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悪役令嬢は有能侯爵夫人と結ばれたいー理解されないと思ったら、あっさり受け入れられましたー  作者: 餅月 響子
第三章

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第10話 やっと見つけた本当の想い

 オスタワ王国のエリーサベト・モルベリは、フェリシア・リドマン侯爵の弟ダリウス・リドマン伯爵をお城から脱出させようと試みたが、かくれんぼが得意なガードマンのキュリアクス・ゲウサに見つかってしまい、牢屋に連れていかれてしまう。まさかの出来事に父であるオレリアン・モルベリにこっぴどく怒られるだろうと心中穏やかでは無かった。


 婚約者であるフェリシア・リドマンから逃げ出したパトリック・フェリデンは、姿を隠してオスタワ王国に身を潜めていたが、エリーサベトを探していたオレリアン・モルベリ王に見つかってしまい、かくまってもらうよう願ったが、戦争になることを恐れて断られてしまう。パトリックは、大量の涙を流し、その場から逃げ出したが、オレリアン王は追いかけようとはしなかった。エリーサベトに話を聞いてどうするかを決めようとしたが、部屋はもぬけの殻だった。


 長い廊下の上に敷かれた赤いじゅうたんを走ったパトリックは、もつれて転んでしまった。ただ歩くだけがこんなにも辛いものだなんて思ってもみない。


「……なんて、神様はいじわるなのでしょう……。膝をすりむいてしまったわ」


 顔を見上げた先は、ステンドグラスに描かれたキリストと天使たちだった。キラキラとろうそくの火で輝く絵にうっとりと見惚れてしまう。あの天使になれたら、さぞかし幸せなのだろうか。胸が締め付けられるように痛かった。


 こんな人生になるのなら、いっそのことここじゃないどこかへ行きたいと切に願う。飾られた鎧に装備されたポールアームに手をかけて、自分の首にぐっと近づけようとした。月明りが床に差し込むと、大量のお酒を飲んで正気では無いフェリシア・リドマンがふらふらと身体を振ら付けさせながら、廊下を歩いていた。キラリと光るポールアームが眩しかった。目をこすり、よく見ると、パトリックが鋭利なポールアームを白く綺麗な肌に差し込もうとしていた。深酔いもすっかり覚めて、勢いをつけて駆け付けた。


「な、何をしている!??!?」


 フェリシア・リドマンは血相を変えて、パトリックの身体を抱えて、ポールアームを遠くに投げつけた。上半身を両腕で抱える。


「フェ、フェリシア?」


 ここにいるのは何故だろうと夢のような感覚でパトリックは、ぼんやりと見つめた。ハッと走馬灯のように過去の悪しき彼の行動を思い出すとたまらず、逃げ出したくなった。


「い、今頃、どうしたって言うの?! 私は貴方から逃げてここまで来たというのに、追いかけてくるなんて、どんな立場か承知ですか!?」


 目を大きく見開いて、正気になる。さっきまでこの世に存在することが辛いと嘆いていたパトリックの勢力が上がった。怒りが勝っていた。


「承知も何も……私はパトリックのことを愛しているのだ。婚約者であるが故に正しい行いをしている。それが分からぬか!?」

「愛……している……ですって……私は貴方の愛なんて受け取れないわ!!」


 パトリックは感情的になり、涙を流す。手が小刻みに震えるのが分かった。ノイズが走り、画面が揺らいだ。乙女ゲームのシリアスモードなど存在しない。正規ルートから完全に離れている。ダリウスが捕まってしまったことにがっかりしたエリーサベトがパトリックとフェリシアの元に現れた。後ろにはキュリアクスも一緒だった。


「あ、あれ……二人とも。ここにいたのね。だ、大丈夫なの? パトリック。やっと見つけたって喜んでいる場合じゃないわね」


 エリーサベトはパトリックに会えて、嬉しい気持ちになったが、隣には怒りをあらわにしたフェリシアの姿があった。


「……エリーサ、君か。パトリックを誘惑したのは……」


 うまくいかない現状に標的はエリーサベトに変わった。


「誘惑だなんて、私は何もしてないわ。パトリックが私といると楽しいって言ってくれただけよ。悪者扱いするなんて、ひどい人ね」

「このぉー、悪役令嬢め!!!」


 人の話をこれっぽっちも聞いていないフェリシアは持っていた短剣をエリーサベトに向けた。間一髪、そばで見ていたキュリアクスが長いハルバード を向けて、エリーサベトの前に立ち憚った。


「ここで闘いとは……戦争を起こす気ですか?」


 キュリアクスはしかめた顔でじっと見つめる。金属の重なり合う音が響いた。


(悪役令嬢って……私のどこが悪役なの? むしろ、フェリシアの方が悪役侯爵よ) 


 頭の中でモヤモヤと考えながら、エリーサベトはささっとキュリアクスの後ろに隠れていた。


「やめて! エリーサは関係ないじゃない。私が好きでここに来たのよ。エリーサを責めるなんて、おかしいわ。責めるなら私を責めなさいよ!」

「な、な、な!? 何を! 私はどんな思いでパトリック、君を婚約者として決めたのか知らないのか!」

「は?! どんな思い? そんなの知らないわ。自分の事しか考えられない貴方とは一生を共にできない。男の人を信頼するなんて、性別が違うから、なおさらよ!」


 パトリックは堂々と胸を張って大きな声で発言した。フェリシアは、エリーサベトを傷つける酷い人間だったとは心底信用を失ってしまう。パトリックはヒールをカツカツと鳴らして、エリーサベトの横に立った。


「私はエリーサベトと一緒に過ごすわ。安心するもの。一緒にいて、居心地の良い人と一緒にいるのが人生楽しめるってものよ。ね、エリーサ」


ぐっと左腕をつかみ、体を寄せ付けたパトリックにまさか、こんなに密着するとは思いもしないエリーサベトは頬を赤くして喜んだ。


「もう、パトリック。そんなに私といたいのぉー。嬉しすぎるんですけどぉ~!!」


 恥ずかしくなってバシバシと片腕を叩くエリーサベトにパトリックは疑問符を浮かべる。そのべったりとした様子にフェリシアは、口をあんぐりと開けて、青白い顔をして見せた。


「ま、まさか。君は、男じゃなくて女が好きだというのか……」

「だから、何? 女も男も関係ないわ。好きになった人に性別なんて、どうでもいいんだから!!」


 その言葉を聞いて、フェリシアはがっくりと肩を落とした。青白い顔がどんどん骸骨のように見えてくる。同じ男性として同情してしまうキュリアクスの姿があった。


「ねぇねぇ、パトリック。私の部屋でボードゲームしましょう。面白いものがあるのよ」


 空気を変えるエリーサベト。さっきまでフェリシアとパトリックが喧嘩していたとは思えない。二人はべったりとくっついて、仲良く部屋に向かった。顔の周りには花が咲くほど嬉しいそうだ。恋愛のライバルが昔からよく知る幼馴染になるとは想像もできない。数分前まで、戦争になるかもしれないほどの怒りに満ちていたフェリシアは、ぽかんと心に穴が開いたように放心状態だった。もやしのよりも細くなってしまったかもしれないフェリシアはふらふらとしながら、オレリアン王の元へと向かった。


「フェリシア様……」


 両手を合わせて、涙を流すキュリアクス。フェリシアに可哀相だと感情移入してしまったようだった。

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