えていると、急に兵士の人が跪く。
「あ、あの……?」
「とてもありがたい言葉をもらえて、感謝します」
「は、はあ……」
「俺の名は魏延。字は文長といいます。以後、お見知り置きを!」
そして、ようやく『私という存在』をまっすぐにとらえながら、とてもさわやかな笑顔で挨拶してきた。




