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唄うは愛の魔法  作者: 三化月
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力なく地へと還る

 それはある日の夜。街灯に大きな蛾が魅せられていたのをよく覚えている。今日は満月だというのに空には雲がかかり、僕を着飾ろうとはしない。

 そんな夜にふらっと出てみれば、何処からか女性の声が聞こえた。この時間に女性の声が聞こえるのはおかしな事だ。この辺りは住宅が多い割に静かであるから。僕が何を言いたいかと言うと、良くない事が起こってるってこと。


 街灯に照らさた道を避けて、静かに歩きながら耳を澄ませる。・・・また聞こえた。今度は男性のソレだ。

 獲物を待ち構えるハナカマキリの様に。巣を張る蜘蛛の様に。あー、僕の脳は貧弱だ。魔術が使えないのも頷ける。待ち伏せしてばかりで、現状を言い表せる言葉を持ち合わせていない。

 何にせよ、靴を脱いだ僕はそれだけ静かだということが分かればそれでいい。

 少し湿ったアスファルトを踏みしめ、足の裏に刺さる小石に顔を(しか)めながら音の鳴るほうへと向かう。左の手には(こぶし)ぐらいのコンクリート片。右の手にはそれより少し小さいのを何個か。これが気のせいだとイイなと思いながら、現場へと到着した。


 街灯からも離れた、少し奥まった場所。

 目の前では3人の男性が1人の女性を襲っていた。1人が撮影に回っているから女性側も何とか抵抗出来ている。いや、男達が遊んでいるだけか。

 魔術が使えればこの程度。その思いとともにつばを飲み込む。今の僕は魔術師だ。そう思いこめば、掌に収まるコンクリート片が魔道具か何かに思えて来た。


 身を屈めて姿を隠し、撮影している男の背後を取る。

 開始は唐突。女性側が更にピンチになったとかではなく、完全に僕のタイミングだった。

 左手にコンクリート片を握り締め、そのまま撮影している男の頭を殴りつけた。殴った彼の声で僕に気付いたのだろう。他の2人が僕に向き直った。女性は何が何だか分かっていないみたいだけど、別に問題は無い。

 右手に持った小さい欠片を手前にいた男の顔めがけて投げつける。怯んでいる間にコンクリート片を左から右へと移動させ、追撃の1発の頭部へ。そこで女性が逃げ出し、残った男がそれを目で追う。

 するとどうだろう。僕の両脚は気持ちよく男の腹を抉り、互いに地面へと落ちていく。


 その後は僕自身、良く覚えてはいなかった。どうやって帰ったのかも分からない。鏡を見た僕の顔はボロボロで、鼻血は出ていたし、唇も切っていた。不思議と痛みはなく、ただ、帰り道に見た、街灯に大きな蛾が魅せられているのだけが印象に残った。

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