89.だから、なんで?
護衛組合までは遠くない。アルヴェインは足早に歩き、オウルはその横をぶらぶらついていった。
護衛組合の詰所へ入ると、奥の机に、ガレウス・ドランベルクがいた。その手前には、オウルにとっても見覚えのある男が地図を広げている。
「お。トッドじゃん」
「なんでお前がここにいるんだよ」
トッドは嫌そうな顔をしたあと、その隣にいるアルヴェインに気づいた。
「少し相談がありまして」
ガレウスの視線が、オウルへ移った。
「ろくでもない相談だろうな」
「彼に、護衛組合へ所属してもらう案を考えています。とはいえ、こちらで決められることではありませんし、まず受け入れが可能か伺おうと」
オウルはもう窓のほうへ身体ごと向け、外を眺めていた。
「どういうことだ、ダウングリーン」
「なんか、おれを見つけやすくしたいんだってさ」
オウルは外を見たまま答えた。アルヴェインは否定しない。
ガレウスはアルヴェインへ視線を戻した。
「先の招集で、必要な探索者へ連絡を取ろうにも、町にいるかどうかさえわからない者が多いとわかりまして」
アルヴェインは、内容を手短に説明した。
急に人手が必要になったとき、探索者が町にいるのかどうかもわからない。そこで、どうやったら連絡をつけやすくなるかと、そこのオウル・ダウングリーンにいろいろと提案をしてみたが、どうにも話がまとまらない。
トッドが呆れたようにオウルを見た。
「おまえ、何を断ったんだよ?」
「週一でギルドに来いとか、使う宿を提携先の二、三件に絞ってほしいとか」
「やれよ、それくらい。別に損しねえだろ」
オウルは窓枠にかけていた手を離して、トッドを振り返った。
「だってさぁ、わかんねえだろ?」
「週一なら顔くらい見せるだろ。宿だって安くなるんだからいいじゃねえか」
「まあ、そうだけどさ」
「じゃあできるって言っとけよ」
「なんで? わかんねえじゃん」
「そりゃあできねえときもあるさ。しょうがないだろ」
「なら駄目だろ」
「いや、駄目ってほどでは……」
そこでトッドはアルヴェインを見る。アルヴェインは小さく頷いた。
「先ほどもだいたいこの辺りまで話しましたが、結局まとまりませんでした」
「よくここから護衛組合に押し込もうと思ったな」ガレウスは両腕を組んだ。
「まあいい。だいたいわかった」
ちらりとオウルを見る。
「腕の話なら問題はない。だが、組合員にする話なら、前にもしたことがある」
「肌に合わねえんだよなぁ、ここ」
「俺もそれでいいと言った」
アルヴェインが二人を見比べる。
「戦力として不足があるわけではないでしょう。なぜ――」
「ロスカ」ガレウスが遮った。
「ダウングリーンを護衛組合へ入れたいのか。それとも、必要なときに首根っこを掴んで働かせたいのか? どちらだ」
「人聞きの悪いことをおっしゃる。どちらかと問われたら、後者に近いでしょうね。必要なときに仕事を頼める状態にはしておきたい」
「なら、普通に仕事を頼めばいい。押し付けることさえできれば、多少の無理は利くぞ」
「受けねえときもあるぞ」オウルが口を挟む。
「ですがそれでは、今回の問題は解決しないんです。どこにいるかわからなければ、仕事を持ちかけることもできませんから」
そこでトッドは納得いかなそうな顔になった。
「おまえが週一で顔出せるって言うだけで済んだのにな」
「だから、わかんねえって」
ガレウスが息を吐いた。
「違うだろう、ロスカ。お前が知りたいのは、急に人手が要るとき、声をかけられる戦力が何人いるかだ」
アルヴェインは少し考えた。「……そうですね」
「では、ダウングリーンは一度放っておいて、他から当たればいいだろう」
少し間が空く。再び口を開いたのはオウルだった。
「緑等級なら、そこにいるトッドもそうだぜ。こいつなら報告もマメにするんじゃねえの?」
「なんでお前はできねえんだよ」
「さあ」
「では、護衛組合に加入している人から始めるとしましょう。――トッド・モスバンク」
「なんだ?」
「明日の朝から日没まで、ニックブレードを離れず、こちらから呼び出したらすぐ動けるようにしてほしい。そういう条件の仕事なら、受けますか?」
「報酬次第じゃないか。週一で顔出せって話なら、別にそれでもいいぞ。ついでだからな。何曜日って決められると困るけどな」
オウルは眉を寄せ、まじまじとトッドを見た。
「一日待ってるだけ? それって面白いのか?」
「面白い必要あるか?」
「あるだろ」
「……先に、あなたに話すべきでしたね」
アルヴェインは疲れたように言った。




