13話 気になる均君
「――うん。ちゃんと成長してるな」
庵のそばにある諸葛家の畑……いや、孔明様が好きなカブ以外、殆ど私が使ってしまっているので、諸葛家と言っていいものか。
まあ、私も一応諸葛家に嫁入りしたので、気にしなくていいか?
「……それにしても、ここの畑だけ隆中とは思えんな」
今日は読書ではなく、一緒に畑仕事をしている孔明様。
一応、汚れてもいい着物であり、どちらかというと質素な感じなのだが、さすがイケメン。
なにを着ても似合ってしまう。
私なんて何着ても、胸のせいで胴回りが太いずんぐりむっくり……つまりは、タヌキにしか見えないので、羨ましい限りだ。
「そうですか? 普通に見えますけど」
「いや、明らかにここだけ別世界だ」
いや、普通の光景だろう。
ここで育てているのは、偶然この世界に持ち込めた野菜だ。
地元のスーパーにある、直営野菜の朝採れたてコーナーにあったもので、この世界に来る前におつかいで頼まれていた物だ。
それを、苗代わりにそのまま植えたり、種を取り出して栽培したりしている。
ちなみに現在の主力ラインナップは……
徐々に勢力を広げているトマトとカボチャやトウモロコシ。
地味ながらもしっかりと根付くオクラやピーマン。
一か八か、失敗してウイルスによる土壌汚染があったとしても大丈夫なように、離して植えているジャガイモ。
そして、とんでもない成長速度で生い茂る絶対王者のサツマイモ……これ、もう食べられるかもしれん。
どれもこれも、おそらく中国の三国時代……建安だったか。
その時代にはないもので……
「……別世界ですね、ここ」
「ああ。ちなみにお前のせいだ」
まあ、どれも育てといて損はないというか、とくにサツマイモとジャガイモ、トウモロコシは色々と役に立つしな。
「今更だが、お前の国はどこにあるんだ?」
「ここからずっと東にあるはずです」
「孫権が治める江東よりさらに東か……いつか行ってみたいな」
まあ、その江東を超え、さらには海を越え、そして時空を超えねばならないが。
「兄様、姉様。そろそろ夕食の時間ですよ」
「もうそんな時間か。均、今日は豚肉を分けてもらっていると伝えておいたと思うが……」
「ええ、ですから今日は一品減らして、白粥と野菜の煮物だけ用意しています」
「ふっ、隆中にきて、お前の好物である白米を分けてもらいやすくなって良かったな」
「えへへ、たしかにそうですね」
「昔は白米を食べられなかったのですか?」
「前にも話しただろう。白米は貴重だ。隆中は米農家が多いから分けてもらえているが、以前はそもそも米すら食べられなかった。父が亡くなり、ずっと戦乱に巻き込まれないように家族で逃げていたからな」
おお、リアルな諸葛家家族事情。
それにしても、戦乱からの逃亡生活とは、過酷な幼少期だったんだな。
平和な時代に生まれて良かった。
「ちなみに均。お前、豚肉は……」
「ご、ごめんなさい。やっぱりボク、肉とか魚は苦手で」
「……そうか。また、味付けの香辛料を変えたから、一口でいいから食べてくれ」
「はい、頑張ります……」
ああ、来た時に食べた魚に使われた、香辛料の味付けか。
正直なところ、この時代の料理は『素材の味』が多いので、あんまり美味しくない。
だが、孔明様の作るあの味付けは結構美味しい。
もちろん、『素材の味』寄りではあるのだが、香辛料のバランスが絶妙で、食べるほどにいろんな味が出てくるのに、味が喧嘩しないので楽しいというか。
……天才は料理も完璧というわけか。
「では、食べにいくとするか」
「あ、先に行っていてください。私、堆肥の方を見てきますので」
「堆肥……ああ、あの肥料か」
「うちにいる牛と牛の子ども、超さんが牛舎の増築が終わるまでの間、預かっているだけですからね。牛糞使い放題のうちに、実用化問題なしまで検証したいんです」
これが上手くいけば、肥溜めをもう少し減らせるかもしれない。
そこをきっかけに、下水関連にも本格的に着手を……
「……姉様、また新しい発明ですか?」
「発明……まあ、発明ですかね。私の知る限りでは、かなり優秀な肥料です。これが実用化して、他の施策も上手くいけば、米の収穫量が倍以上になるので、毎日、お粥じゃない白米が食べられますよ」
「……そうですか。月英姉様はすごいですね」
……あれ?
もっと喜ぶかと思っていたのだが。
というか、やはりあの水道……というより、公衆水場ができた辺りからちょっとおかしい。
気になって孔明様に聞いたのだが……『均は元々ああだ』しか言わないし。
「では、お待ちしてますね」
そう言いながら、均君は庵に戻っていく。
……以前に見た、怒りとも違うなんとも言えない表情になりながら。




