第33話 究極タヌキダンス!
「――さすが襄陽城。素晴らしい警備体制だな。……だが、穴もある。ここを攻めるとしたら、策は………」
「……あんまり、怪しいことを口走らないでください。警備の人に捕まっても知りませんよ?」
襄陽城の中心にある、行政区を歩く私と孔明様。
本来なら、こんなところ入れるわけないのだが、『黄家の娘』である私は、出入り自由のようだ。
ちなみに私には、自分が『黄家の娘』であることを証明する手段がないが、怪しまれることもなく完全に顔パス状態。
その理由は……
『タヌ……ああ、黄家の方ですね。お話は聞いております』
『そのお姿、貴女が仙人の如き知を持つとされる黄家の方ですな。お噂はかねがね』
『……す、すごい、噂通りのお顔! どうぞ、お通りください!』
文字通り、『顔』パスだ。
……この城を吹き飛ばす爆弾の作り方とか思いつかないかな、私。
「あそこは軍営か。さすがにあそこは入れそうにないな」
「いや、そんなところに入っても、見るものなんてなくありませんか?」
「何を言う。武庫の中を見られれば、この国の国力を知れるだろうが」
「……本当、不審者として捕まっても助けませんからね?」
「そうは言うが、お前も少し気になるのではないか?」
「私が? 国力とか微塵も興味ないですけど」
「国力ではない。さっきから目を向けている武器のほうだ」
……本当に目ざといな、この人。
そりゃ、現代人でRPGをたしなんでいる者として興味はありますよ。
三国志をそこまで知らない私でも知ってる、青龍偃月刀とか、方天画戟とかあるのかな?
「まあ、少しは気になりますけど……」
「よし、では頼んだぞ♪」
「え、ちょっ、うそ!?」
孔明様に押されて、門番さんの前に出される。
「…………」
……や、やばい、この門番さんめちゃくちゃ怖い!
身長めちゃくちゃ高いし、筋肉ムッキムキだし、とんでもなく大きな剣を持ってるし!!
「あ、あの……あの……」
「…………」
「こ、ここに入れてほしいな~……なんて」
「…………」
「わ、私、黄家の者でして……ほ、ほら、なんか噂のタヌキっぽくありませんか?」
「……………………」
なんか、無言でじーっと見てくる!?
まさかこのまま、無礼討ちで切り捨て御免とかされる!?
……こ、こうなったら、プライドなんて投げ捨てる!!
さあ見るがいい!
私が黄家の者であり、タヌキっぽい人間である証明を!
「……ぽ、ぽんぽこ、ぽんぽこ、ぽんぽこぽ~ん♪」
……どうだ!
これぞ、小学校の時に演劇で、満場一致でタヌキ役になった時にやらされた、究極タヌキダンス!
タヌキのジェスチャーも入れたこのダンスは、会場を爆笑させすぎて、演劇を一時中断させるという、絶大な破壊力を持つのだ!
ふふっ、まさかこれを自分の意思でやることになるとは……くそう! 死んだ方がましだったかもしれない!!
だが、ここまでやったんだから、さすがに効果はあるはず!
もう、笑うでもなんでもいいから何か起きてくれ!
というか、リアクションをくれ!!
「……………………ごふっ!!!!」
「えっ、ちょっ……!?」
な、なんか門番さんが、鼻血出して倒れた!?
いや、効果は期待したけど、こういうダメージ系のは期待してないんだが!
「だ、大丈夫ですか!?」
「…………………………通れ」
「しっかりして……え?」
「…………上には、私が話を通しておく」
「えっと……い、いいんですか?」
「…………いい」
な、なんで急に?
まあ、ありがたいけど。
「えっと、なんか通っていいそうですし、行きましょうか」
「……今回は、お前だけで行け」
「え、でも……」
「その門番がお前を通した理由を考えると、俺が入るのは無粋だろう」
「いや、その理由が全然わからないんですけど」
「いいから行ってこい。あとで感想を聞かせろ」
「は、はあ……そういうことでしたら」
そして、私はおそるおそる軍営に入る。
理由は分からないが、色々と見せてもらおう。
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「…………」
未だに倒れている門番。
その顔は無表情のままだが、どこか震えていた。
「…………小動物、好きか?」
そんな孔明の言葉を聞き、門番の顔は変わっていく。
堰を切ったかのように、無表情だった顔にみるみると感情が宿っていき…………
「…………大好きだぁ~~~~~~!!!!」
……魂の叫びを解き放った。
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「……さて、入ったはいいけど、どうしたものか」
ひとりで軍営を歩きながら、ぼんやり考える。
改めて考えると、微妙にやることがない。
そりゃ武器は見たいが、さすがに武器庫の中は見られないだろうし。
なんか鍛冶系の施設とかなら、見学させてもらえるかな……
――ヒュンッ!!
……なんてことを考えていたら、聞いたことがある風切り音が響いてくる。
(この音、もしかして……)
音がする方に向かっていくと、そこには予想通りの場所。
(……やっぱり、弓の音だったんだ)
そこは弓の訓練場であり、ひたすら男の人が矢を放っていた。
「…………くそ」
その人が持つ弓を見て、何度も見学に行った弓工房を思い出す。
(……うちの町、山の竹が良質だからか、弓工房が結構あるんだよね。そのせいで、社会科見学は絶対そこだったけど)
どうせなら都会に行きたい! 夢の国的な遊園地とか行きたい! とか思ったが、工房で和弓の体験制作は面白かったから、普通に良い思い出だったりする。
そういえば、私の作った和弓は出来が良かったらしくて、そのまま弓道部の練習用の弓になったんだっけ。
弓を渡しにいった時にちょっと弓道を教えてもらったけど、弓道も面白かったな。
とくに、射の精神は……
――――ヒュンッ!!
……その瞬間、風切り音とともに、私の横を凄まじい速度で矢が通り抜ける。
そして、後ろの壁に当たった矢は、衝撃で折れて弾け飛んだ。
「……」
「……」
矢を放った人と、私の目線がぶつかり……
「…………くそ」
……何事もなかったように、また弓を引き始めた。
「……いや、謝れよ!」
普通に死にかけたんだが!?
なんか今日、命の危機多くないか!?
「なんか怪しい気配がしたから、しょうがないだろ」
「いや、しょうがないで死にかけたら……え? もしかして、本気で狙われたんですか、私!?」
「ああ。俺の弓の腕が未熟で良かったな」
「たしかに、助かりましたね……って、そうじゃなくて!」
「……わかったわかった。うるさいからわめくな」
弓を置き、歩いて近づいてくる男の人。
年は私と同じくらいだろうか?
兜の隙間から見える短髪は、現代でいうスポーツ刈りだろう。
そして体はガッチリしてるし、身長は……
「…………」
……いや、デカいデカい!!
遠くから見てた時は、まあ大きいかな? ぐらいだと思ったけど、遠近法だった!
なんか孔明様よりも大きい!
身長低い私から見れば、巨人が近づいてきてるみたいなんだが!
「悪かった。つい、反射的に矢を放って……」
そして、私の前で話した瞬間に止まる巨人。
ちなみに、私も身長差にビビって止まっている。
「……」
「……」
ふたりの間に流れる、何とも言えない沈黙。
このまま硬直状態もあれだし、なんとか話しかけないと……!
「あ、あの……」
「……すいませんでした~~~~~~~~!!!!」
凄まじい叫びに、空気が、鼓膜が、ビリビリと震える。
「え?」
予想外過ぎる言葉に唖然としていると、巨人はそのまま地面に跪く。
「その姿、黄家の人ですよね!? 俺はなんて無礼を……今すぐ、死んで詫びます!!!!」
「いや、そんなことしなくていいですから!! いのち大事に! とにかくその剣をしまってください~~~!!!!」
――叫び合う私たち。
このよく分からない状況は、騒ぎを聞いて駆けつけてくれた兵士さんたちが来てくれるまで続くのだった。




