24話 月永家流『塩こうじすき焼き』
一応ですが、月英の真似は絶対にしないようにしてください!(確認方法とか人体実験も含めて、色んな意味で)
「まず、豚肉を軽く焼きつつ、上から少量の蜂蜜、そして今回は事情がありまして塩こうじで味をつけます」
焼き芋しかり、今日は再現実験中のものを惜しまず投入。
こっちには醤油っぽい味がする『醤』があるので、それで割り下をある程度再現できるのだが、今回は脚気治療がメインなのでこっちの方がいいという判断だ。
塩こうじの説明は……まあ、塩っていってるしなんかそれっぽく伝わるだろう。
頑張れ、たぶんあるであろう私の翻訳チート能力。
「網で肉を焼くのではないのだな」
「鍋の蓋で肉を焼くなどは聞いたことがあるが、面白いな」
お、反応は上々。
さて、ここからが問題だな……
「そこにある竹筒の中に卵があるので、器に割っておいてもらえますか?」
「器に……おお!?」
割って現れるのは、こっちの平べったいものと違い、黄身も白身もぷりっとしたもの。
「これ……卵、だよな?」
「……」
ふっふっふっ、憎いあん畜生も、孔明様も驚いているな。
諸葛家鶏舎の、特製生みたて卵に!
(……思えば、生で食べられるようにするまで長かった)
思い出を噛みしめながら、空を仰ぐ。
どうしてもTKG、卵かけご飯が食べたかった私は、近くの養鶏家の人から鶏を何匹か分けてもらい、ネズミもいない鶏舎(使っていない納屋を勝手に改造。1時間ほど説教されたが、許されたので良しとする)で、サツマイモを混ぜた栄養満点の飼料で育てる。
そして、下痢をしてないかなど、サルモネラ菌を厳重チェック。
仕上げに、生んだ卵を私が食べて人体実験をし、体調に異常はなかったので、サルモネラ菌を持っている鶏ではない(まあ、絶対とは言えないが)と判断。
そうして生まれたのが、この、安全性、質、どれをとってもそんじょそこらの卵とはモノが違う卵というわけなのだ!
……今思い返すと、自分で人体実験って無茶だったか?
まあ、お腹壊さなかったし、別にいいか。
(でも、ここからが問題なんだよな……)
たぶん来るだろう。
私が、生卵を食べる状態にできたのに、孔明様たちに共有しなかった理由……
「それで、この卵をどうするのですか?」
「焼いた肉を、溶いた卵につけて食べます」
「な、なにっ!?」
……生卵を食べるという、異文化への拒否反応が。
「つけるって……これ生だろ!」
「生卵は、しっかり管理した鶏の卵で、新鮮かつ腐敗しないような処置をしていれば生でも食べられるんです」
そう言いながら、竹筒の中を見せる。
「朝生みたての新鮮な卵を、抗菌と防腐効果がある木灰を詰めた竹筒に入れ、地下水を利用した冷蔵で保管。これなら、生で食べられますよ」
「た、たしかに、この竹筒はまだ冷たいぐらいだが……」
……ま、こうなるか。
しょうがない。用意していた別案を使おう。
「やはり抵抗がありますよね。失礼いたしました。では隣の竹筒にある卵で食べてみてください。そちらは温泉卵といいまして、生に見えますが安全で……」
「……月英姉様、お肉をください」
「……え?」
全員が、一斉に均君を見る。
もっとも意外な人物による予想外の言葉に、誰もが言葉を発せられない。
「月英姉様? お肉が焦げる前にください」
「あ、はい」
長箸で均君の器に肉を入れる。
均君はその肉に生卵をしっかりと絡ませる。
「では、いただきます」
そう言いながら一口食べる均君。
「……っ!?」
……そして、食べた瞬間に口を抑え、真剣な表情で硬直した。
「き、均!」
「あの、均君! 無理だったら吐き出してもらっても……」
「ちが、違うんです……!」
私と孔明様の心配を手で制する均君。
「その、これ……びっくりするほど美味しいです! 卵の濃厚でまろやかな味が、しょっぱくも甘い不思議な味と合わさって……えっと、なんというか……とにかく美味しいです!!」
見たことがない均君の反応。
「で、では、我らも頂こう……」
「月英殿、肉を頂けるかな?」
均君の反応に興味をもったのか、みんなも動き始める。
そして、目配せしたわけでもないのに同時に食べ始める。
「「「……おおおぉぉお!」」」
……そして、なんか全員が同時に吠えた。
「な、なんだこれは!?」
「いやその、豚肉なのは分かるのだが……!」
「た、たしかにこれは、うまいとしか言えねぇ……!」
とりあえず、鈴の人たちには大好評のようだ。
「塩味と甘味という、相反する味をあえてぶつけることによる新しい味。それにこの塩味にも、どこか甘みが……これはまさか、米を使ったものか?」
……そして分析を始める、料理を発明か何かかと思っている孔明様。
本当にこの人は、料理の腕のふるいがいがないというか。
「おい! もう一枚肉をくれ!」
「ダメです。すき焼きは肉だけじゃないので」
ある程度の枚数を焼いて、すべて他の皿に移す。
そして、しっかりと肉のうまみが出た出汁に、まずは白滝と焼き豆腐を投入。
……どっちも、固まるのが間に合ってよかった。
白滝は結構なんとかなるが、市場で買った水漬け大豆がしっかりと柔らかくしてもらってなかったら、危なかっただろう。
「まずは、白滝と豆腐に味を染み込ませます」
「白滝? それに豆腐?」
「白滝は糸状にしたコンニャクで、豆腐は大豆を挽いた時の汁を固めたものですね」
「大豆の汁を固めた、白い塊……?」
「まさか淮南王の……いや、まさかな」
……なんか豆腐まで騒がれてる。
え、豆腐ってもしかして、この時代珍しいの?
大豆とれるし、石膏なんて漢方の材料で手に入るんだから、作ればいいのに。
「最後にネギなどの野菜を入れて火を通したら、肉を戻して完成です」
ちなみに、この肉を一度出すのは月永家流だ。
同じやり方のところも結構あるらしいが、肉を焼いたら取り出さず、そのまま野菜を入れるのが主流らしい。
「食べごろですので、気になるものからどんどん食べちゃってください」
「え、取り分けないのですか?」
均君の驚きの言葉。
そして、それに同調するようにみんながこちらを見てくる。
そういえば、ひとつの鍋をみんなで囲むのって、日本だと普通だけど、他の国だと珍しいのか。
それぞれが使った箸を、みんなで同じ鍋に入れるのは汚いとか思われるんだっけ。
「私の住んでいた場所では、こうやってひとつの鍋をみんなで囲んで、そこから好きなものを取って食べるんです」
「なぜですか?」
「同じものをみんなで一緒に食べる。なんか、家族って感じがしませんか?」
「家族……」
……まずい。
均君の環境から考えると、家族って禁止ワードだったりするかな?
「あ、でも、あくまでうちの習慣みたいなものです。すぐに取り分けを……」
「いえ、ボクはこのままでいいです」
おお、賛同してもらえた。
「……私も大丈夫です」
同じように禁止ワードかと思っていた孔明様も賛同してくれた。
これは大丈夫そうだな。
「なら、我らも頂きますか」
「ふふっ、ですな」
「俺は断……うおっ!?」
「賛同、ありがとうございますわ♪」
最高の笑顔をしながら、『私が使っていたお箸』で憎いあん畜生の皿に大量の野菜をぶっこむ。
ざまあみろ。
大量の野菜でお腹いっぱいになって、肉を食べられなくなるがいい。
「どんどん食べてください。これが終わったらまた、すぐに肉を焼きますので」
そう言いながら、みんなですき焼きを食べ始める。
さあ、すき焼き奉行として、思いっきりみんなを楽しませなくては!




