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唄うは愛の魔法  作者: 三化月
10/14

映える魔術師

 どこにも光は無く

 また闇も無い

 地に足をつけているような

 水の中を漂っているような

 空中を飛翔しているような

 そんな狭間に住む私は誰にも見つけられないだろう


 魔術詠唱と共に夜の住宅街を進んでいく。今の僕は文字通り空気。誰にも見つけることは出来ない。

 地に足をつけていながら空を飛び、空間を泳ぐ。自らを自然現象へと近づける。

 幾つもの音を置き去りにし、幾つもの音に追い抜かれた。

 数多くの屋根を飛び越え、数多くの星に見守られながら宙を泳ぐ。

 魔術があれば何処でも生きていくことは可能だ。宛なんか無くたってどうとでもなる。けど、そう上手くいかないのが人生ってもので、その事は僕もよく分かっている。だから目の前に父さんが現れても驚きはしないし、魔術詠唱をスムーズに行うことが出来た。


 玩具は玩具箱へ    私は正義

 屍は棺へ       私は法律

 世界が箱で      今この場において

 私が鍵        私が神である

 有るべき姿を取り戻せ


 父さんの魔術の方が速い。僕の魔術は発動と同時に破られて、僕が纏っていた魔法も解けてしまった。地に落ちていく僕を、父は無機質な瞳で見つめた。五点同地とまではいかなくても、体勢を整えるぐらいは出来る。両腕、両脚をついて、額をアスファルトにぶつけた。

 父さんが唱えたのは支配系統の魔術だろう。誰でも使えるわけじゃない高等魔術だ。だけど、それにだって欠点はある。


 予め仕掛けられた魔術、つまりは伏兵に弱いってこと。僕が父さんから逃げるにはこれしかない。

 父さんが現れた時に驚かなかったのだって、準備が整っているからだ。僕が仕組んだのは逆転系の魔術。魔術効果のベクトルを反転させる魔術だ。

 知識だけはあるんだよ。なんたって、稀代の魔術師が教えてくれたから。穴なんてあるわけが無い。間髪入れずに詠唱。


 天の火焰は地に消えた

 罪と罰を閉じ込めたその(かめ)

 決して割れず

 決して朽ちず

 番人と共にある


秘密の箱(パンドラ・ボックス)


 父さんの足元に全てを飲み込む黒いシミが出来上がる。沸騰しているかの如く泡を立てるシミに沈みながらも、父さんは僕だけを見ていた。

 今まで魔術が使えなかったからと言って侮りすぎだよ。


 「それはどうだろう」


 そう言って最後に不敵な笑みを漏らした父。それよりも今は先を急がないと。魔力がもうほとんど無い。 でも行けるところまで進むしかないんだ。父さんに手を上げてしまった以上、これしか道はない。

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