69.徴用の建前
セロウは、支援会の中央を指した。
「お二人とも、次はあちらで配置を決めてもらってください」
オウルは面倒そうに少し考えるそぶりを見せたが、言い返さなかった。
中央の長机には、町周辺の地図と冒険者ギルド名簿が広げられており、護衛組合員が、支援会の職員から登録者の情報を聞き取っていた。この状況下で、列に並べと命令したところで、素直に従う連中ばかりではないからだろう。
ほどなく、斧を背負った男が声を張り上げた。
「なんで俺が荷運びなんだよ!」
男の首に下がっている登録証は、橙等級――下から二番目――だ。護衛組合の職員は、男の右手首に巻かれた包帯を指した。
「その手で斧を振れるとでも?」
「振れるとも!」
「それでも、北門には出さん」
その横では、二人の探索者が一枚の盾を取り合っていた。
「俺が借りたんだ!」
「金を払ったのはこっちだろ!」
「ツケを払っただけだろうが!」
盾の縁を二人が左右から引っ張り、机へぶつけた。積み上げてあった紙がばらばらと床へ落ちる。
それを見て、セロウが怒鳴った。
「やめなさい!」
別の場所では、赤等級――色の序列でいえば最下位――の男が北門へ送れと職員へ詰め寄っている。
誰をどの班へ入れるか相談する声が絶えず聞こえていた。登録者を呼ぶ声、断る声、苦情、怒鳴り声、机を叩く音が重なっている。
――毎日のようにいざこざを起こすろくでなしどもを管理できると本気で思っているのなら、とんだおめでたい話だ。
今、そのろくでなしどもを、市政庁と護衛組合が名簿に従って整然と並べようとしている。色分けして、規則への同意を取りさえすれば、決められた仕事をするものだとでも思っていたらしい。
登録以前から探索者だった者たちは、自分で仕事を選び、自分で仲間を選び、自分で危険を判断してきた。
一件の仕事を終えるだけでも、何かしら問題は起きた。
それを今日は、数十人まとめて動かそうとしている。
セロウは床に散らばった書類を素早く拾い上げてから、盾を挟んで揉めている二人に鋭く言った。
「二人とも、やめなさい! 盾はいったん預かりますからね!」
盾を引っ張っていた二人が、揃って不満の声を上げる。セロウは書類をテーブルの上に叩きつけてから、いとも簡単に盾を引き抜いてしまう。途端、互いに反対側へ力をかけていた二人は、そのまま尻もちをついた。
セロウは、取り上げた盾を床にどん、と立ててから、二人を見下ろした。
「嫌なら市政庁へ直接文句を言いなさい。いいですね」
二人は不満そうな顔のまま、しぶしぶうなずいた。
「セロウも戦力になるんだけどなあ。ミラもだが。それを、こんなところに押し込めなきゃならねえとはな」
オウルがぽつりとつぶやくのを、コニーは隣で聞いていた。
やがて、コニーのもとにも職員がやって来た。赤等級の登録証を見てから、いくつか質問をする。
怪我はあるか。使える武器は何か。負傷者を扱ったことはあるか。馬に乗れるか。町の地図は頭に入っているか。
一通り答えると、職員はコニーの割り振りを決めたようだった。
「お前は西倉庫の市内救援班だ。避難所へ水と食料を運ぶ。怪我人が出たら治療所まで付き添え。戦闘が起きた場合は、護衛組合員の指示に従うこと」
「わかりました。そのまま西倉庫へ行けばいいんですか?」
「そうだ。腕章をつけている者に登録証を見せろ」
コニーは素直に頷いた。
その間に、オウルの隣にも職員が立ったので、オウルはほとんど呆れ顔で視線をやった。職員はオウルの短槍と革の胸当てを見て、登録証を確認した。
緑等級――上から四番目。この中では最上位と呼んで差し支えない色。
職員はすぐに断言した。
「北門外の警戒班へ入ってもらおう」
オウルは露骨に嫌そうな顔をした。
「ええ? 前線かよ。帰ってきたばっかりなんだけど」
「戦闘慣れした緑等級を、ほかにどこへ置けというんだ」
「謹慎中だけど」
「指揮を執るのは護衛組合だ」
「それは聞いたけどさぁ……」
オウルは周囲を見回した。
北門へ送られることになったらしい男が、報酬の額を聞いて護衛組合員と揉めている。その隣では、兄弟だから同じ班へ入れろと二人組が訴えていた。
「まあいいや。せめて飯くらい食わせろよな」
「北門で支給される」
「うまい?」
「知らん」
「嫌だなあ」
オウルのぼやきを職員は気にも留めず、配置票へ書き込んで差し出した。
オウルはしばらく紙を見ていたが、最後には受け取った。
「わかったよ。しょうがねえなあ」
それからコニーへ顔を向けた。
「じゃあな」
「はい。お気をつけて!」
「そっちもな」
二人はそれだけ言って別れた。
セロウは、北門へ向かうオウルの背中を見送った。
謹慎中の者について、市政庁の徴用だからと押し切る理屈に、ほんの少し渋っただけだった。割り振りには素直に従ったあたり、今日のオウルは扱いやすいほうだった。




