10話 水道
「……では、改めまして。こちらの『水道』について説明させていただきます」
二人の威圧感に負けじと、ポンと胸を叩いて前に出る。
三老の好々爺と、嗇夫のイケオジは、怪訝そうな顔をする。
……おい。少しでいいから、「本当にこの『タヌキ』に説明できるのか?」という態度を出さない努力をしてくれ。
「この水道は井戸のように水を出すものではありますが、使っているのは、川の水でも、井戸のような地下水ではありません。山で天然に湧いた水です」
「川や井戸があるというのに、わざわざ山の湧き水使っておるのか?」
「はい。山の湧き水はとても澄んでいて、微生物……いわゆる、病を引き起こす『毒の種』がありません」
「そうですか? 私も山で水が湧いているところを見たことはありますが、動物たちが飲みにくるせいか、排泄物などで濁っている部分がありました」
「ええ。ですが、それは澄んでいる湧いた水に『異物』が混入したからです。ならば、湧いた水を誰にも触れさせなけれればいい」
そう言いながら、おそらく孔明様がその場で説明するために用意していた、木簡と筆を手に取り、説明用の図を描く。
……ふたりも、さらには均君もそんな目で見ないでくれ。
私は絵が苦手なんだ。
「流れる湧き水をそのまま使うのではなく、まず水が湧いている場所から、石と粘土で固めた場所に溜めて溜め池とします。もちろん、網などを張って動物などの侵入を防いだ状態にして、です」
「なるほどなるほど。たしかにそれなら、水は澄んだままじゃな」
「また、毒の中には日光に弱いものもあります。溜めた池にはもちろん日光があたるので毒が消えやすくなり、しかも溜め池という形状から、砂泥やゴミを底に沈殿してくれる。この形式を、『集水沈殿池』といいます」
「……っ、そ、そんな方法があるのか」
嗇夫のイケオジが、また眼鏡をクイッと直す。
ふっ、どうだ。タヌキだって、やる時はやるのだ。
「なるほど。たしかにその理論ならば、水は極限まで綺麗になるじゃろうな」
……日光に弱い毒というのはアドリブだったが、通用してよかった。
いや実際、微生物対策にはかなり有効らしいけど。
「その水を使うというのは分かった。ではその水を、今後の作業でここまでひくのかな?」
「いえ、もうここまでひいてますよ」
「え、それにしては陶管が見えませんが?」
「使っているのはこれ、竹です」
そう言いながら、私は竹の配管を指さす。
「た、竹!? た、たしかに、中をくり抜けば管になる、か」
「ええ。専用の道具を鍛冶屋さんに作ってもらいました。時間もかからず、竹を管にできますよ」
「だ、だが、竹は自然物。太さも違えば曲がり具合も違う。これを管に使うのは……」
「ですので、管はすべて長さを統一。ろ過機……最初の管に付けて水をより綺麗にする用、水道の方向転換用、直進用などに分けて、それを繋ぐ形式で作っているんです。この、組み合わせによる制作に特化した部品技術を『規格統一』といいます」
「規格統一……」
「な、なるほどのう。これならば、壊れた箇所の部品を入れ替えるだけで修理ができるわい」
「今回はその点『少しの知識があれば誰にでも修理できる』ことを重視しています」
そう言いながら、地下を走る竹管の辺りを指さす。
そこには、一定間隔で小さな石組みの箱……いわゆるマンホールの役割がある点検桝を設置している。
「あの箱は、簡単に言うと管の中を見るための装置です。流れている水を見て問題を確認、問題があったら、その周辺の竹管……部品を取り換えるだけで修理できます」
「な、なんと……」
「ちなみに、他にも色んな対策をしています。つなぎ目はそうそう壊れないように、石灰と粘土と細かい砂と灰を混ぜた『簡易耐水セメント』……三合土と呼ばれるもので頑丈に。竹は一度火を入れて虫除け、竹管を埋める溝には灰などを撒いて……」
「せ、説明はもういい! 早く水が出るのを見せてくれ!」
おお、食いつきがいい!
ここで私が水を出すのもいいけど、やってもらった方がいいかな。
「では、三老様。『水道』を使って、水を出してもらっていいですか?」
「わ、わしが? というか、わしでもできるのか? このからくりの構造など、まったく分かっていないのだが……」
「ああ、簡単ですよ。木の取っ手を、回すように動かしてみてください」
「あ、ああ……」
そう言いながら、なんか真剣な目になる三老様。
いや、そんな真剣勝負みたいにならなくてもいいのに。
「で、ではゆくぞぉぉお~!!」
そう言いながら、思いっきり取っ手……ハンドルを回す三老様。
「あ、そんなに強く回したら……」
その瞬間、ジャアアアアッ! という音とともに、空に大きな水柱が立つ。
そして水柱により虹が描かれ……
「み、水が出てきたぁあああ~~~!!!!」
虹に彩られた澄み切った空に、お偉いさんたちの子どものような声が響き渡るのだった。




