第6話 予想は的中するものだ
「兄さん、兄さん。起きてくれよぉ!! ……もう、なんで起きないんだよ!!」
ダリウス・リドマンは、侍女のジエラに用意してもらった綺麗な洋服に着替えて、兄のフェリシア・リドマンを揺さぶり起こそうとした。寝ていた場所はベッドの上ではなく、高級なソファの上だった。目の下に大きなクマを作って、横になっていた。揺さぶっても、起きようともしない。むしろ、かいているいびきが大きくなるだけだった。
「全然、起きないですね」
横でモーニングコーヒーを用意していたジエラは、冷たい目でフェリシアを見つめていた。ダリウスは、肩をすくめてコーヒーを飲み始めた。
「んー、いい香り。今日はどこの品種? だんだんコーヒーの銘柄覚えてきたよ。君のおかげだね」
「最初は、ブラックコーヒーが飲めないっとおっしゃった時はびっくりしましたけども、慣れてきたようで良かったです。今日はグアテマラですよ」
「ふーん、程よい酸味がちょうどいいよ。いい香りだし」
「左様でございますか」
「君のおかげだよ、本当に」
「……はぁ」
「おいおい、ダリウス! 口説くならもっと丁寧にしろよなぁ」
「え!? そうだったのですか」
侍女のジエラは、頬を赤らめた。急に目覚めたフェリシアは、腕をぐいっと伸ばして、ダリウスのそばを通りかかった。
「な!? 兄さん。急に起きて何を言ってるんだよ。口説く? そんな、ただ褒めただけじゃないか」
手をブンブン大きく動かして、冷や汗をかくダリウスはまんざらでもない様子でジエラのそばに近づいた。
「ふーん。あからさますぎるんだけどなぁ」
「しー! しー! 良いから、兄さんもコーヒー飲んで落ち着いて!!」
「俺はさっきから落ち着いてるし。落ち着いてないのはそっちだろぉ!」
フェリシアは、椅子に座り、テーブルの上に置かれたコーヒーカップの取ってに手を添えた。ダリウスは部屋の中をウロウロして、感情を抑えられなかった。上から下までモデルのような体型のジエラに目が離せない。その仕草を分かっていた兄のフェリシアだった。
「ここは邪魔者は消えますわ……」
フェリシアは、コーヒーを一気に飲み終えると、部屋を後にした。部屋が一瞬だけ時が止まったように動かない。
「あ~、えっと。ごめんね。コーヒーいつもありがとう。美味しいよ」
「……ありがとうございます。ダリウス様にそう言って頂けるなんて光栄ですわ」
「その、ダリウス様ってやめにしないか?」
「では、何と呼べばよろしいのでしょうか」
「2人でいる時くらいはダリウスって言っておくれよ」
「そ、それは……」
ダリウスは、ジエラを後ろから肩に触れ、ぎゅっと引き寄せた。侍女という立場から何も言えなくなるジエラはただ黙るしか無かった。頬にダリウスの指が触れた瞬間に、部屋の扉が豪快に開いた。
「おはよぉうございまぁーーす!! あ、あれれ。お取込み中だったかなぁ。ごめんごめんって……ダリウス! ちょっとウチの侍女に手を出さないでくれるかなぁ?!」
超絶ご機嫌のエリーサベト・モルベリがスキップして、中に入ってきた。これから何かが起きる瞬間の2人は一気に現実に引き戻された。
「ちょっ!? エリーサ。部屋の中に入る時くらい、ノックをしたらどうかなぁ!」
恥ずかしさが倍増したダリウスは顔を耳まで赤くして、大げさに扉に指をさした。
「ごめんごめん! でーもぉ! 今のはちょっと良くなかったよ。侍女のジエラは、シングルマザーでバツ2なんだよぉ。これ以上、バツが増えたら大変でしょう」
「既婚者!? しかも子供がいるの? それでこの体型にこの若さ。ありえない。全然、見えない!」
「エリーサ様! なんてことをおっしゃるのですか。全く、ダリウス様もびっくりされてますよ」
「えー、黙っておいた方が良かったの? またジエラが間違いを起こさないように守りたかったのにさぁ」
ジエラは冷や汗をかいて、そそくさを業務を終えると部屋から立ち去った。
「なんだよぉ。邪魔するんじゃないよ。俺は既婚者だろうが、子どもがいるとか関係ないから!」
「ダリウス、私の話を聞いてた? ジエラはシングルマザーだよ。結婚2回も失敗してるんだから。男運が無いって本人も嘆いていたんだよ。平和に過ごさせてあげてよ。子育ても大変なんだから」
「男運? それってどういう意味なのかな、エリーサ?」
「あ、間違っちゃった。てへぺろ! さーて、朝ごはん食べに行こうかなぁ」
エリーサベト・モルベリはごまかすように部屋からそそくさと立ち去った。父のオレリアン王の計らいで城内で一番の美人の侍女をフェリシアとダリウスの部屋に担当するようにと命じていた。エリーサベトはそれを聞いて、心配になっていたが、案の定、ダリウスが良くない方向に進めようとしているのを目撃した。侍女との恋愛はこれからの生活の上で問題がありすぎる。オレリアン王が結ばれても良いと感じていたのかは不明だが、エリーサベトはそれを望んではいなかった。
部屋に1人になったダリウスは、コーヒーカップに映る自分の姿をじっと見つめてから、そっと飲み干した。ため息をつくと、窓の外をじっと見つめ続けていた。




