題名回収→魔術詠唱開始
指定された座標には簡単についた。山の中にある廃校舎だったのだが、魔術が使えればバカ正直に登山なんてする必要は無い。今の時間は午前6時。約束の時間まであと6時間はある。本当なら魔力を回復させるために休んだりとした方がいいけど、彼女に何かあってからでは遅すぎる。早いに越したことは無い。
魔術で強化した足で施錠された扉を蹴飛ばし、堂々と校舎内に入っていく。随分と使われていなかったのか、僕が1歩踏み出す度に靴の跡が残る。つまりは、まだ、彼女はここには来ていない。もしくは、ここ以外の入口から入ったことになる。
ここは見た感じ正面玄関だから、まだ来ていないのだろう。僕は教室を1つ1つしらみつぶしに開けていく。
・・・12時になった。約束の時間だ。
教室を全て探したけど彼女は影も形も無かった。それに、今も誰かがこの校舎に足を踏み入れたような気配も無い。
その時だ。グラウンドの方から魔術の気配を感じる。念のために結界を張っておいてよかった。僕は風をきって魔術師へと向かった。
僕をここに呼びつけた魔術師。その人を僕は見たことが無い。父さんの知り合いだろうか。
「誰ですか」
それなりに大きな声で呼びかける。彼の隣には両手首を縛られた彼女が。焦る気持ちを抑えて彼の返答を待つ。
彼は表情を変えずにこう答えた。「魔術学校で校長をしている者だ」。さらに続ける。「君のお父さんに色々と言われてたんだが・・・、よもや彼を閉じ込めるとは思ってもみなかった」。
僕を学校に入れたいのだろう。だけど、それは叶うことはないだろ。僕は自分の魔術の正体について分かってしまった。
「君がその気なら仕方がない。なら、こうしよう。私が勝てば君は学校に入りたまえ。私が負ければ君の好きなようにすればいい」
「もちろん」。それが僕の答えだ。
彼が彼女を後退させるのを待ってから詠唱を開始。
魔術師どうしの勝負において、勝敗は一瞬で決まる。完璧な一手で決まる事もあれば、負ける事もある。 全てはその時の運と実力次第。
月光を纏う 夜空を纏う
我が名は『魔なき魔術』
視認できず空気に溶ける
力なく地へと還る
白色の仮面を被り
黒をその身に宿す
引き裂かれる痛みで
萌える魔術師
引き抜かれる恐怖で
映える魔術師
夜を駆け抜け
鎌を握る
さらば唄おう『我は愛ある魔術師』と
グラウンドを闇が支配し、その闇は僕を着飾っていく。
僕の輪郭はうっすらと曖昧なものとなり、今にも空気に溶けていきそうだ。
彼から飛んでくる魔術が塵と消える。
白の無地の仮面を被り、息を吐く毎に、闇がより深く濁る。
自分の魔術が無効化された事に彼は薄く笑う。
ここまでくるのに随分と時間がかかった気がする。色んな苦労をした。痛みを負った。
だからこそ僕は愛を知り、魔術に目覚めた。
だからこそ今の僕が、こうして自分で誇れる存在でいられる。
僕は夜を駆け、手に出現した鎌を振った。




