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自転車に乗った月英さん~女子高生、孔明の妻始めました~  作者: イチロウ
2章 諸葛均

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29話 私の居場所

「――あの、孔明様。これなんですか?」

「項圈。首に巻く装飾品だ。」

「それは分かるんですけど……」


 みんなのお見送りが終わったあと、畑を耕していたら急に現れた孔明様。

 無言で手伝いだしたと思ったら、謎のプレゼントだ。

 

 なんというか、意味がわからん。

 ……というかこれ、首輪っぽくないか?

 ますます私、飼われているタヌキにしか見えなくならないか?


「蔵を探していたら出てきた。いいからしておけ」

「え、それって家のものですよね? 私が付けてたら……」

「……いいから、付けておけ」

「は、はあ……」


 あれ、なんか孔明様の機嫌が悪いような。

 

 ……むう。私、何かやらかしたか?

 俺は何もしてねえ! と思いたいところだが、こういう時って大体、自分では気づかずに何かやらかしているものだ。

 自分は悪くないって思う時は高確率で、『あ、自分も大概だわ』ってなるように。


 ――よし、ちょっと思い出してみよう。


 あの黄承彦様……じゃなくて、お義父様(これで落ち着いた)と家族になったあと。

 トピックとして挙げられるのは3つぐらい。

 

 ひとつは、私の立場をちゃんと伝えたこと。


『いやー、こんなにも可愛い娘と、優秀な息子が同時に出来るとはね』

『まったく、羨ましい限りだ承彦。わしも、後継者争いとかにならないならば手を挙げたかった』

『……ん~。あの、お義父様。ぬか喜びさせたくないので伝えておきますが、できたのは娘だけです』

『え? どういうことかな?』

『一応、嫁ということになっていますが、それは興味対象だったり、水道の時とかに隆中の人を説得するのに便利だったからでして。孔明様にとって私は……観察対象?』

『えっ!? に、兄様、そうなんですか!?』

『ちょ、ちょっと待て、シャオリズ!』

『あ、ほら。シャオリズ(小タヌキ)なんですよ、私』

『え、えーと……?』

『あ、こう言った方がいいですかね……』

『ま、待て! シャオリ……』

『私は飼ってもらってる動物みたいなものなので、強いて言うなら……飼い主?』


 ……ふむ。

 問題ないな。


 お義父様に、孔明様という天才が息子になるというぬか喜びをさせずに済んで良かった。


 もうひとつは、今後の話をした時のこと。


『……ま、まあ、飼い主については、一旦置いておくとして、だ。もうひとつの話をしようか、劉表』

『ここに来る前に承彦と話していたのだが、隆中にもっと人を入れ、規模を拡大する。将来的には、ひとつの県として扱うのも視野に入れてな』

『……隆中の水道の価値を守るためには、正しい判断かと思います』

『え、でも……』

『ああ、安心していいよ、月英。水道や他の知識を、荊州で独占しようというわけではないんだ』

『理由はさっきと同じ。面倒な奴らが群がってくるだろうから、ちゃんと管理しようってことですよ♪』

『……隆中、襄陽のそばにあるとは思えないぐらい田舎ですからね。他国の間者が動いたら、誰も止められません』

『なので、隆中にも守備兵を置く。隆中に駐在し、治安を預かってくれ、甘寧。……いや、牙門将、甘寧興覇』

『……はあっ!?』

『やることは別部司馬。軍の采配に関係なく、お前の意志で隆中を守ること。だが、この地は平時から重要拠点を守る牙門将を置くべき場所だ。それをお前に任せる』

『お、俺が牙門将……』

『隆中ならば、他国出身のお前に役職を与えても、周りは何も言ってこないだろう。ようやく、お前にまともな役職を与えられるな』

『い、今更そんな……!』

『君にとって荊州は退屈かもしれない。別の国に仕官するなら止めないよ。だが、それまでは諸葛家を、月英を守ってほしい』

『……はっ! そう言っといて、隆中が育ってきたら、適当なところで牙門将を他の奴に変えるんだろう!? よそ者が牙門将だなんて、軍の奴らが許すわけねえ!』

『…………』

『ほら、何も言い返せねえじゃねえか! 軍にも、蔡家にも何も言えないお前に……』

『いや、変わることはないと思いますよ?』

『……は? 急になんだよ、クソタヌキ』

『クソタヌ……!? こ、こほん……聞いてた限りですけど、あなたは私の護衛管理担当にもなるわけですよね?』

『……まあ、基本は隆中全体の守備だが、重要任務にはなるだろうな』

『だったら、解雇はありえませんよ。私が認めませんから』

『……は?』

『ムカつきますけど、素人の私から見ても、あなたは並外れて優秀ですから。逃がすなんて絶対にしませんので……』

『え、あ……』

『……私が危ないっていうなら、ずっとそばにいてください』


 ……ふむ。

 まったく問題ないな。


 憎いあん畜生は本当に、本当にムカつくが、遠くにいたのに一瞬で私の後ろを取ったりしてきた。

 この世界の猛将みたいな人の強さは分からないけど、少なくとも私から見れば、下手すれば単福さん以上に『人間離れした化け物』だ。

 そんな人材を逃がすわけがないという説明をしただけだし。


 ……この会話のあと、周りはざわついて、憎いあん畜生は下向いて黙りだしたのだけは、理由が分からないが。


 そして最後は、お客さんのお見送り。

 劉表様たちをお見送りして、最後のお姉さんの時……


『……あの、お姉さん? そろそろお家に帰る時間では……』

『……嫌。月英は連れて帰ります』

『ね、姉様……』

『姉上、あまりワガママを……』

『……そうだよ。さっさと帰ってくれないと俺が困るから、早く馬車に乗って』

『え……どうしてあなたが?』

『こうなるかもって、家の迎えを呼んだのは君でしょ? なに驚いてるのさ』

『い、いえ、龐家の者とはいえ、まさか、あなたが来るとは思わなかったもので』

『タヌキの仙人が気になってね。そっちの人がそう?』

『タヌ……まあ、そうですね。月英といいます』

『ああ、名前とかいいよ。覚えられないし、覚える気もないから。それより、ちょっと顔見せて』

『は、はあ……』

『……ふーん、興味深い相だね。あと、体見せてもらっていい? できれば服も脱いで』

『あ、はい』

『い、いや、はいじゃないですよ! 月英姉様!』

『あ、そうですね。服はダメです』

『……ふむ。面白いね、君』

『……え!?』

『唾つけといた。またね』


 ……ふむ。

 全然問題ないな。


 孔明様の知り合いに、ちゃんと対応できただろう。

 なんか首筋舐められたけど、まあ変わった人だったし、挨拶かなにかだろう。


 ……むう。

 やっぱり思い当たることがないぞ?


「……また、見当違いのことを考えているな?」


 気が付けば、私の目の前にまで顔を近づけている孔明様。

 なんというか、ジト目になってるが、なんでだ?


「失礼な。ちょっと自分の行動を顧みて、心の中で反省会を開いていたんです」

「その結果は?」

「私は何も悪いことはしてないですね。むしろ頑張ったと思うので、ご褒美くれてもいいですよ。肉とか魚とか待ってます」

「…………はあ」


 私から離れて、ため息をつく。

 ……むう。

 今日の孔明様は意味が分からん。


「……言いたいことは山ほどあるが、とりあえず、もう少し自分の立場を自覚しろ」

「たしかに、肩書というか、名前が増えましたからね。私は黄月英で……」

「……俺の嫁だ。月英。お前は諸葛家の一員だろうが」

「そうですね。観察対象でしょうけど、私は…………え?」


 ……今、諸葛家の一員と言ってくれたのか?

 それも、シャオリズと呼ぶいつもの喋り方じゃなくて、月英と呼びながら、均君と……家族と話す時のような、孔明様の本来の口調で。


「……お前がどうしたいかは知らんが、諸葛家の一員であることは忘れるな。その、俺の嫁である事も……な、なんで泣く!?」

「え、あ……ごめんなさい。急に出てきて……」


 私がこの世界に来て、初めて迎えてくれた諸葛家。

 この家が、孔明様や均君がいなかったら、私は今ごろ元の世界に帰りたいと叫びながら、発狂していたかもしれない。


 ……でも、私は他人であり、しかも異世界の人間。

 ここを居場所に、なんて考えることは傲慢だと思っていた。


「……あの、孔明様」

「なんだ?」

「私、ここにいていいんですか?」

「……よく分からんが、何度も当たり前のことを言わせるな」


 孔明様は振り返り、まっすぐに私を見つめながら静かに言う。


「諸葛家は、お前の家でもある。好きなだけいていいし、どこかに行くことがあっても、好きな時に帰ってこい」

「はい……はいっ!!」

「……っ!?」


 気が付けば、孔明様に思いっきり抱き着いていた。

 安心したから、嬉しいから、感謝したいから、泣き顔を見られたくないから、理由は色々思い当たるのだが、今はとにかく、ただ孔明様を近くに感じたかった。


「……なあ、月英。この際だから言っておくが、俺はお前を飼っているとかではなく……」

「兄様、姉様! そろそろ夕飯ですよ」

「え、本当ですか!?」


 そこに、私たちを呼びに来た均君が現れる。

 均君の足はまだ回復していないが、吹っ切れた影響なのか、料理を再開した。

 まだ杖を突いているので、私が教えたおにぎりとか、スープを温める(ファイヤー・ピストンがさっそく役に立っている)ぐらいだが。


「さあ、すぐに行きましょう、孔明様。……孔明様?」


 なんか、無言で孔明様が均君を歯痒そうに睨んでいる。

 そしてそんな孔明様の目を、ふふんとばかりに笑顔で流している。


 なんだ、この状況?


「ほら、行きますよ!」

「……ああ」


 動かない孔明様を引っ張り、そのままみんなで向かう。

 異世界で見つけた、私のもうひとつの居場所……


「……均。あとで覚えておけ」

「なんか兄様が怖いです~。姉様、助けてください~♪」

「孔明様……なんだか知らないけど、大人げないですよ?」

「なっ、おまっ!?」

「ふふっ、姉様大好きです~♪」


 ――私の大好きな諸葛家の庵に。

一旦、書きたいところまでは書けた感じです。

続きは考えてあるのですが、とりあえずの一段落。


リアルが落ち着いたので、リハビリ感覚で書いていたのですが、ここまで形にできてよかったです。

一応ランキングに入ったり、いろんな方に見ていただけたようでありがとうございます。


次は、荊州のあの武将やら、呉の有名人やらが出てくる予定です。

リハビリ一段落したので他作品の続きも……と考えているので、多少更新ペース落ちるかもですが、

続きが気になってくださる方、もしいらっしゃいましたらまた見ていただけると嬉しいです。

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