3話 姉様も始めました
「……朝か」
人のことを抱き枕にしてぐうすか寝ている孔明様を引っぺがす。
……本当にずっと抱き枕にされたのか。
おかげでこっちは、ちょっと寝不足だ。
「とりあえず、顔でも洗うか……」
そう考えながら、井戸に向かう。
……しかし、改めて見ると大きな庵だな、ここ。
孔明様は働いてもいないのに、どうやってこんなところに住んでいるんだ?
親の遺産か? それともコネか? どっちにしてもいい御身分ですなあ……羨ましい!
まあ、そんな金持ちの旦那……まあ、狸の妖怪である私の飼い主みたいなものだが、そんな人に拾ってもらえたのは幸運だったかもしれない。
「お、井戸発見」
井戸を見ると、レンガ作りでかなり立派なものだ。
うちの田舎でもレンガ井戸がまだあるが、ここまで綺麗な状態のは少ない。
……あらためて考えると、この時期にレンガまで使ってるってすごいな。
日本ってまだ、邪馬台国だよね?
さすが中国四千年の歴史……!
「……ふう。さっぱりした」
顔を洗い、近くに置いてあった布を使わせてもらう。
さっぱりしたところで、早速……あれ、私ってここで何をすればいいんだ?
とりあえず一応は妻らしいし、分かりやすく朝ごはんでも作っておくか。
今後のことを考えて、色々とやっておきたいこともあるし。
そう考えて、とりあえず台所を目指すが、問題発生。
「台所は……どこだっけ?」
井戸に続いて、また迷う。
だからこの庵、無駄に大きいんだよ!
まあ、大半は畑のようだが。
「えーと、たしかあっちだったような……ん?」
なんか、向こうに人がいる。
孔明様曰く、7日に1回、いわゆるお手伝いさんに来てもらっていると言っていたが、今日がその日だったのか?
挨拶ぐらいしておいた方が……なっ!
よく見たら、畑のそばに置いといた私の自転車、タイガー号を見ている!
さては盗人か!
「ちょっと待ったぁああ~~!!!!」
泥棒阻止のため、その人に飛び掛かる。
私の身長はおそろしく低いが、そこそこに肉は付いている!
まさにタヌキダイブ! けっこう威力もあるのだ!
……ちょっとダイエットを考えた方がいいか。
「え……うわっ!?」
だが、ここで誤算がふたつ発生する。
ひとつは、ひとことで言うと私のタヌキダイブの威力が高すぎた。
……まあ正確には、相手が私に匹敵する小柄だっただけだが。
「……あうっ!」
悲鳴が可愛い盗人を確保するため、起き上がろうとするが、ここでまたしても誤算発生。
なんでか私の方が下になって倒れこんでいる。
「む、むぐうぅう……」
え、どうしてこうなった?
ダイブしながら抱き着いて、一緒に倒れこんだはずなのに。
重力仕事しろ……いや待て、重力が逆に仕事しすぎたのか?
胸元で呻いているこの子、本当に人間かってぐらい軽いし。
「あ、ごめんなさい」
とりあえず腕を離し、胸元から解放する。
すると、顔真っ赤でフラフラしながら離れていく。
(な、なにこの生き物……)
ここで初めて、私は離れていった子の顔を見る。
黒い髪、左右でお団子みたいにまとめた髪型、くりっとした目。
私がタヌキなら、この子はウサギの妖怪とかじゃないのか?
「あの……それでボク、何かしちゃいましたか?」
「それは、こっちが聞かせてもらいたいです」
そう言いながら、タイガー号を一応確認する。
うん、壊されたりはしていない。
……まあ、この子がそんなことするとは思えないが。
「あ、もしかして、この虎さんはあなたのですか?」
「はい。あなたのことを盗人かと思って飛びかかったのですが、誤解だったようですね。ごめんなさい」
「あ、そういうことだったんですね。こちらこそ、ごめんなさい。珍しかったから、勝手に見てしまいました。えーっと……」
「月永……じゃなかった、月英です」
もう孔明様に月英って呼ばれてるし、ここではそれにしておこう。
それに、ゲツエイって小学生の頃にあだ名がそうだったし。
なんで子どもは、あえて名字とか名前の別読みをあだ名にしたがるんだろうか。
……まあ、あだ名で呼ばれるのって、ちょっと嬉しかったけど。
「あ、あなたが兄様の言っていた、お嫁さんですね!」
「はい。なんかそうらし……今、なんて?」
なんか、兄様って聞こえたような?
しかもお嫁さんって、最近やたら身近な単語だ。
兄様+お嫁さん……つまりそれって……!
「その子は私の家族だ」
「……は、え? かぞ……く……?」
いやもう、情報が濃すぎる。
しれっと現れる孔明様、ウサギ妖怪の登場、しかもそれが孔明様の家族?
いやいやいや、顔が良いのは同じ血ってことで分かるが、骨格が違いすぎるだろ。
孔明様が胡散臭い科の人間なら、この子はメルヘン科の人間だぞ?
「諸葛均といいます。以後、お見知りおきを。月英姉様」




