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悪役令嬢は有能侯爵夫人と結ばれたいー理解されないと思ったら、あっさり受け入れられましたー  作者: 餅月 響子
第四章

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第3話 空気が重くなる瞬間

 赤く三角屋根が目立つバテドロン国のお城には沢山の白い鳩が羽根を休めていた。太陽がさんさんと輝いている朝、グレート・ホールではナイフとフォークがカチャカチャと鳴り響いていた。

 パトリックを連れ戻そうと計画していたフェリシア・リドマンとダリウス・リドマンは、憔悴し切った顔で帰還した。パトリックを連れ戻すどころか、気力を失って帰ってきていた。

 フェリシア・リドマンは、小麦の丸い白パンにかぶりついて、フォークを置いた。今朝の食事には抵抗を感じていた。食欲も消え失せている。ダリウスはパンも口にすることがせず、焦点が合っていない。


「朝から、なんて顔をしているのかしら。二人とも、食事が台無しになるわ。笑顔で、そう、私みたいな笑顔で食事を召し上がるのよ?」


二人の母である王妃のヴァランティーヌ・リドマンは、口角をぐいっと上げて、笑顔を見せつけた。心中を察していたバテドロン国王のヴィダル・リドマンは、彼女の姿に呆れて、ため息を漏らす。そっと、二人のそばに駆け寄った。


「疲れているんだろう。今日は、自室で休んでいなさい。今日の公務はしなくていい」

 

 それぞれの肩にそっと手を置いて、食事は無理にしなくてもよいと声をかけた。使用人の者たちがヴィダル・リドマンの合図でそっと二人を誘導するように動いた。安心して、部屋に移動する。ヴァランティーヌ・リドマンは面白くない顔をして、兎肉をナイフでサクサク削ぐと、フォークで突き刺した。


「何なのよ。まるで、私が悪者ね! 全く、貴方の声掛けが足りないから、婚約破棄にもなるのよ。本当に、有能な夫人だったのに、無能な王子のせいね! 悔しいわ! ……あら、このお肉、美味しいじゃない」

「――おい! さっきから聞いていれば、自分の息子に対して言いすぎじゃないのか。血の繋がりが無いと言えども、今は君の息子なんだぞ」

「……ふん。腹違いの息子に優しくできるものですか! ダリウスの方が可愛いもの。もちろん、ハンナもねぇ。あの子ったら、ナマスール・フェリデン様が良いっていうんだから、有望よねぇ」


 ヴァランティーヌ・リドマンは、ラムズウールをグビッと飲み干すと、空気が良くないことに気づいて、そそくさとグレート・ホールを後にした。ヴィダル・リドマンは、苦虫をつぶすように深くため息をついた。


「ヴィダル様、お休みになられてはいかがですか。最近、お忙しいですし……」

「確かにそうだなぁ。今日のスケジュールはキャンセルしても問題ないのか?」

「どうにか調整をかけておきます。今は、お体を大事になされては……」


 側近のスティール・セバスチャンがヴィダル・リドマン王を気遣った。いろんな出来事がありすぎて対応に疲れていたのは、王であるヴィダルの方だったかもしれない。


 静かになったグレート・ホール に遅れてやってきたのは、ハンナ・リドマンだった。くるくるのパーマをかけたような寝ぐせをつけて、席に座る。


「あれー、皆はどこに行ったの? 朝食は召し上がったのかしら。あ、今日はパン・デピスがあるじゃない。いただきます」

「ハンナお嬢様。今日は、皆様、ご心労が重なったと思われます。それぞれ自室で休まれておりますよ。ハンナお嬢様もどうか無理せずに公務はお休みということですので……」

「えーー、そんなぁ。今日の公務は、ギノノ王国にナマスール・フェリデン様のご挨拶に伺う予定だったんじゃないのぉ~。ひどいわ。私の婚約が進むかもしれないって時に……兄様のせいね。本当になんてことをしてくれたんだか……」

「いえ、そういうわけではありません。きちんと予定は立てておりますよ。ギノノ王国訪問の日は今日ではございませんよ、ちょっと待ってください。七日間の中にはどこにもありませんが……一体どこに?」


 スティール・セバスチャンは、モノクルを整えて、クルクルと丸めた紙の予定表を確認するが、どこにもそんなことが書かれていない。


「そんなの、こうやって書いてしまえば、いいのよぉ!!」


 ハンナ・リドマンは、スティール・セバスチャンが持っていたガチョウの羽根で作られたペンを奪いとり、ササッと自分の都合の良いように書き直した。


「な?! ハンナお嬢様。なんてことをなさるのですか?!」

「そんなの誰かが書いてしまえば、自由に変更できるわよ! 今日がダメなら、明日ね。楽しみだわぁ」


 ハンナ・リドマンは鼻歌を歌いながら、パンをひとつだけかぶりつくと、ご機嫌に自室へと帰って行った。


「この予定はヴィダル・リドマン王様と丁寧に話し合って作られたものですよ。そんな簡単に書き換えるなんて!! やってることが無茶苦茶です!!」


 頭のアホ毛があちこちから出るくらいにクラクラになるスティール・セバスチャンだった。横にいた使用人のジャックに肩をポンポンと優しく撫でられるが、涙は止まらなかった。もう、ハンナの姿はここの空間にはいない。

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