25話 ……むう
今回も一応ですが、未成年の飲酒は禁止ですのでご注意をば。
「……むう」
気がつけば、キャンプファイヤーでの酒盛りと化した食事の席。
私は庵に退散して、台所の机に突っ伏する。
……軽くいじけながら。
「やっと終わった、けど……」
私の前にあるのは、まだ洗っていない、今日の食事で使われたお皿。
その中には、私が用意していなかった小皿がある。
「……反則だよな、これ」
そして、その小皿……三色の葛デザートが入っていた小皿を指で弾きながら呟く。
私の用意したすき焼きは大好評だった。
用意した材料はすべてなくなり、〆である玄米卵雑炊も完食してもらえた。
感謝されるのが大好きというわけではないが、さすがに私だって気持ちよくなる。
ちょっと気をよくしていたところ、食事の席に声が響いたのだ。
『最後に、ちょっとした甘味はいかがですか』
今です! とばかりに響いてくる、どS軍師の声が。
そして出てきたのは、葛を使った三種のデザート。
ずんだ餡の葛饅頭、餡子の葛饅頭、そして、何かほのかな甘みが入ったシンプルな葛餅。
「……そりゃ、すき焼きのあとの葛餅は、最高においしいですよ」
これが出た瞬間、評価はすべて孔明様一色。
さすが孔明殿、さすがだな孔明殿、さすが兄様。
さす孔とさす兄の嵐だ。
ここまでなら、まあ孔明様だしね、で終わるのだが……
「……葛饅頭は、教えてないでしょうが」
私が提案した脚気対策メニューの中に、きな粉たっぷり葛餅、ずんだ餅、餡子餅があった。
でも、その中に葛饅頭という食べ物はない。
孔明様曰く、『朝一で注文し、仕上がりを見たら工夫ができそうだったので、その場で他の木簡メニューのものを取り入れた』そうだ。
大正解ですよ。
孔明様が作ったのは葛饅頭といって、葛餅と並ぶ人気和菓子ですからね。
……でもそれって、『知識さえあれば私なんていらない』ってことですよね?
「…………むう」
「その膨れている顔、まさにタヌキだな」
木製のコップを手にしながら、私の前に立つ孔明様。
本当、この時代の人はどこからともなく現れるな。
「……鈴の人たちのお相手をしなくていいんですか?」
「少し抜けて来た。お前の様子も見ておきたかったからな」
「……そうですか」
突っ伏しながらも、ぷいっと顔をそむける。
「なんだ? 私に手柄をかっさらわれて、むくれているのか?」
……思いっきり図星をついてくる孔明様。
本当にこの人は容赦ないというか、どS軍師というか。
「……そうだけど、そうじゃないです」
「なんだそれは? まあ、くだらんことを気にするな。お前は……」
「…………気にしますよ!」
孔明様からコップを奪い取って飲む。
ちょっとした仕返しだ。
……お?
これ、結構おいしい。
全部もらっちゃうか。
「お、お前、それは……!」
むう。なんか頭がくらくらする。
なんか顔まで火照ってき……あれ……?
「きゅぅぅ……」
そのまま、また机に突っ伏する。
というか、倒れこむというか……
「……だいじょう……ぶか!?」
……なんか孔明様の声が遠くに聞こえる。
心配してくれているようだが……本当にこの人は分かっていない。
イケメンで、とてつもなく頭が良くて、実は誰よりも優しいという完璧超人なのに……いや、だからこそ分からないのかな。
この世界に来て孤独になった私を救い、いつも私が言う突拍子もないことを信じてくれて、どんなことに付き合ってくれる孔明様に、私がどれだけ感謝しているかを。
そして、私がむくれている最大の理由を……私の心を。
(私は……)
「……わたし、は……」
(私は……私は…………)
「あなたの役に、立ちたいんです…………」
……そこで私の意識は途切れていった。
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「……寝たのか」
目の前でいきなり人の酒を一気飲みして、倒れる月英。
慣れていないのに、強い酒を一気に飲むからだ。
「……役に立ちたい、か」
倒れる前に俺に言った月英の言葉。
「……人の心というのは、どんな学問よりも難しいな」
月英を嫁に迎えたのは、他国の民ならではの発想と、未知の知識を持つことへの好奇心。
そろそろ妻を娶れとうるさい周りへのけん制にもなる、そう思っていた。
……だが、今はそれだけではない。
月英は俺に、知識が人を救えることを思い出させてくれた。
今も水道は皆を潤し、目に見えて疫病にかかる子供が減った。
そして、今回もきっと均を救ってくれるだろう。
「……役に立っているどころではない。救われているんだ、俺も、お前に」
頭を撫でながら、起こさないように耳元で静かに囁く。
これを面と向かって言うべきなのだろうが……その、なぜかそれができない。
「心の中にある思いを伝えるのは、どんな学問よりも難しい……そう思わないか、均」
そして俺は、後ろに現れた気配に話しかける。
「…………」
そこには、杖をつきながら立つ均がいた。




