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唄うは愛の魔法  作者: 三化月
9/14

引き抜かれる恐怖で

 何処からか聞いたのか分からないが、父親から電話が掛かってきた。その声を聞くだけで自然と背筋は伸び、唾液を飲み込んで拳を握る。


 「魔術が使えるようになったのか」


 僕に聞いているようにみえて、その実、何処か確信しているような口ぶり。嘘をつくわけにもいかず、僕は渋々「はい」とだけ聞こえた。


 両者の間に沈黙の幕が降りる。この後父さんはどう聞いてくる?それだけが頭の中をグルグルと巡り、思考が通った後はナメクジが這ったように曇っていく。

 幕が降りていたのは短かったのか、それとも長かったのか。それすら分からないほどに緊張していた僕に父さんの声が届く。


 「学校を辞めろ。魔術が使えるのならば然るべき場所に通わせる」


 そんな・・・。それから何回か抵抗をしてみたけど、電話を切られてしまってはどうしようもない。体を震わせながら、感情の赴くままに携帯を壁に投げつけた。

 鈍い音を立てて壁には穴が空いた。それとは対照的に軽い音を立ててフローリングへと落ちた携帯はブラックアウトし、もう起動するようには見えない。


 これからどうする?心の中に浮かぶ疑問。父さんの言葉に従って学校を辞めるのか?どうして魔術が使えたかもわからないのに魔術師学校へと行くのか?

 父さんのネームバリューは無駄に大きい。その分僕に掛かる期待も大きくなるだろう。

 またあんな目で見られたいのか?自分の名前を思い出せ。『魔なき魔術師』、それが僕の名前だろうに。

 だけど僕は魔術が使えるようになった。じゃあ僕は何になると言うのか。ただの魔術師?いいや。父の影響がある以上、ただの魔術師では許してくれやしない。せめて上の中ぐらいには位置しているのが最低ライン。それ以外は認めてくれやしないだろう。それはもはや父の傀儡(くぐつ)でしかない。


 僕は一体、ナニになるんだ?


 僕は空気で、魔なき魔術師で、要らない子で、粗悪品で、1人蹲(うずく)まってる子供だ。

 魔術が使えたから学校を辞めて、家に帰って、魔術師の勉強をして、父の元で過ごすの?

 もう何がなにやら分からない。逃げたい。何もかも放り出して逃げ出してしまいたい。


 1人で居る部屋が急に怖くなって、僕は家から飛び出した。向かう先に宛はなかったけれど、どうしてか、気付けば彼女の家の喫茶店にやって来ていた。

 こんなに苦しいモノなら魔術なんて必要ない。逃げてしまおう。僕の事を誰も知らない所に。


 これが最後の晩餐、もとい、最後のコーヒーだ。

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