萌える魔術師
僕の悲鳴が部屋に木霊する。僕の家に救急箱が無いことを知って、家まで取りに行ったんだ。お陰でこうして声を荒らげている理由。
魔術が使えればこんな傷・・・。まただ。頭痛が僕を襲う。彼女は心配してくれるけど、僕はその手を振り払って湯沸かし器のスイッチを押した。
「大人しくしててよ」目尻を下げて言う彼女をチラ見して、制服を着替え始める。簡単なジャージに着替え終わる頃には、彼女は冷蔵庫の扉を開けていた。
「電源切ってるから」僕の言葉に彼女は驚いているようだ。カップ麺は無敵。それだけは譲らない。野菜が足らなくなれば適当に買うし、肉が欲しくなればこれも買う。ただそれだけのこと。
カップ麺の包装を破ってお湯を注ぐ。線までお湯を満たせば、後は待つだけ。頭痛がするから少し手間取ったが、そんなものは誤差だ。
数はあるから食べるかどうか聞いても彼女は首を振るだけ。
それよりも本当に頭が痛い。どうなってるのか。頭痛ドメすらないのが悔やまれる。
中々帰らない彼女。どうやら今日は泊まる気みたい。「狼さんが出るよ?」と問えば、「恩返しができるなら本望」と返ってきた。こう返されると困るな。
ひとまず彼女を胸に抱いてみる。強ばった身体が柔らかくなっていくのを感じる。彼女からの抵抗らしい抵抗は無い。これは・・・あれかな?期待してもいいやつかな?
でもここまでだ。魔術が使えればイケメンくんに怯えなくて済むのに。そう思うと同時。猛烈な吐き気が僕を襲う。
胃を掴まれた様な。そんなどうしようもない痛みを抑えることなく、さっき食べたカップ麺と吐き捨てる。彼女が慌ててトイレに近づいてきたので扉を閉めて、鍵をかける。
ダンダン!「大丈夫!?辛くない!」辛いが女性に見せるものでは無い。喉を焼く痛みを堪えて、吐瀉物を眺める。何に満足したのか吐瀉物を流せば、ゆっくりと鍵を回した。
勢いよく引かれる扉。駆け寄ってくる彼女。今の僕はゲロ臭いのによくやるよ。
それにしても、こう、なんだろうか・・・。
今なら魔術が使える気がする。いや、何の根拠もないけど、使えると自覚している。
心配する彼女を他所に、口を濯ぐのも忘れて部屋にこもる。
身を包む月光
それは優しく、気高く、孤独である
その身自身では光を反射せず、唯あるがままにその身を晒す
夜に浮かぶ月は正しく、夜の王者と言えよう
なれば私は賞賛の声を掛け、この身を貴方に捧げるとしよう
僕は直ぐに魔法詠唱を始めた。すると、体に湧き上がってくる何かを感じることが出来た。
これが、魔術。僕は部屋から飛び出して、嬉しさの余り彼女に抱き着いた。「え?え?」と困惑していた彼女が可愛かった。




