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悪役令嬢は有能侯爵夫人と結ばれたいー理解されないと思ったら、あっさり受け入れられましたー  作者: 餅月 響子
第四章

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第5話 幸福とは一体何なのかと未来が不安になる

 赤い三角屋根のオスタワ王国で、風で葉が揺れる広葉樹の上に一羽の鳩が空に向かって鳴いていた。雄が縄張り主張と求愛行動している鳴き方だ。周辺にはどの雌も寄ってこないが、同じような雄の鳩がじっと見つめて、黙って見ていた。

 風が強く吹くと二羽の鳩は地面に餌が無いかと石畳にある花壇のそばまで飛び立った。

 

 長く続く螺旋階段を慌ただしく降りるのは、オスタワ王国のエリーサベト・モルベリだ。頬を涙で濡らして、駆け下りる。バタンと大きな扉が閉まった。


「お静かに……。ここは神聖なる場所ですよ」


 修道院に繋がる地下室は、懺悔室。シスターが待ち構えていた。


「シスター。私の心のシスター。救いの手を差し伸べてはくれませんか」

「はい、もちろんです。神は貴女を救いますよ、きっと。《《常識の範囲内》》で」


 目をキラリと光らせて、両手を組み、見つめるシスターがいた。エリーサベト・モルベリは、彼女の言葉をすり抜けて、次々とたまりにたまった思いを吐き出した。


「聞いてください、シスター。私は、愛しき人と共に過ごすことができました! すごく幸せです……すごくすごく幸せなんです」

「そうなんですか。それは良い事ですね。神は見ているのです。貴女のことを。今までの報いですね。それならば、相談することはないですね。では、この辺で」


 面倒なことには関わりたくないシスターは鉄格子の扉を閉めようとした。


「ちょっと、待ってください。最後まで話を聞いて下さい。私は、このままではいけないと思っているのです。幸せっていつまでも続かないものでしょう? 持続させるには、何か手立てを考えなくては」

「幸せ……まぁ、そうですね。人生とは苦楽があるものですからねぇ」

「そう、苦楽……分かってはいるんです。さらに幸せを手に入れるには苦しいことがあるって。でもそれが、国を巻き込むことだったとしても私は幸せを手に入れたいと思うのです。シスター、私は間違っておりますか?」


 ぎゅっと汗握るほど両手を合わせて願った。シスターはその言葉に何も言えなくなった。この人はきっとダメと言っても、言うことをきかない人だと一体どうしろと言うんだとシスターの汗が手からではなく、額から流れ落ちてくる。


「……何も言っていただけないのですね、シスター。私は、何も行動しない方がいい。現状維持でただ時間が過ぎるのを待つだけ。牢獄に入ったように廃人になればいい。そうおっしゃるのですね!」

「な?! そ、そこまで言ってませんわ! 貴女の耳はどこについてらっしゃるの!?」

「んじゃ、返答をしてちょうだい。私の最善は一体どうすればいいの?」

「――さぁ、迷える子羊よ。あの窓を見上げなさい!」


 シスターは目を閉じた。ぎゅっと両手を握る。鉄格子から見える夜空には満月が輝いていた。エリーサベト・モルベリは、呆れた様子でしぶしぶ目を閉じて祈る。


「貴女の行くべき道は、この城を守りぬくこと。そう、ただそれだけです。私から言えることは以上です」


 そう言い終えると、バタンと勢いよく扉を閉めた。呼吸を整えるのに必死だ。このまま話を聞いて変なこと言ったら、オスタワ王国の修道院として成り立たなくなる可能性も出てくる。終わりが見えることを想像するより現状維持を選ぶシスターだった。


「シスター!!!!!」


 エリーサベト・モルベリは納得がいかない相談返答に怒りを交えて扉を叩く。石でできたその扉はもちろん届く訳もなく、ただただ手が痛いだけだった。


「そんなぁ……もっと相談したかったのに、私は結局、牢獄のように生きろということなの。酷いわ。神様なんて、悪魔よ、平和を守ると見せかけて死神よ!! 嫌だ。もう、シスターに相談した私が間違いだったわ!!」


 長く続く螺旋階段をぷんぷん怒りの言葉をぶつけながら、上った。頂上に着いた頃、キュリアクス・ゲウサが腕組みを待ち構えていた。


「そんなにイライラしながら歩きますと、額にシワが増えますよ」

「……ふん、うるさいわねぇ。キュリアクス、私が老けているって言いたいの!?」

「おっと、八つ当たりは困りますねぇ。シスターへの相談はすっきりしなかったのですか?」

「門前払いみたいなもんよ。真剣に話を聞いてくれないから。私ってそんなに変なこと言っていたかしら、ねぇ、どう思う?」

「うーん、私はシスターではありませんからね」

「そんなの分かってるわよ、ムキ―! 私が聞いたのが馬鹿だったわ」

「まぁまぁ、午後のお菓子はバウムクーヘンらしいですよ」

「嘘ぉ。楽しみだわ」


 急に笑顔を見せるエリーサベト・モルベリに、キュリアクス・ゲウサは、さっきの悩みは何だったのやらとため息をつく。


(そんな大した悩みでもなかったんだろうか。お菓子でご機嫌なら、良いのだろう。やれやれ)

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