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測れないもの

「――特例編入,ねぇ」

小さく呟いたのは,ダリアだった。


案内された先は,校舎の一角にある試験室。

既に何人かの教師が集まっている。

その視線が,一斉に浅葱へ向けられた。


「……この子が?」

「はい。例の」

ひそひそとした声。

隠す気もない観察の目。


嶺羅は,少しだけ浅葱の前に立つようにして言った。

「……あの,大丈夫なんですか?」

「本来ならあり得ませんが」

一人の教師が淡々と答える。

「“上からの指示”ですので」

その一言で,空気が少しだけ重くなった。


―――――――――――――


「では,これより編入適性試験を行います」

机に紙が配られる。

「第一試験,筆記」

浅葱は,問題用紙を見下ろした。


「……」


読める。

理解できる。

けれど。


「……書く」

手を動かす。

カリ,と音が鳴る。

そこからは,早かった。

迷いがない。

止まらない。


まるで最初から答えを知っているように,ペンが走る。


―――――――――――――


「……もう終わったのか?」

教師が思わず声を上げた。

「……うん」

浅葱は,それだけ言って用紙を差し出す。


周囲の受験者たちが,ざわついた。

「早すぎだろ……」

「見直しとかしないのかよ」


―――――――――――――


数分後。


「……全問正解,です」

採点していた教師の声が,僅かに揺れた。


「は?」

ダリアが顔を上げる。

「……ミスも,修正も無し」

完璧な解答。

一切の誤りが無い。


「……偶然ではありませんね」

別の教師が,静かに言った。

視線が,より強く浅葱へ向けられる。


―――――――――――――


「第二試験,身体能力測定」

場所を移動する。

広い空間。

計測器と障害物が並んでいる。


「合図で走ってください」

浅葱は,頷いた。

「……走る」

「よーい――」


合図の瞬間。

空気が揺れた。

「……え?」

誰かが,声を漏らす。

速い。

あまりにも。


一歩目から,既におかしい。

加速が違う。

音が遅れて聞こえる。


「ちょ,待っ――」

教師の制止は,意味をなさなかった。

ゴール。

「……終わり」

呼吸一つ乱れていない。


静寂。

計測器の数値だけが,異常な値を示していた。

「……上限,超えてます」

「は?」

ダリアが間の抜けた声を出す。


―――――――――――――


跳躍。

反応。

筋力。


すべてが,同じだった。

「……記録不能」

「測定範囲外」

「……なんだ,これ」

教師たちの声が,徐々に低くなる。


ざわめきは,もはや困惑を越えていた。

その中心で。

浅葱は,首を傾げる。

「……普通?」

「普通じゃないです」

嶺羅が即答した。


―――――――――――――


「……第三試験ですが」

教師が資料をめくる。

「魔法適性の測定になります」

一瞬の沈黙。

「……魔力,ゼロでしたね」

「はい」

嶺羅が頷く。


「……」

教師は,浅葱を見た。

そして。


「この試験は,免除とします」

「え?」

「測定不可能ですので」

淡々と告げる。


「ですが」

視線が,鋭くなる。

「既に,十分すぎる結果が出ています」


―――――――――――――


試験終了後。

「……なんか,すごいことになってません?」

嶺羅が小声で言う。

「なってるな」

ダリアが即答する。

「……やりすぎたか?」

「やりすぎです」


間違いない。

「……でも」

嶺羅は,少しだけ安心したように笑った。

「これで……」

その言葉は,途中で止まる。


「――結果について,お伝えします」

教師が現れた。

他とは違う,静かな圧を持った人物。

「今回の試験結果に基づき」

一拍。


「当該受験者の編入を,正式に許可します」

「……!」

嶺羅が顔を上げる。

「え,ほんとに……?」


「ただし」

教師は続ける。

「これは通常の合格ではありません」

空気が,張り詰める。


「特例中の特例です」

「……推薦状が届いていますので」

ダリアが眉をひそめる。

「誰からだ」

教師は,わずかに目を細めて。


「……お答えできません」

それだけ言った。


―――――――――――――


帰り道。

「……入学,決まりましたね」

嶺羅が,ほっとしたように言う。


「……うん」

浅葱が頷く。

「いや決まり方おかしいだろ」

ダリアが即ツッコミを入れる。


「推薦状ってなんだよ」

「……分からない」

浅葱は,そう答えた。


そして。

少しだけ空を見る。

「……でも」

一拍。


「……知ってる気がする」

その言葉に。

二人は,何も言えなかった。


――どこかで。

誰かが,すべてを知っている。

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