第3話 気分転換に盛り上がる2人
天井から湯舟にぴたんと綺麗な音を出して、一滴が落ちた。綺麗な装飾を施されているお風呂は広く、肌がつるつるのぴかぴかに輝くくらいに強烈な効能の温泉だった。刺激が強いあまりに赤くなるくらいだったが、それさえも忘れるくらい気持ちよく入浴していた。
エリーサベト・モルベリは、パトリック・フェリデンとの生まれて初めての一緒の入浴に頬を赤くした。まさか、ここで一緒にお風呂に入れるとは思ってもいなかった。華奢な体にぷるんと大きな胸。エリーサベト・モルベリ自身も女だったが、憧れる存在の姿は比べ物にならないなと感心してしまう。自分は、胸は小さくて、ぷっくりと膨れたお腹。顔も人より大きいし、顎も出てる。女性としては劣勢なところばかりで嫌になってしまうほどだ。首をぶんぶん振って、気持ちを切り替えた。
「パトリック! この温泉は、肌にすごく良いのよ。明日になったら、体に保湿剤がいらないくらいになるから」
「へぇ、そうなの。いいわね。良い温泉だわ。実家のお風呂には無いものね。もちろん、リドマン家のお風呂にも無いわ」
パトリックは終始ご機嫌だ。お湯を肌に化粧水のようにぺたぺたと付けて、堪能している。さっきまで、嫌なことがあったとは思えないほどの笑顔だった。エリーサベト・モルベリは、ここに連れてきてよかったと安心した。
どこの家にもお風呂は存在する。侍女や使用人も使うお風呂は大きくなくてはいけない。ただ、違うところは源泉があるかどうか。たまたま、オスタワ王国は近くに大きな山が存在していたため、源泉は何か所も湧き出ていて、生活用水としても使うくらいだった。
「ねぇ、エリーサ。良いお風呂に入ってるじゃないのぅ。羨ましいわ」
湯舟に入りながら、両肩を後ろから掴み、横からエリーサベト・モルベリの顔を覗くパトリック・フェリデン。お互いに真っ裸の状態で至近距離。ここまで近づいたことがない。緊張のあまりに心臓が早く打ち鳴らした。
「き、気に入ってもらえて嬉しいわぁ」
「そう言えば、エリーサの体ってこんな風に見るの初めてだわ。ぷにぷにしてるぅ。触るのも初めてね」
パトリック・フェリデンは、エリーサベト・モルベリの左肩の下の腕の柔らかいところに触れてみた。こちょこちょをしている感覚だろう。遊び始めていた。
「ちょ、や、やめてよぉ~」
エリーサベト・モルベリは触れられて、まんざらでもない様子だ。ニヤニヤして頬は赤くなった。あまりにもくすぐったいと感じたエリーサベト・モルベリは悔しくて、冗談半分じゃれ合いも込めて、 パトリック・フェリデンの二の腕をふわりと触ってみた。あたたかくてぷにっと柔らかかった。
「あぁ~~! やったわねぇ! こらぁ。触ったらこうなるのよぉ」
二の腕を触られたパトリック・フェリデンは、お風呂のお湯をバシャバシャとエリーサベト・モルベリの顔を目掛けてかけはじめた。仕返しにエリーサベト・モルベリも同じような行動をする。お互いにバシャバシャと掛け合った。まるでこどものようにお風呂で遊んでいた。あまりにも楽しくて、笑いがとまらなかった。ずっとやり続けているうちに肌がくしゃくしゃになり、体が熱く、ふらふらの状態で倒れるくらいだった。
「エリーサ様!?」
様子を見に来た侍女のマーナが駆け付けた。さらに後ろから侍女のジュリもいた。エリーサベト・モルベリとパトリック・フェリデンは、笑顔のままお風呂の淵で倒れていた。顔は真っ赤だった。
「ふへへへ……楽しいんだもん。夢中になりすぎたぁ~」
「私も……ごめんなさい」
「全く、もう……」
裸で倒れた二人をタオルで包み、男性使用人を呼んで担架で運んでもらうようにした。際限なく遊んでしまうのは子どもの時よりも体力があるからなのか、誰も叱る人がいないからかは分からない。楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。
廊下を2つの担架で運んでいく。その様子を見かけたフェリシア・リドマンとやっと酔いのさめたダリウス・リドマンが見つめる。
「何事だ?! 2人が担架で運ばれるとは、どういうことだ。侍女たちは何もしなかったのか!」
血相を変えて怒りを見せるフェリシア・リドマン。ここは他国だというのに王様になったような言い分だった。
「いえ、監視はしておりましたが、お2人が2人きりにしてちょうだいとおっしゃられましたので……申し訳ございません」
「フェリシア、いいのよ。放っておいてちょうだい。貴方に侍女たちに指示する権限はないわ」
「そうよ。大丈夫、私たちが悪いの。気にしないで。マーナ、大丈夫。貴女は悪くないわ」
ふらふらになりながら、担架の上で答える2人に複雑な表情するフェリシア・リドマンだった。横にいたマーナは身体を震わせながら静かに頭を下げた。
「せっかく2人の時間を邪魔しちゃいけないよ、兄さん。な、俺らは俺らの時間作ろうぜ、ひっく……」
本当に酔いが覚めたのかどうか謎だったが、よきタイミングの声掛けだと思ったエリーサベト・モルベリだ。
「たまにはいい事言うじゃない。ダリウス! 見直したわ」
「へ? ……ああ。もう俺は2人の召使だからさ。何なりとお申し付けくださいませぇ」
ダリウス・リドマンは、にやりと笑って、フェリシア・リドマンの肩をぐいっと腕で引き寄せて立ち去っていく。何とも言えない表情させて言われるがままに着いていくフェリシア・リドマンだった。




