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自転車に乗った月英さん~女子高生、孔明の妻始めました~  作者: イチロウ
3章 今の自分ができる事

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32話 おうちかえる……

「おうちかえる……」


 お義母さんによる地獄の礼儀特訓。

 休憩時間となり、机に突っ伏しながら呟く。

 

 ……いや実際は、思ったより特徴的な礼儀作法はなく、地獄というほどではないのだ。

 一部以外は基本は同じ。ありがとう、日本の義務教育。


 なのに、なぜこの特訓が地獄かというと……


「……はーい、背中曲がってる~♪」

「ひゃうぅ! 今日の訓練終わったんだから、勘弁してください……」

「ダーメ。こういうのは、日頃からやっておくべきなの」


 ……そもそも、礼儀というか、お行儀が良い系とは無縁な私自身。

 いいじゃん猫背。たしかに腰痛いときあるけど、作業しやすいよ?


「まあ、こうなると分かっていたので、ご褒美を用意しました♪」

「え、本当ですか!?」


 ご褒美といったら、ご飯ですか!? ご飯ですね!

 肉かな、魚かな、いや、この辺りの知らない食べ物とかでも……!


「はい、愛しの旦那様入場~♪」

「……」


 現れるばつの悪そうな孔明様。

 そんな飼い主様に私は一言。


「……チェンジで」

「おや? こんなところに均が作った焼きおにぎりが」

「愛しています、孔明様。結婚してください」

「……一応、もう結婚しているのだがな、俺達は」


 包みを開けて、早速頬張る。

 おいしい……最近、均君は私の世界の料理を再現してくれるようになった。

 そのせいで、どんどん私好みの料理を作ってくれる。

 なんか餌付けされてるような気もするが、おいしければなんでもいい!


「……? 孔明様、もうひとつ包みがありますが、まさかこれって……」

「……俺の焼いた魚だ。まあ、お前には均の料理の方が……」

「ありがとうございます!」

「え……」

「ふふっ、やっぱりこれがないと始まらないですよね!」


 ……うん! やはり、この魚は美味しい。

 こっちの減塩生活に慣れてきたというのもあるけど、どんどんこの魚の美味しさが分かってきた。


「……口に付いてるぞ。お前、本当に礼儀を勉強しているのか?」

「えっと、それはその……」


 ヤバいと思って、お義母様を見ると……


「あおい……はるぅ……♡」

「え?」

「あ、全然関係ないわ! 今は全て見逃しちゃうから、私は壁の染みとでも思って続けて続けて!」


 いや壁の染みって言われても……

 まあ、見逃してくれるというならば、がっつかせてもらおう。


「……ん?」

「…………」


 食べている私の頭を、そっぽ向きながら撫でる孔明様。


「……もしかして、多少は悪いことしたな、とか思ってます?」

「……まあな」


 なんというか、本当に不器用だなこの人は。


「まあ、正直言って、絶対に許さん、おのれ悪魔、末代まで呪う、毒盛ってやるとか色々思いましたが……」

「大分物騒だな!?」

「まあでも、お養父様もお義母様も……孔明様も、私のためにやってくれているんでしょう? だったら、言うことはないですよ」

「……ふっ、そうか」

「わっ! 頭くしゃくしゃしないでください!」


 もう一度整えてもらうとなると、また侍女さんたちに玩具にされる!

 あれはあれで、かなりの地獄だ!

 というか、まだ特訓も終わってないのに、髪を乱したらお義母様が……!


「……ふんっ!!」

「え、ちょっ、お義母様!? なんで頭を壁に!?」

「ああ、ごめんなさい。ちょっと尊い空気を過剰摂取しすぎて、正気が保てなさそうだったから……」

「どういうことですかそれ!?」

「いいから! 私のことは気にしないで! 台所に現れる油っぽい虫とでも思ってくれればいいから!」

「いや、だったら余計気にしますけど!」


 だ、大丈夫かお義母様。

 やっぱり名家に嫁ぐと、ストレスとか色々あるんだろうな。


「それで、今は休憩時間か?」

「あ、はい」

「だったら、城の中を歩くか。俺も見たい場所がいろいろとある……!」


 ……また悪い癖が出てきた。

 好奇心旺盛かつ知識中毒になってる軍師様の悪い癖が。


「そんなに見たいなら、ひとりで行けばいいじゃないですか」

「ここには、あくまで黄家の知人として来ている。『諸葛亮孔明』がここにいると、私がこの国に仕えるのではないか、と言われてしまうからな」

「ああ。だから微妙に変装というか、いつもと違う格好をしてるんですね」


 今日の孔明様は、いつもの学者スタイルというより、三国版青年実業家みたいな感じになっている。

 高貴ともオシャレともいえる絶妙なラインで、とくに着物の気崩し方がそれっぽい。


「まあつまり、俺はこの城を自由に見て回るほどの位ではない。だが、『黄家のお嬢様』と一緒ならこの城を自由に歩ける、そういうことだ」


 ……本当、この人は利用できるものは徹底的に利用するな。

 まあ、そういうところは嫌いではないが。


「そういうことですので、お義母様。ちょっと外を歩いてきても……」

「いいわ! 行ってらっしゃい!」

「え、あ、は、はい!」

「簡単な見取り図を用意するわね! もちろん、城の中で人目がつかないところも書いておく!」

「え、別に人目がつかないところとかあっても……」

「大丈夫! すごく、すごーく! ついて行ってのぞ……見守っていたいけど、我慢するから! ちゃんとお留守番していますから!」

「え、えーと?」

「はい、見取り図! それじゃあ、いってらっしゃい! ……頑張りなさいね、孔明君! 厠の裏がお勧めよ!」

「……えーと?」

「……気にするな。さっさと行くぞ」

「は、はあ……」


 そして私と孔明様は、部屋を出て歩き出す。

 まあ、私も城を歩きたかったし、良かった。

 色んなところを見て回るぞー!


 ――なんて、軽い気持ちで見て回ろうとしていた私を殴りたい。

 こんなことを思ったせいで……


「…………くそ」


 ひたすら弓を放つ男の人……いや。

 国に関わる『面倒ごと』に、巻き込まれる事になったから。

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