22話 いざ、『戦場』へ!
――諸葛亮孔明。
三国の時代に活躍した英雄のひとり。
様々な策で主君を……もう面倒なので省略するが、いわゆる超天才。
「こら。化粧がずれるから、動いたらダメ」
――だが、私はときおり思う。
「今日の貴女は、場を彩る美しい華。食事会を盛り上げる策のひとつとして、しっかり綺麗にならないとね」
――あの人、実はただの馬鹿なのではないか、と。
「……あの、聞いていいですか?」
「言わなくていいわ。亮についてでしょう?」
「亮……あ、はい、そうです」
一瞬分からなかったが、そういや孔明様って、名前は『亮』なんだっけか。
この国には、親しい人しか呼んじゃいけない名があって、孔明様にとってはそれが『亮』なのだ。
妻(ペットのタヌキ位置)の私には無縁なので忘れていた。
それにしてもこの、孔明様曰く『お手伝い人』の超美人お姉さん。
なんという察しの良さだ。
まるで、馬鹿疑惑のどS軍師を思い出させる。
とりあえず、この色んな人呼んだ食事会やら、タヌキと呼ばれる私を着飾り『策のひとつ』にするとかいう、超絶愚策の理由とかも聞けそう……
「安心していいわ。私と亮は男女の関係とかじゃないから」
「あ、聞きたいのはそれじゃないです」
「だとしたら……ああ、もしかして元妻とか思ってる? ふふっ、そんなのじゃないから安心して」
「あ、それも違います」
「という事は……あら、もしかして私の事が好きになっちゃった? 私も貴女みたいな子大好きよ」
「あ、それも全然違いま……わぷっ」
私の答えを無視して、思いっきり抱きしめられる。
うん、前言撤回。この人は孔明様っぽいのではなく、孔明様みたいなノリで接してくるポンコツお姉さんだ。
というか、私が動くより、こうやって抱きしめられた方が化粧が落ちるのでは?
まあ、お姉さんも気づいたのか、すぐに離してまた化粧の続きを始めたが。
(……このポンコツお姉さんは放っておいて、一旦、状況を整理してみるか)
市場で単福さんと鈴の人たちと出会い、今日、食事会をすることを知る。
ここは、まあいいだろう。
どっちみち、均君のための料理を出すことにはなってたし。
ただ、人が一気に増えたので、追加食材が必要になった。
……よし、ここまでは得点マイナス1としよう。
次に、馬での遠出から戻ってきたと思ったら、乗せて来たこの綺麗なお姉さんを今日の手伝い人だと紹介してくる。
そして、食事会をすること、内容はこのお姉さんに伝えてあると言いたいことだけいって、すぐに『受け取りに行くものがある』からと、説明もせずにどっか行った。
庵にはもう鈴の人たちがいるのに、ご挨拶もせずに。
……うん、今度2、3発小突こう。ここで、得点マイナス10。
だが、このお姉さんはとてつもなく優秀だったのですごく助かった。
おもてなしとして、状況確認用に早期収穫したサツマイモと、麦茶の急な実戦投入となったが、こちらの指示を察してくれてすぐに動いてくれた。
おかげで時間に余裕ができて、調理器具の設置やら、別途注文していたパーツの組み立てもできた。
事の発端はあのどS軍師なのだが、こんなお姉さんと出会わせてくれてありがとうということで、得点プラス4。プラスに変動だ。
そして、参加する人も多いし、今回出す料理の性質上、カセットコンロもないこの時代なら外の方がいいと判断。
いわゆる、キャンプ飯な感じで食事会をすることになり、木とかで即席の会場設営をしていると、鈴の人たちも手伝ってくれた。
……私を男呼ばわりした、憎いあん畜生も。
なんかこっちをチラチラ見ていたので、私にムカついてはいるのかもしれないが、それはお互い様だ。
……思い出して不愉快になったので、孔明様ポイントに八つ当たりしよう。少し減点して得点プラス2。
辺りが暗くなったころに孔明様が戻ってきて、均君を連れて食事会参加の準備。
おお、均君がすんなりと食事会に参加した! さすが天才軍師!
あとはお任せして、台所でひっそりご飯でも食べようかと思っていたら……
『均にしっかり食事させる策のひとつとして、お前にも参加してもらう。せいぜい美しくしてもらって、参加者の気を引くように』
……そして、そのままお姉さんにずるずると引きずられ、現在に至る、と。
うん。得点、マイナス1000点。
ぶっちぎりの意味不明策による、史上最低評価です。
……景品として、毒でも盛ってやろうか、あのどS軍師。
いや、たぶん料理の説明とかはやらされるだろうと覚悟はしていた。
だが、客寄せパンダならぬ、客寄せタヌキになるのは聞いてない。
しかも、タヌキの私が興味を引くとか無理ですから、と反論しようとしたら……
『それと、お前と初めて会った時の服で参加してくれ。それだけで目立つからな』
と、言われた。
……ぐう。そりゃ目立つわな、としか言えない。
「ふふっ、完成」
銅鏡に映し出されてる私の姿。
学生服になんか高級そうな羽織みたいのとかが足され、動くの前提だからか薄めの化粧に、綺麗にまとめてもらった髪に簪がついた頭。
……うん、着飾ったタヌキ。
それ以上でも、それ以下でもない。
「可愛い……お人形みたい……♪」
うっとりしていただいて恐縮ですが、それ、タヌキ人形的に可愛い判定ですよね?
まあ、別にいいですけど。
『――改めまして、ご挨拶をさせていただきます』
遠くから聞こえてくる孔明様の声。
どうやら、孔明様が鈴の人たちとようやく合流したようだ。
「そろそろ、貴女も行った方がいいわね」
「え、一緒に来てくれないんですか?」
「私は裏方。出るとしたら、最後だと思う」
「そうですか……」
……やっぱり、何か孔明様の策があるようだ。
今からでも教えてくださいと言いたいが、もう腹をくくろう。
それに、孔明様は無茶苦茶やっているように見えるが、やるべき事をしっかりとやってくれる人だ。
ならば、私も均君を救うために頑張って協力する、それしかない。
……ちょっと、かなり、めちゃくちゃ緊張するが。
「……ごめんね。貴女に任せちゃって」
そんな緊張している私を見かねたのか、お姉さんがまたしても抱きしめてくれる。
でも、なんかさっきとは違う……私を温かく包み込んでくれるような優しいハグ。
もし私に姉がいたら、こんな感じなのだろうか。
「……また、化粧落ちちゃいますよ?」
「大丈夫。ちゃんと避けて抱きしめてますから」
抜かりなしとばかりに、胸を張るお姉さん。
……お姉さんの袖に、たぶん私の顔に塗られた化粧がちょっとだけ付いているので全然避けれてないのだが、ここは空気を読もう。
「それじゃあ、行ってきます」
お姉さんの笑顔に見送られ、私は『戦場』へと向かった。




