91.山ヤドリギの採取 ②
桟道は歩くには十分だが、弓を引き絞るには狭い。肘が岩壁に当たってしまう。
桟道の中ほどに、荷籠を置くための張り出しが谷側へ少しせり出していた。板が谷側へ三枚ぶん多く張り出しているから、弓を向けても引き絞る余裕がある。
コニーはそこに立ち、エスは一つ先の支柱のところで、崖肌から伸びたトネリコに向かい合い。さっそく小さな鋸を動かし始めた。
何度か鋸を引いたところで、谷側の下から羽音が聞こえた。
「なに!?」
コニーが視線を落とす。
桟道の下から、血を擦りつけたような赤褐色の羽をもつ鷹が二羽、せり上がってくるのが見えた。桟道の谷側、コニーたちの足元より低い位置を二羽で並び、こちらへ向けて高度を上げ始めている。
「エスさん! 血紅鷹です。二羽!」
エスは谷側へ顔を向ける。
「あちゃあ。巣か。まいったな。二年前はなかったのにな」
一羽目が先に上がり、谷側からコニーの顔の高さすれすれを横切る。
コニーは身を引いたが、その一羽はコニーを追わなかった。
向こうから、もう一羽がせり上がる。二羽目はそのまま、進行方向にいるエスへ向かっていった。
コニーは短弓を構えた。張り出しの外へ向けて弦を引き絞り、矢を放つ。
矢は、二羽目の翼の端をかすめた。
血紅鷹は姿勢を崩し、エスの傍を抜ける。そのまま高度を落とすが、谷底へ逃げきることなく、激しく翼を打って空中で立て直してしまった。
その間に、コニーをかすめた一羽目が進路を変え、岩壁寄りへ回り込んでいた。岩壁すれすれを、エスめがけて飛んでくる。
「あっ、やば、エスさん!」
コニーは弓を持ち上げた。
鳥はエスの向こう側、岩壁すれすれのところにいる。このまま射ればエスに当たってしまう。
コニーは張り出しの外側へ一歩出て身を乗り出した。エスは射線から外れたが、今度はその先の木製支柱で遮られてしまう。
もう少し前へ出れば狙える。だが、そこはエスが立っている。二人が同時に立てば、桟道は保たないかもしれない。
血紅鷹はそのまま岩壁とコニーの間へ入ろうとした。
「だめーっ!」
コニーの脇を通ろうとしたところで、コニーは短弓を突き出した。弓身が胴へ当たり、血紅鷹の進路が逸れる。
鷹は岩壁へ翼をぶつけ、姿勢を崩して谷へ落ちていったが、すぐに羽ばたき直すのが見えた。
その間に、先ほど矢をかすめた方が再び上がってくる。
今度はコニーに突進するように飛んでくる。
「こ、こっちくる!」
「頑張って~。あと半分くらい」
「は、はいっ!」
コニーは矢をつがえて、ジッと待った。
血紅鷹が距離を詰め、突入する直前に翼をわずかに畳む。
射る。
矢が翼へ浅く刺さった。鷹は空中で姿勢を崩すが、止まらない。コニーの肩口をかすめ、そのまま抜けていく。
コニーは振り返らない。さっき岩壁へぶつけた方がすでに飛び直し、コニーの前まで戻ってきている。
――まだ来る……!
その一羽が、正面からコニーの顔めがけて飛び込んできた。
背後でもばさばさやかましく羽音が聞こえる。矢傷を負った一羽が、旋回を終えて戻ってこようとしているらしい。
コニーはまず正面の一羽へ矢を番え、放った。
外れた。
「もうっ! わたしのヘタクソ!」
血紅鷹は矢をかわし、そのままコニーへ突っ込んでくる。
コニーは身を沈めた。
背後から来た一羽が、すぐ頭上を抜ける。
その先で二羽がぶつかりかけた。片方が谷側へ身を翻し、もう片方がその上へ跳ね上がる。
コニーはしゃがんだまま新しい矢をつがえながら叫んだ。
「エスさん! 今ちょっと余裕あります!」
エスがますます小鋸の動きを速め――ばき、と枝が落ちた。
「取れた!」
コニーは立ち上がる。二羽はすでにそれぞれ旋回を終え、またこちらへ向きを定め始めていた。
「じゃあ、帰りましょう!」
「うん」
エスは布袋の口を縛ると、隣の株にはもう目もくれなかった。
二羽がまた飛んでくる。
コニーは張り出しから一本放った。矢は外れたが、鷹は身を翻して谷側へ逸れる。
その隙にコニーが戻り、空いた張り出しへエスが入った。
そこからは、来たときと同じ間隔で下がっていく。
コニーはもう矢を射たなかった。鳥が寄ってくるたび身を突き出して追い払う。数歩離れたところで、二羽は追ってこなくなった。
二人はそのまま山道へ戻った。
*
「ふーっ。なんとかしのげましたね!」
コニーは肩を回した。狭い張り出しで無理に弓を構えていたから、腕が変に強張っていた。
エスは採取した袋を見下ろす。
「ねえ、次に行くときも、頼んでいい?」
「いいですよ。お仕事なら!」
「うん、もちろん」
夕方。冒険者ギルドへと戻った二人は、窓口で帰還の報告を済ませた。依頼の達成手続きは滞りなく終わった。
「あ。ヘイスローさん。今回の仕事で、実績数が条件に届きましたよ」
「何のですか?」
「橙等級への昇級試験です。試験といっても、いろいろお話を伺うだけなんですけど」
「ほんとですか!?」
「はい。もう申し込めますよ」
「受けます!」
コニーは前のめりになって答えた。




