35話 大型犬?
「……えーと、それでですね」
「はい! なんでも言ってください!」
「あ、はい。さっき、武器を振り回していた文長さんを見て、思ったことが……」
「おお、見てもらえましたか、俺の演武! お気に入りいただけたようならば、もう一度舞いましょうか!?」
「いや、必要ないです。それより私の話をですね……」
「はい! 聞いております!」
……おかしい。
ようやくまともに、兵士の人……魏延文長さんと話ができると思ったのだが、会話が成立している気がしない。
というか、無限ループしてないか?
「さあさあ、お話をお続けください!」
なんというか、超大型犬みたいになってる文長さん。
ずっと跪いたままのせいか、なんかお座りしているように見えてきた。
「えーと……少し黙りなさい」
そう言いながら、軽くチョップしてみる。
お隣で飼われていた犬はこれで静かになるんだが、どうだろうか。
「…………今のは?」
うわ、マズい!
さすがに男の人にいきなりチョップはマズかったか?
「い、いやあの……さっきのはですね……」
「たしか、黄月英様、ですよね? 月英様とお呼びしても……?」
「は、はい! なんだったら呼び捨てでも、好きにお呼びくださ……」
「うおおおおおおぉぉおお~~!!!!」
え、ちょっ、どういうこと!?
いきなり担がれたんだけど!?
「……軽い! 先ほどの手刀といい、軽すぎます! まずは、飯を食いにいきましょう!」
「いや、自分で言うのも何ですが、私、結構重いですよ!? というか、さっきちょっと軽く食べたばっかりで……」
「兵舎にご案内いたします! では、掴まっていてください!!」
「いやだから、人の話を聞いてください! ていうか、見える! 見えちゃいますから~~!!」
そのまま、とんでもない速度で走り出す文長さん。
いやこの速度、自転車を軽く超えているんだが!?
とりあえず、必死に着物を押さえる。
この時代の下着は、見えたら洒落にならんやつだから絶対死守だ!
……くそ! こんなことなら、着替えさせてもらった時にそっちも変えるべきだった!
使い慣れたものがいいとか言わなければ、お高い下着……かなりちゃんとした下着だったのに!!
「……ふう! 到着です!」
「え、もう!?」
なんか、必死に着物抑えていたら一瞬で着いたんだが!?
しかも文長さん、息ひとつ乱してないし。
フィジカルの鬼すぎるだろ。
「さて、では食糧庫の方に……」
「あ、文長さん。食料より先に、鍛冶関連の施設とかありません? 武器を作る、もしくは調整してくれる、みたいな」
「あります! では、ご案内を!」
「はい、お願いしま……いや、その前に降ろせ~~!!」
見てるから! 残っている人がこっち見てるから!
タヌキだってなぁ! 恥じらいってものがあるんだよ!
あと、胸が思いっきり当たってるだろ!
私の唯一の取り得なんだから、少しは反応しろ!
傷つくだろ!!
「到着しました!」
「あ、はい……ありがとうございます」
そんなこと考えてたら、相変わらず一瞬で到着する。
思いっきりローキックでも入れてやりたいところだが、やったところで「……軽い!」とか言われて、また食糧庫の方に直行する可能性がある。
それで食糧庫に到着、また鍛冶施設にと、無限ループに……もうこれ、文長さんの固有スキルとかだろ。
「それで、俺はここに焼いた肉でも持ってきたほうがいいでしょうか?」
「いや、食べ物はいいで……肉!? い、いや、今はいいです。とりあえず、職人さんに会いたいのですが……」
周りを見ると……おお、まさに鍛冶って感じだ!
小さな炉に、金床とふいごと、RPGで見た憧れの光景。
武器を調整したり、その場で制作したりしているようだ。
そして奥には……お、服装的に職人さんと思われる人がいる。
いわゆるイケオジな人と話しているが……ん?
なんか急に、いなくなって……
――ガキィィイイン!!
鍛冶施設内に響く、金属がぶつかる音。
私の後ろで、文長さんといつの間にか現れたイケオジさんが、互いの剣をぶつけている。
「……誰だか知らないが、いきなり人の後ろに回るのは失礼じゃないか?」
「……ほう。まさか、私の動きについてくるだけでなく、一撃入れてくるとは。驚きました」
な、なんか、私のすぐそばで、少年誌みたいなバトル空間が形成されてるんだが!?
ていうか、文長さんが言う『人の後ろ』って、私の後ろってことだよね?
ということはこのイケオジさんも、『人の後ろに勝手に現れて、私を驚かせる一族』か。
……もう何人目だよ。バケモノじみた人たちの間で流行ってるのか?
普通にビックリするからやめてほしいのだが。
「……旦那。それぐらいにしときな。そっちの若いのも」
奥から現れる職人さん。
お、珍しくちょっと背が低い人だ。
……まあ、私よりは全然高いが。
「失礼いたしました。女性が、しかも噂の黄月英様がこんなところに来るとは思わず、ついからかってしまいました」
剣を収めながら、私が今勉強中の拱手をするイケオジさん。
……むう。姿勢も綺麗だし、なんか不格好な私のと全然違う。
というか、シンプルに佇まいが綺麗というべきか。
白髪交じりでイケオジ……なんか、アニメとかゲームに出てくる執事みたいな人だな。
「……ふん」
文長さんも剣を収める。
それにしても、いくら後ろに回ろうとした人とはいえ、いきなり抜刀したのか。
……文長さん、大型犬ではあるけど、どちらかというと狂犬系かもしれん。
「それで、何か用かい? 武器の調整なら、こっちの旦那が終わってからになるぜ」
「えっと、調整とかじゃなくて……ちょっと作ってもらいたいものがあるんです」
「だったら、他の職人に頼みな。さっきも言ったが、俺は今、旦那の弓の調整をしていてな。今、手が空いているやつは……」
「ああ、私のは後で結構ですよ。それに、『あの』月英様が何を頼むか気になりますしね」
……『あの』って、やたら強調したな。
私って、どんな噂になってるんだ?
「いいのか旦那? 今回を逃したら、また長沙から来ることになるぞ?」
「ええ。お気になさらずに」
「ならいいけどよ。それで、俺は何を作ればいいんだ?」
「作ってもらいたいのは、弓です」
「おいおい、それなら頼む場所を間違えてるぜ。ここの倍以上ある弓専用の工房があるから、そっちに行って……」
「いえ、お願いしたいのは、そういう形ではない、別の弓です」
職人さんが受け取っていた、おそらくこのイケオジさんの弓を指さす。
……やはり、魏延さんが使っていたのと同じタイプで、小さい弓だ。
「……別の弓、だぁ?」
「今、軍で使われている弓ではない、まったく新しい弓ということですか」
「はい。作ってもらいたいのは、その弓の倍ぐらいの大きさのものです」
「「ば、倍!?」」
職人さんと、文長さんが同時に驚き、イケオジさんは、ほお……とばかりに眉をあげている。
そんな3人に、私は近くの木簡を借りて簡単な絵を描く。
それは、人の身長を超えた大きさを持ち、上下非対称の形をした弓――
「私の国で『和弓』と呼ばれている世界最大級の大弓……その制作をお願いします」
コンテスト用の突貫制作! のつもりが、書きたいところまでは書こうということで、いつの間にやら長編に。
それで、そろそろちゃんと見返そうと思ってしてみたら、まあ、誤字とか消し忘れとか言いまわしとか、もろもろ酷いことが……本当に、読んでくださった方、大変申し訳ありません。
現在、時間見つけては修正しております。
なんか、内容微妙に変わったりしますが、ご容赦ください。
というか、こんな状態の文章を見ていただき、本当にありがとうございます……!




