21話 誰が男だこの野郎
今更ですが、三国志ベースのオリジナル設定です。
諸々ご勘弁いただけると助かります。
「――ふう。なんとか準備できた」
市場にある、いつもの鍛冶屋さんから出て安堵の息をつく。
あのどS軍師に無茶振りされて、夜までに脚気料理用の食材やら専用調理器具を用意することになったが、なんとか間に合いそうだ。
まあ、『え、また鍛冶系の依頼じゃないんですか? ただでさえ、水道部品屋なんて言われているのに?』と言われてしまったが。
……なんか、ごめんなさい。
今回も、専用調理器具を、その場ですぐに作ってくれて感謝してます。
あと、前から頼んでいた特注パーツもありがとうございます。
庵に戻ったら早速組み立てて、今日使います。
……でも、『また狸仙人の無茶振りだ』って言うの、聞こえてましたよ。
人のことをタヌキ呼ばわりする人には、今後も徐印の木簡振り回して無茶振りするので、覚悟しやがってください。
「さて、水漬け大豆とかも手に入ったし、さっさと帰って準備しますか」
自転車の荷台に色々と乗せて、いざ乗り込むと……
――チリーン。
なんか遠くから、鈴の音が聞こえてくる。
うーん、風流だな~。
なんかの引き売りかな?
――チリンチリーン。
我が家にあった風鈴といい、鈴っていうのはなんでこんな良い音なんだろうか。
なんだか心が落ち着く……
――チリンチリンチリンチリーン!
……いや、落ち着かないよ!
多すぎ鳴りすぎうるさ過ぎ!!!
「一体誰が、こんな無粋なこと……を……」
「おやおやおや~! あの時のお嬢さんじゃないですか~♪ 元気しちゃってましたか~!」
なんか遠くに、鈴をつけた集団がいる。
派手めの服の荒くれ集団で、いわゆる『お近づきになりたくない人たち』だ。
しかもその中には、見たことがある人がいるような気がする。
……なんなら、声をかけられた気がする。
「うん。帰ろう」
……気のせいだ。
なんか、単だったり福だったりする、鍛冶屋と私をつないでくれた変人……いや、恩人に見えたが、見なかったことにしよう。
……だって!
絶対、なんか変なことに巻き込まれるもの!
今日はただでさえ、どS軍師に振り回されているのに、これ以上の面倒ごとは……
「……無視するなんて、酷いじゃないですかぁ♪」
「……ひぃぃいいい~~!?」
私の真後ろから、首だけ回り込むようにして横に顔を出す単福さん。
いや、本当にこの人なんなの!?
私たち、大分距離離れてましたよねぇ!?
「だから! ナチュラルに人の後ろに立たないで下さ……ひぃ!?」
「……なんだ、刺客じゃねえのか?」
絶対死角から近づくマンの単福さんから離れたと思ったら、後ろに現れた誰かに、腋から胸辺りに手を回される形で拘束される。
そして、そのまま正確に首筋に当てられた短刀……顔も見えない後ろにいる人は、ガチの容赦なく殺しに来るタイプの人だろう。
つまり、単福さんとのやりとりで警戒を解かれるのが遅れていたら、頸動脈バッサリやられていた、と。
……今日は厄日だ。
「あの、私は刺客じゃないですし、怪しいタヌキに見えるかもしれませんが、人畜無害の人間でして……その、離していただけると……」
「…………」
とりあえず、誤解を解きつつ、顔も見えない後ろの危ない人に話しかけると、なんでか返事がない。
というか、私の胸元をつかんでいる手が震えているような……
「あ、あの……?」
「う、うわあああぁあああああ~~!!」
なんか今度は、私じゃなくて後ろの人が驚いて飛びのく。
おお、ようやく顔が見られた。
年は20代? いや、30代後半?
なんか、若く見えるような、年とっているようにも見えるような……
「や、やわ……じゃなくて! お、おまえ……女か!?」
「え? えーと、はい。一応、性別的には雌というか女というか」
「……ちっ! 男のガキかと思ったぜ」
……ほうほう。
ほうほうほうほう。
つまりこの人は、私を『男』と思ったと。
……子どもは百歩譲って良しとする。
私は子どもの頃から小柄で、どちらかというと丸っとしており、日焼けしてからはまさにタヌキと言われてきた。
……タヌちゃん、タヌキ、タヌタヌ、この異世界に来てからは、タヌキの妖怪、シャオリズ(小狸)、タヌキの仙人。
……だが! 胸だけは大きいせいか、さすがに男とだけは言われたことなかったのに!!
「……よーく触って確かめろぉ!」
私を押さえつけている手を取る。
その手は驚きで脱力していたせいか、あっさりと動いてくれたので、そのまま後ろの人と向かいながら思いっきり胸を触らせる。
「な、なにすんだこのクソ女!」
「そうだよ! 私、女だよ!! 二度と男とか言えないように、その手で確かめろ!」
「は、はあ!? 意味わかんねーぞ、この変態女!」
男の人は私の手を払い、後ろに飛びのく。
やはり、私の力じゃ抑えられないか……なら!
「お、お前、何する気だ!?」
「脱ぐ! それ見て、二度と私を男なんて言うな!」
私は服に手をかける。
なんかすごいことしそうになってる気がするが、知ったことか!
私にだって、砂一粒ぐらいの、『女』としてのプライドってものがあるんだ!!
「ま、待て! 俺が悪かった! 勘弁してくれ!」
「じゃあ、認める!? 私が女だって!!」
「み、認める! 認めるから、服を脱ごうとするのはやめてくれ!!」
体中の鈴を鳴らしながら思いっきり頭を下げる男の人。
……ふっ、勝った!
守られたぞ、私のなけなしのプライド!
「なら許す! 次からは注意……を…………」
「…………」
「…………」
あ、あれ?
なんか市場の人が目を丸くしてる。
え、なんかやっちゃいましたか、私?
「あ、あの~、単福さ……」
助け舟をだしてもらおうと見ると、腹抱えて文字通り爆笑している。
なんだったら、例の鈴集団、全員が爆笑している。
「はっはっはっ、それぐらいにしてあげてくれ、小娘子」
鈴集団の中から現れる、人の良さそうなお爺さん。
他の人と同じように派手な服を着て鈴まで付けているが、明らかに『風格』が違う。
なんというか、知識人の好々爺に見えるから、鈴とか派手な格好がまったく似合ってないようにも見えるし、放っている雰囲気には合っているようにも感じる。
……なんか、日頃は優しいのに、狩りの時は鬼みたいになるうちのおじいちゃんにどこか似ている。
「まさか、錦帆賊の長に頭を下げさせるとは……さすが、仙人と呼ばれるだけのことはあるな」
今度はまた、丁寧で優しそうな中年ぐらいの人が出てくる。
柔らかい笑顔で人が良さそうで、派手な服装が全然似合っていない。
だけど、なんかこの人も他とは違う風格を感じる。
……こっちはどちらかというと、お父さんに似ているか。
「ん? わしの顔に何かついてるかな?」
「あ、いえ、おふたりとも、私の家族に似ていたもので」
「私が? ふふっ、もう娘がいるが、君のような娘なら大歓迎だよ」
「……タヌキを褒めても、何もでませんよ」
う、なんか調子狂うな……
家族に似てる人ってのは厄介だ。
「それよりそれより! 月英さんってば、もしかして私たちのお出迎えに……いや、その荷物からして、買い物帰りの偶然ですかね~?」
いつもの調子で話しかけてくる単福さん。
当然のように私の名前を知ってるのは無視する。
この自転車、タイガー号のせいで私は有名人のようだし。
当然のように行動を読んでくるのも無視する。
うちには、顔色だけで人の思考も行動も読んでくる天才軍師もいるし。
……だが、ひとつだけ聞き逃せないものがある。
「あの、お出迎えってなんですか?」
「おや、聞いてませんか?」
そう言いながら、単福さんは後ろに下がり、鈴軍団の中央でくるっと振り返りながら話す。
「僕たち、孔明君のお招きで、庵で開かれる食事会にいく途中なんですよ♪」
……水道の時のように、孔明様から一切聞かされていないとんでもない事を。




