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23話 頑張って!

 ――さあ、私の戦場へ!

 という意気込みで来た私。


 たどり着いた戦場にいたのは、諸葛家ふたりと、あのうちのじいちゃんたちみたいな鈴の人たちと、人のことを男と間違えた憎いあん畜生。

 睨んできたので、こっちも睨み返してシャーと威嚇しておいた。

 

 ちなみに、単福さんと、他の鈴の人たちはいない。

 まず単福さんは、『ちょーっと仕事が入ったので、私はあとで合流しまっす! じゃあね~♪』と言って、消えていった。

 ……と思ったら、いつものように後ろに現れて、『……僕の分、取っておいてねぇ?』と言って今度こそ消えた。

 もう、話し方から行動から理解不能なので、比較的早急に記憶から抹消しよう。


 そして他の鈴の人たちは、少し離れたところに立っている。

 準備中に、みなさんにも食事の席を用意するといったら、あの憎いあん畜生が『うるせえぞ、タヌキ! いいっつってんだからほっとけ!』とか言ってきた。

 ……あいつのご飯だけ、タヌキの化かしってことで葉っぱにしてやろうか。


 まあ、そんな感じで色々あったが、席について簡単に挨拶。

 予想通り、最初はこの目立つ『制服』が会話のネタになり、根掘り葉掘り聞かれた。

 ……洗い方ミスってちょっと縮んだせいで、なんかギャル制服みたいになってるからあんまり着たくないんだよなぁ、これ。


 まあ、思った以上に盛り上がったので、気がつかないうちに均君が抜け出すのを阻止できていたのかもしれない。

 それなら、このちょっとだけ(あくまでちょっとだけ!)『タヌってる』お腹を晒したかいがあったというものだ。


 そして、ある程度話が進んだら孔明様と均君の間に座り、あとは食事の準備と解説をと思っていたのだが、誤算が発生した。


「――ふむ。孔明殿は、官渡での戦いは曹孟徳が勝ち、中原を制するとお考えか」

「はい。袁紹も曹操と並び立つ英雄ではありますが、巨大になりすぎた勢力を掌握しきれていない。その隙を突かれたら、あっという間に瓦解するでしょう」

「だが、官渡での戦いで袁紹が敗れたとしても、中原を制するというのは……」

「袁紹は名家としての自尊心が強い。格下と思っている曹操に敗れたら覇気を失い、疑心暗鬼になり、病に伏せるでしょう。そして、そこからは袁家の内紛が始まる……それをまとめて平らげるのが曹操孟徳、中原の覇者です」

「……恐ろしいな。荊州も今の内から備えておかなければ」


 ……会話が盛り上がりすぎて、食事会が始まらない。

 

 むう。制服の珍しさもだが、お茶請け感覚で出しておいた焼き芋の効果がありすぎたか。

 向こうの鈴の人たちも、立ちながら食べてるし。

 

(……というか、気がつけば激ムズ会話になっていて、まったく話についていけない)


 いわゆる、情勢的な会話をしているのは分かる。

 だが、この話で私が分かるのは曹操ぐらい。袁紹って誰?

 しかも、ラノベとかで三国志のことを軽く知った私にとって、曹操は何をした人かぶっちゃけよく分かってない。

 なんか、船燃やされてたような。あと、人妻好きとか言われてたような……うん、とりあえず、サイテーな人だと認識しておこう。


(このままだと、私だけ馬鹿みたいな感じになる。このピンチを脱するには……!)


 あたりを見渡し、自分の『仲間』を探す。

 ひとりだと目立つが、話を理解していない人が他にもいれば、私の馬鹿は目立たないはず!

 

(均君は……!)


 ……情勢とか理解しているようで、相槌を打っている。

 くっ、さすが孔明様も認める頭の持ち主!

 

(……ならば、気に食わないが! 本当に気に食わないが!!)


 そう思って、憎いあん畜生に目を向ける。

 あいつは見た目的に賢そうじゃないし、きっと私と同じはず。

 今こそ過去の遺恨を忘れ、馬鹿同盟を……


「…………フッ!」


 あ、あいつ、鼻で笑った!

 あれは完全に話を理解したうえで、こっちを馬鹿にしているやつだ!


 とりあえず、口に出さず威嚇してやる!

 心の中で……シャー! シャー!!


「さすが孔明殿ですな。我らには思いつかない発想をされる」

「私はそんな大層な人間ではありません。ただの『変わり者』です」

「愚者と識者は紙一重、と? ふふっ、物事の真理をついておきながら、よく言う」


 そんな負け『狸』の遠吠えをしていたら、次の話に移っていた。

 孔明様は物事の真理をつく、か。

 確かに、それは間違いないだろう。

 あえて訂正を入れるなら、孔明様は間違いなく変わり者であることぐらいか。

 

 それにしても、改めて考えると私は随分とすごい人のそばにいるものだ。

 私にはよく分からないが、たぶん目の前のふたりは知識人で、何かしらのプロフェッショナルだろう。

 そんな人たちが手放しで褒める孔明様は、とてつもない人ということ。

 

 プロフェッショナルが褒めるプロフェッショナルは本物の天才……おじいちゃんも言ってたな。

 

「…………」


 均君も嬉しいのか、誇らしげに孔明様を見つめる。

 私も見たことがある、『さすが兄様です』状態。


 その目には、憎しみなんてものは一切ない。


(……やっぱり、孔明様のことが好きではあるんだろうな)


 そう思った瞬間、胸の奥が締め付けられる。


 なんでもできる天才で、こうやって人に一目置かれる孔明様。

 そんな孔明様を誇りに思い、慕っている均君の心に、偽りはないのだろう。

 

 だけど、あの時の……ふたりの間にできた亀裂のせいで、どう感情を出していいか分からない。

 

 ……それは、本当に悲しいことだ。


 均君は、『孔明様のこと、憎んでいるんですか?』という私の質問に答えなかった。

 私はそれを、無言の肯定なのかもしれないとも思った。

 でも、きっとそれは違う。


(……孔明様と一緒。均君もどういう感情なのか分からないんだ)


 均君は分かっていたはずだ。

 諸葛家が生き残るには、お兄さんと叔母さんが自分たちのもとを去るのも、お姉さんたちが嫁ぐのも、必要なことだと。


 でも……


『……瑾兄も、叔母上もボクを捨てていくんだ!』


 寂しいという気持ちから、つい出てしまった心にもない言葉。


そして……


『……俺は! お前がいなければ、兄上に付いていけたんだ!!』


 自分の野心から、つい出てしまった心にもない言葉。


 それが複雑に絡み合い、ふたりの心を縛ってしまったのだろう。


 こんなにも、兄のことを誇りに思っているのに。

 弟のために料理を開発して、気遣い続けているのに。

 

 どうしていいか、ふたりとも分からないまま過ごしてきたのだろう。


「……おっと、つい話が盛り上がりすぎましたな」

「既に、この見たこともない作物や茶だけでも楽しませていただいているが、食事はもっとすごいのでしょう?」

「ええ。月英の国の料理で、祝いの席に出されることもある料理とのことです」


 ついに話が終わり、参加者の目線が私に集まる。

 どうやら私の出番のようだ。


 料理の説明のために立ち上がる……その前に。


「……えっ!?」


 私は均君の手をにぎる。

 そして……


(……頑張って!)


 鈴の人たちには聞こえないように、小声で応援する。

 おそらくだが、今日の食事会は、孔明様からの不器用なアプローチだろう。

 

 均君は、居るだけで辛くなる時もあるかもしれない。

 また孔明様と衝突することになるかもしれない。

 

 ……でも、きっとふたりにとって良い方向に向かうと思う。


「……」


 私に手を握られながら、ぼーっと見てくる均君。


 よく考えたら、いきなり手を握られて応援って、かなり意味不明では?

 ……というか、軽く恐怖では?


 まあいいか。

 『よく考えたら』の奇行なんか、町中で脱ぎかけた私は経験済みだ!


 ……いや、反省した方がいいな。

 まあ反省は、そのうちたぶんきっとおそらくするとしよう。


「では……」


 均君の手を離し、制服の胸ポケットから、さっき組み立てほやほやの『ファイヤー・ピストン』を取り出す。

 そして、中央に組んである薪に火をつける。


「……なっ!?」


 うん、問題なし!

 さすが、古来から使われているという超優秀発火装置。

 密閉された筒とか止めパーツさえあれば、結構簡単に作れる点といい、パーフェクト。

 これで面倒だし、雨の日は外で使えない火打石生活とはおさらばだ。


 おじいちゃんが、『油が切れたら使えないライターより便利だぞ』とか言いながら構造を語りだした時、いや、ライター2本持っとけばいいじゃんとか思ったが、今は感謝しかない。

 そして、私の拙い説明で、ちゃんとパーツを作ってくれた鍛冶屋さん、ありがとう!


「……こ、孔明殿?」

「これはいったい……」

「……説明はあとで」


 ……ん?

 なんか、向こうでざわついてるし、珍しく孔明様まで慌てているようだが、放っておこう。


「味付けや使用する肉など、本来のものとは違う点も多いのですが、今回はこの形でお出しします」


 火で温まり始めた、鉄盾のパーツに縁を付けてもらったもの……鍛冶屋さん特製、即席『鉄フライパン』にさっと油を引く。


「……では、『豚すき焼き』、始めさせていただきます」

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