5ー5話 ガイアの咆哮
俺はブライXマキナを急降下させ、地上の防衛線を守るために小型機の群れを切り払っていた。アストラルハルバードが光を薙ぎ、ビットがレーザーを放つ。火花が散り、残骸が落ちる。だが、数が多すぎる。円盤は静かに高度を下げ続け、影が大陸を飲み込み始めていた。通信が乱れる。
「鋼! 東の方角だ! オゾウクの旧領地に、奴らの主力部隊が降下した!」
ショウの声が、いつになく緊張を孕んでいる。オゾウク。勇者のいた魔王城のバリアを破壊しようとして死んだ。俺がこの星に来て間もない頃、王国を統治していた、まさに王様だった。
「……あの国まで、狙われたのか」
俺は歯を食いしばり、機体を東へ旋回させた。ブースターが咆哮を上げる。視界の向こうに、かつての王国の地平線が広がる。そこには、すでに無数の異形が降り立っていた。街の残骸を踏みつけ、防衛施設を焼き払う光景が、モニターに映る。そして、その中心に――一機だけ、異質な機体が浮かんでいた。他の小型機とは明らかに違う。巨大で、重厚で、まるで大地そのものを削り出したかのような装甲。青白い光が機体の各所から脈打っている。周囲の異形たちが、その機体を中心に整然と配置されている。通信が、突然、全員のヘッドセットに割り込んだ。
「わが機体はガイア! さぁ……かかってこい」
低い、だが力強い声。この星の言葉――俺たちが日常で話す、あの日本語と同じ響きだ。書く文字は違うのに、声だけは完全に理解できる。リヒターも、ショウも、グラスも、一瞬、言葉を失った。
「……なんだ、今の」
リヒターが呻く。
「言語が……完全に通じている。翻訳機も何も使っていないのに」
俺はハンドルを握りしめた。ガイアと名乗った機体が、ゆっくりと向きを変える。青白い光が、こちらを捉えた。ガイアの中から、別の声が聞こえた。独り言のように、だが通信に乗っている。
「ん? なんだあの青白いのは!」
俺のブライXマキナを指しているらしい。冬子の残滓が、今も青白く脈打っている。俺はブースターを全開にした。
「オゾウクの国をよくもやりやがったな!」
叫びは、通信を通じてガイアに届いたはずだ。相手は一瞬、動きを止めた。青白い光が、より強く輝く。
「……面白い。その機体、ただ者ではないな」
ガイアが加速する。音速を超える速度で、一直線にこちらへ向かってくる。周囲の小型機が道を開け、まるで主君を送り出すように左右に分かれた。俺はアストラルハルバードを構え直した。
「来るなら来い。お前が何者だろうと、俺の知る限りじゃねぇ」
衝突の瞬間、空が割れた。ガイアの拳が、ブライXマキナのハルバードに叩きつけられる。衝撃がコクピットを揺らし、俺の視界が一瞬、真っ白になった。装甲が軋む。青白い光と、アストラルフォトンがぶつかり合い、空間が歪む。
「強い……!」
俺は歯を食いしばり、機体を押し返した。ガイアは一歩も引かない。むしろ、さらに出力を上げてくる。大地を削るような重圧が、ブライの関節に伝わる。
「あれはただの機体じゃない! エネルギー反応が、円盤本体に匹敵するっす!」
グリーンの悲鳴が聞こえる。俺は知っている。この感触は、ただの侵略兵器ではない。戦い慣れた、明確な意志を持った敵だ。オゾウクの国を焼き、市民を殺し、今、俺の前に立っている。
「オゾウクは……俺の知る限り、必死に国を守ろうとしていた」
俺は呟いた。通信は開いたままだ。ガイアにも聞こえているはずだ。
「その国を、よくも……」
ガイアが、静かに答える。
「守りたかったものがあるなら、もっと強くあれ。弱ければ、踏み潰されるだけだ」
言葉は、この星の言葉だ。完全に理解できる。だからこそ、余計に腹が立つ。俺はアストラルフォトンを最大まで引き上げた。ブライXマキナが青白い光に包まれる。冬子の残滓が、機体全体で脈打つ。
「オゾウクは!お前に言われるほど、弱か無い!」
拳を構える。
「ミカンを守り、この星を守り、オゾウクの国の仇を取る。お前がガイアだろうと、何だろうと、関係ねぇ!!!」
ガイアが、ゆっくりと構えを取った。
「いい目だ。では、試してみよう」
二人の機体が、再び加速する。空に、二つの咆哮が重なった。青白い光と、大地を削る重圧が、激突する。オゾウクの旧領地の空は、今、本当の戦場になった。




