30話 『あいつ』に与えられたもの
今回は、3章の序章になります。
そしてこの章、オリジナル要素がかなり強めです……
あくまで三国志に似た異世界、ということでご容赦いただけると幸いです。
「――逃げるか、この腰抜け!」
……落ち着け。
俺はあの時、『あいつ』から学んだ。
「背中の大弓は飾りか! 貴様のようなやつが将など、片腹痛いわ!」
どんなに願っても、俺には漢升将軍たちのような万人之敵と呼ばれるような武はない。
目の前の将軍を一瞬で切り捨て、奥にいる大将を逃がさず討ち取る力はない。
だからこそ……
『――どんなに悩んだって、人は、今の自分ができる事しかできませんから』
「……俺は、今の自分ができる事をやる!」
俺は自分の槍を敵に投げる。
「ぬぐっ! なんのつもり……なに!?」
相手が槍を弾いている隙に、背中の弓を取り出して矢を構える。
「ふんっ! 来ると分かっていれば防げる!」
そう言いながら、防御態勢を取る敵将。
このまま膠着状態になり、徐々に距離を詰められたら俺に勝ちはない。
……だが、そんなことは関係ない。
(射の精神を忘れるな。ただ矢を放てばいいんじゃない……射抜くべきものはしっかりと見定めろ)
心の中で、自分に言い聞かせる。
考えるんだ。今、何をすべきか。
考えるんだ。今、俺がもっとも射抜かなければいけない相手を。
「……一射入魂!」
俺の掛け声とともに、放たれる矢。
それは山なりに飛んでいく。
「ふっ、どこを狙って……なっ!?」
敵兵の頭上を越えていく矢。
それは正確に、俺の狙うべき敵――
「ぐおおおぉぉおお~~!!」
――敵大将を貫いた。
「じょ、丞相!」
「撤退だ! 撤退しろ!」
騒然とする敵陣。
(……まずは確認だ!!)
矢が当たった敵を見る。
命中したのは頭……狙い通りに当てられた。
……だが、倒れた敵はかすかに動いている。
おそらく、頭を反らして前歯で受けたのだろう。
敵ながら恐ろしいやつだ。
「やってくれたな……!」
迫ってくる敵将。
この距離では、矢をつがえる隙がない。
「この戦い、お前のせいで我らの負けだ……だが! その首だけはもらっていく!」
振り下ろされる槍。
それは俺の首を正確に狙う。
「……させない」
だが、その槍が俺の首に届くことはない。
馬に乗って現れた者……見知った憎らしいやつが、その刃を防いだから。
「援軍か……勝負は預ける!」
退いていく敵将。
どうやら、命を拾えたようだ。
「孟起将軍の元にいなくていいのか?」
「……」
「……なるほど。子龍将軍に、俺の援護を頼まれたのか。あとで礼をしないとな」
「……違う」
「目を泳がせまくっても説得力がないぞ。」
「…………うるさい」
怒りながら、馬に積んでいた予備の槍を投げ渡される。
「……使え」
「渡すなら、ちゃんとした槍をよこせ」
「…………やっぱり返せ」
「この戦いが終わったらな」
俺は渡された槍を握る。
それは、馬での突撃では凄まじい威力を発揮する、使い捨ての槍。
……『あいつ』が考案した槍だ。
「……何考えてるか分かった」
「残念、外れだ」
「……『あいつ』には与えられてばっかりだ、そう考えてる」
「……なんでわかった?」
「……同じこと、考えていた」
そう言いながら、乗ってきた馬の馬具を静かに撫でている。
いつもの無表情、不愛想の顔に、数えるほどしか見たことがない、優しい笑みを浮かべながら。
「そうか……ならば! やることは同じだな!」
「……今の自分ができる事をやる!」
そして俺たちは、敵へと向かって走り出した。




