第4話 心の準備がまだ整ってないうちに
青い屋根が目立つギノノ王国のお城は、白鳥が近くの泉にたくさん飛来することで有名な観光地になっていた。昼夜ともに気温があまり上がりにくいこともあり、白鳥も好んでいたんだろうと専門家たちは話していた。
お城の王座の間に立てかけられていた何十メートルもある大きな周辺の地図彫刻に触れて、場所を把握していたのは、ナマスール・フェリデンだった。ハンナ・リドマンにアプローチをされて、婚約の話を進めていきましょうという流れになっているのは分かっていたが、国同士の問題で結婚をしてしまれば、土地の範囲はどうなるんだろうとモヤモヤと変な考えをしていた。
「何をしておる。そんなところで……ダーツはしないのか」
「父上様……」
いつもなら、午後の合間にダーツを楽しんでいるナマスール・フェリデンだったが、今日はずっと王座の間に滞在していると側近から報告があり、父のロバーツ・フェリデン王は、心配して駆け付けた。
「この国はどうなってしまうのですか。僕がハンナお嬢様と婚約を正式決定してしまったら、範囲が広くなるのか土地を明け渡さないといけないのか。色々考えてしまって……」
「そのことで悩んでいたのか。確かに国同士の問題でもあるから慎重に行かないといけない。パトリックの場合は、嫁ぎ先で我が国から希少価値の高い先祖代々の家宝でラピスラズリの宝石を差し出したが、婚約破棄となれば、返却になることもあるんだろう。土地は、多少頂いていたが、それも返すことになるだろう。結婚というものはお金では解決できないものが山ほどあるからなぁ。お金で済む方が簡単だろう……そうもいかないのがこの世の中というものだ。ナマスール……今回、お前は姉のパトリックとは逆の立場だ。お嬢様に来ていただくのだ。それは、大事なものを差し出さないと申し分がないだろう。さて、土地でいいのだろうか。それとも……権力」
「ま、まさか。父上様。この国に来ていただくとしても権力を差し出すとは、そこまでの結婚になるのでしたら、僕は断る思いです」
「ハハハ……本気にするな。早くも隠居にさせる気か。よく考えろ。あっちはパトリックのことで大変な思いをしてるんだ。それ相当のものを用意しなければならぬのだ……さて、どうするか」
腕を組んでじっと考えるが、アイデアが浮かばない。ナマスールの額からはたくさんの汗が噴き出す。ロバーツ・フェリデン王は、目をつぶり、顎に手をあてて天井を見上げる。天使の絵が描かれた天井が美しすぎるのを思い出す。
「今まで、気づかなかったなぁ。こんなに綺麗な装飾だったとは……何十年とこの城に住んでいても分からぬこともあるのだなぁ……よし、ナマスール! これは先方に何が良いか聞いておいてはくれぬか。私が考えるのでは埒が明かないぞ」
「え?! 父上様、今、何とおっしゃいましたか? まだ婚約そのものが決まった訳では無いのに、何をおっしゃると言うのですか!?」
その場を右往左往するナマスール。頭の中はパニック状態で、体がブルブル震える。通常の精神状態ではいられなかった。
「何を言うか。私が考えることは間違いはない! 大丈夫だ。お前は姉のパトリックと違って頭が良い。まぁ、姉弟と比べてはいけないとは言うが、こればっかりはそれぞれ人生が違うとも言うからなぁ。何とかなるだろう……ハハハ!!」
ロバーツ・フェリデン王は、笑いながらナマスール・フェリデンの肩をバシバシと叩くと自室へと向かって行った。ナマスール・フェリデンは、ロバーツ・フェリデンが立ち去った後、上半身をぐったりとうなだれていた。
「父上は、無理なことをおっしゃる……心臓がいくつあっても足りないわ……はぁ」
「―――ナマスール様、お時間です! 今日はハンナ・リドマン様がいらっしゃいますので、ご準備をしておかなければなりません。参りましょう!」
「へ?! 今日?! そんな、まさか。すぐに話さないといけないではないか!」
「な、何のことか存じ上げませんが、着替えに参りましょう。さぁさぁ、急いでください」
「……むむむ、僕はどうしたら~~……ああ……」
執事に背中をおされながら、顔は天井を向けていた。ナマスール・フェリデンには悩む時間など、もうなかった。
お城の外ではたくさんの鳩が石畳の通路から屋根の上に飛び立つのが見えた。良いことが起きる予感であってほしいと願うばかりだ。




