↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ギルドは公平で健全でうさんくさい  作者: 遠野 文弓
冒険者ギルドの招集

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/95

70.命令に従え

 探索者らは、五人ずつ三つの班へ分けられた。

 一班は街道の西側、一班は東側、残る一班は北門に近い場所を受け持つ。それぞれに護衛組合員が一人ついた。


 オウルが入れられたのは西側の班だった。古い荷車道の分岐を中心に、街道と牧草地の境を受け持つらしい。

 責任者――班長は四十歳ほどの男で、鎖帷子を身につけ、丸盾と短い槍を持っている。


 班長は全員を集め、まず周囲の地形を示した。


 北門からは、街道が真っ直ぐ北へ延びている。東には一段高い畑があり、その縁を石垣が囲んでいた。

 西には浅い排水溝が走り、その向こうの牧草地を木柵が囲んでいる。

 門から八十歩ほど北には、南西へ分かれる古い荷車道があった。そこだけ木柵が途切れ、排水溝を渡る石敷きと、旧道を塞ぐ簡単な木戸が残っている。

 さらに北へ進むと、街道は森に入る。


「魔物を見つけたら角笛を吹け。少数なら、町へ近づけないよう追い払っていい。ただし、数が多いと判断したら手を出すな。持ち場を離れず、角笛を鳴らして次の指示を待て。森へ逃げたものも追うなよ」


 そう班長が説明を終えると、弓を持った女が口を開いた。


「それで、倒した魔物の素材は、誰のものになるんだ?」


「勝手に解体するなよ」


「ええ? 倒した奴のもんじゃないのかよ」


「あとで市政庁が扱いを決めるそうだ」


「そんなの待ってたら腐っちまうよ」


 ぶつくさ言う弓の女を尻目に、別の男が口を挟んだ。


「報酬は日当だけか?」


「それも市政庁へ聞け」


「何も決まってねえじゃねえかよ」


「魔物が待ってくれるわけでもないだろう」


 班長は淡々としている。同じ説明をすでに何度も繰り返しているらしい。

 オウルは何も質問しなかった。旧道の分岐から少し南へ離れ、街道脇で森のほうを眺めていた。


 探索者たちは不満そうな顔を揃えてこそいたが、ひとまず指定された場所へ各々散った。



 見張りが始まっても、しばらくは何も起きなかった。

 北門へ入る荷車が、ときどき街道を通る。北側の農家から戻ってきた者たちだった。


 昼を過ぎた頃、森の上から鳥の群れが飛び立った。

 初めは一群。少し遅れて、別の場所からも鳥が上がる。鳥は森から離れるように、西や南へ散っていった。


 オウルは短槍を持ち直した。

 近くにいた探索者たちも、黙って森へ目を凝らす。


 バキリ、と枝の折れる音が聞こえた。

 一か所ではない。街道の正面と、その東西から、ばらばらに音が近づいてくる。


 最初に街道へ飛び出してきたのは、狼だった。

 二匹がほとんど並んで森を抜け、南へ走ってくる。こちらへ目を向ける余裕もないらしく街道を駆けていた。

 遅れて、東側の茂みから山蜥蜴が一匹這い出す。


 その後ろから、甲高い笑い声が聞こえた。

 ゴブリンだ。

 五匹ほどが茂みをかき分けて現れる。一匹が石を拾って山蜥蜴へ投げた。石は背中へ当たって山蜥蜴が大きくよろめき、それでゴブリンたちが笑った。


 別の一匹は短い槍を持ち、逃げる山蜥蜴の後脚へ穂先を伸ばしている。仕留めようとしているというより、嬲るついでに逃げる方向を変えて楽しんでいるようだった。


 角笛が鳴った。


 先頭の狼は街道をそのまま走ろうとしたが、北門の前に警備兵が並んでいるのを見ると速度を落とした。

 古い荷車道の分岐で、一匹が西へ逸れた。石敷きの上を走って排水溝を越える。その先は、木戸で塞がれていた。

 狼は木戸の前で止まった。その向こうには、草に埋もれた道が南西へ続いている。牧草地へ入ろうと木柵沿いに走ったが、抜けられる場所はない。そうしているところへ、ゴブリンが街道を横切って追いついてきた。

 山蜥蜴は反対に東へ向きを変えたが、一段高くなった畑の石垣に突き当たった。壁沿いに少し進んだあとは、やはり街道へ戻るしかない。


 獣は行き場をなくしていた。

 南には北門と警備兵がいる。かといって戻れば、後ろにはゴブリンがいる。

 そのあいだにも、後ろから続々と獣や魔物が森を出てくる。


「あいつら、別に町へ入りたいわけじゃねえんだな」オウルが言って、旧道の木戸を指した。

「あれ、開ければいいんじゃねえの?」


 班長も西側を見た。


「あの道はどこへ出る?」


「石切り場の近くだよ」近くにいた弓使いが答えた。「町の西を回って、南西の農道に出るんだ」


「避難には使ってないのか?」


「そこまでは知らないね。普段なら、荷車もほとんど通らないけど」


 班長は、門のほうにいた伝令を呼んだ。


「本部へ確認を取れ。南西の旧道を避難に使っていないか。それと、西側の木戸を開けて魔物を追い払っていいか聞いてこい」


 伝令は走って北門へ向かった。


「返事が来るまで待機だ。誰も柵へ近づくな」


 その時点で、先頭の狼は北門まで七、八十歩ほどのところにいた。

 だが、伝令が門へ向かっているあいだにも、その距離は縮まっていく。森から出てくる数も増えており、大穴熊らしい黒い獣まで見えた。


「伝令が戻るまで、どれくらいだ?」


「すぐだ」


 班長はそう答えた。

 そのあいだにも、先頭の狼は街道を南へ進んでいる。さっきまで北門から七、八十歩は離れていたのが、もう五十歩ほどしかない。


 旧道には、後から来た狼や山蜥蜴が次々と入り込んでいた。だが、柵に阻まれて獣が詰まり、さらに後ろから押されて、何匹かが旧道の入口から街道へあふれ出した。

 押し出された獣は、ゴブリンを避けるように南へ向かう。

 狼どもが、低く唸り始めた。


「おい」


 棍棒を持った男が、オウルへ声をかけた。


「木戸を開けたら、本当に西へ抜けると思うか?」


「まあ、たぶん」


「はっきりしねえな」


「やってみなきゃわかんねえよ」


 棍棒の男は、魔物を見た。狼が柵沿いを行ったり来たりしている。先頭の狼は、もう北門まで三十歩もない。

 弓使いの女は、柵の向こうの古い道へ目を向けた。


「柵を開けるだけなら、すぐできるんだけどねぇ」


「持ち場を離れるなよ」


 班長が強く言ったが、誰も返事をしなかった。

 そのとき、北門に近い場所から声が上がった。


「戻れッ!」


 別の班の探索者が一人、持ち場を離れて街道の中央へ出ようとしていた。近づくゴブリンへ石を投げようとしたらしい。

 そちらの班についていた護衛組合員が、男の腕を掴んで引き戻す。


「いま追い払えばいいだろ! ゴブリンは五匹だぞ!」


「後ろを見ろ! 数が多い場合は手を出すなと言ったろうが!」


 そのやり取りを聞いて、ほかの探索者まで口を挟み始めた。


「門まで来てからじゃ遅えよなァ」


「西を開けりゃいいんじゃねえの?」


「命令を待て!」


「その命令はいつ来るんだよ」


 班長は何か答えたが、周囲の声にかき消された。オウルはそれを聞きながら、短槍を肩へ担いだ。そして、散歩にでも出かけるような気軽さで言った。


「じゃ、おれは行くぜ」

「待て! これは命令だ!」

「わかった」


 オウルは素直に頷いて――そのまま柵へ向かって歩き出す。


「おい!」

「ついてこいとは言わねえよ!」オウルが言い返す。


 棍棒を持った男が、そのあとへ一歩踏み出す。

 弓使いの女も少し迷ってから、弓を持ったまま柵へ向かった。

 隣の班にいた探索者が二人、迫ってくる魔物とオウルを見比べてから、相次いで柵のほうへ走り出す。


「戻れ! 持ち場を離れるな!」


 班長が怒鳴る。

 オウルは知らん顔で、木戸を留めている横木へ手を掛けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。